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『フリーエージェント社会の到来』 [☆☆☆]

・大勢のアメリカ人が──そして次第に他の国の人々も──産業革命の最も大きな遺産のひとつである「雇用」という労働形態を捨て、新しい働き方を生み出しはじめている。自宅を拠点に小さなビジネスを立ち上げたり、臨時社員やフリーランスとして働く人が増えているのだ。

・オーガニゼーション・マンは、野蛮な個人主義に陥ることなく、高望みせずに、悪くない給料とまずまずの年金、そして自分と限りなくよく似た人たちの住む快適な地域社会にそこそこの家を与えてくれる仕事に就こうとする。

・大勢の個人を常に戦力として抱える固定的な大組織は、戦力が常に入れ替わる小規模で柔軟なネットワークに取って代わられようとしている。

・オーガニゼーション・マンの時代には、仕事とはいわば「共通サイズ」の既成服だった。身につける服は、肉体労働のブルーカラーか、事務労働者のホワイトカラーのどちらかだった。しかし今日では、テクノロジーの進歩、経済の繁栄など様々な要因により、仕事という洋服の「サイズ」はひとつではなくなった。大量生産から手づくりへ、既製品からオーダーメードへの変化が起きている。

・臨時社員化の拡大は明るい面ばかりではない。しかし、フリーエージェントの台頭に最も強く抵抗しているのは、組織に雇われずに働いている人たちではなく、多少なりとも古いルールの恩恵を受けて現在の地位を得ている人たちだ。

・組織に勤めない人が多くなっているというのは、創造的で果敢な人間が増えている証拠というよりは、就職することのできない悲惨な人間が多いという証拠に過ぎない。

・フリーエージェント・ネーションでも、忠誠心はなくなっていない。忠誠心のあり方が変わっただけだ。個人が組織に示すタテの忠誠心に代わって、新しいヨコの忠誠心が生まれつつある。

・多くのフリーエージェントは、仕事と家庭を両立させることを放棄するという、まったく新しいアプローチを取っている。仕事と家庭の境界線を曖昧にする──つまり「両立」ではなく「一体化」が彼らの答えなのだ。

・ある調査によると、自宅ベースのビジネスの半分は、メンテナンス(清掃、建設、修繕など)とビジネスサービス(データ処理、グラフィックアート、会計など)の2つの分野に集中している。

・アメリカの貧困家庭は概して、現在の西ヨーロッパの大半の国民や25年前のアメリカ人よりも、近代的な家電製品を持っている。

・鳥かごの中に閉じ込められていても、かごの外にチャンスがあまりなければ我慢できるかもしれない。しかし、かごの外にチャンスがいっぱいあれば、鳥かごは刑務所に等しい。

・「高度な技能が求められる仕事を自由に与えると、その人の自我は豊かになる」のに対して、「高度な技能が必要でない仕事を強制されてやらされる」ほど気が滅入ることはない。

・極端なまでに会社への忠誠心を示すことを要求する企業もある。そうした企業カルトには、カルトの特徴である「献身」「カリスマ的指導者」「家族からの隔離」といった傾向が見られる。

・どう行動するかをいつも会社が教えてくれる世界、すなわち、社会が次のステップを指図して、エスカレーターに乗せてくれる楽な世界では、自分の弱みや失敗に直面することがないだけでなく、自分の強みを知ることもない。

・マルクスの資本主義批判の中核をなしているのは「疎外」という概念だ。マルクスによれば、工業経済の弊害は、労働者と労働を切り離すという非人間的な状態を生み出すことである。「きみたちはもはや自分自身ではないのだよ、同志」と、マルクスは労働者に警告していたのだ。

・組織を「最適化する」ということは、とりもなおさず「個人を犠牲にする」ことだ。

・企業で働く人たちは、自分にはその職に就いている資格があるという意識こそあれ、いい仕事をしようという意欲はない。つまり、禁治産者のようなものであって、責任ある独立した市民とは言えないというわけだ。

・従来は、労働者と市場の間には組織が存在した。その結果、怠け者やぐうたら社員は能力や仕事の中身以上の給料を受け取り、仕事熱心な社員やクリエイティブな発想の持ち主は仕事に見合うだけの給料をもらっていなかった。働き者の社員が怠け者の社員に補助金を与えているに等しかったのだ。

・会社員と違って、フリーエージェントは自分に対する評価をすぐに知ることができる。仕事の依頼を受けたフリーエージェントが1万ドルという料金を提示したのに対し、依頼主が7000ドルを提示してきたとすれば、これが市場の評価だ。

・必ずしも「大きいことはいいこと」ではない。自分にとっていいことこそ、いいことなのだ。出世や金など「共通サイズの服」の基準で成功を目指す時代は終わった。自由、自分らしさ、名誉、やり甲斐など、「自分サイズの服」の基準で成功を目指す時代になったのだ。

・成功したと言えるのは、朝起きて、自分のやりたいことをやれる人だ。

・くだらない仕事を見事にやり遂げたとしても、それは本当の業績とは言えない。私がよく言うのは、「やる価値のないことには、立派にやり遂げるだけの価値はない」ということだ。

・時代は変わった。今の時代に、組織に勤めていて、サイドビジネスをしようとしなかったり、起業のためのビジネスプランをつくったり、脚本家を目指してシナリオを書いたり、eベイでものを売ったりしていない人は、現実を見ていないと言われても仕方がない。

・忠誠を誓っても安定が保障されない以上、忠誠心などというものはよく言って慈善行為、悪くすれば愚行でしかない。

・顧客は、労働者という人間を買っているわけではない。金を払って、その能力を借りているのだ。

・ニューエコノミーの最前線では、時間に関する不満は、単に労働時間が長いということだけではない。時間を自由に使えないことに、人々は不満を感じはじめている。

・雇用主にとって、労働者に金を払うというのは、とりもなおさずその人の時間を買うことだった。雇用主の目指すところは少しでも安く時間を買って、そこから少しでも多くのものをしぼり取ることにあった。

・古いやり方が、年に50週働いて2週間休むというものだったのに対して、可能な限り休暇を取り、必要なだけ仕事をするのがフリーエージェント流だ。

・過半数の56%は、知り合いを通じて今の仕事を見つけたと答えた。これは意外なことではない。誰もが知っているように、ドアの内側に入る一番いい方法は、中にいる人にドアノブを回してもらうことなのだ。

・親しい友人はただの知り合いより力になってくれる可能性は高いが、問題は、力になることのできる立場にないことが多いということだ。

・私たちが人類に進化したのは、ご先祖様が義理というネットワークを大切にして、食べ物と技術を分け合うようになったからだ。進化生物学者によれば、ほとんどの動物は「互恵的な利他主義」のおかげで生き残っている面があるという。

・本当の力は、独り占めすることではなく、分かち合うことから生まれる。情報を欲しがるだけで、自分は何も提供しようとしない人間は、相手にされなくなる。他人の血を吸っているだけだとわかれば、その人間は追放される。与える者が勝ち、受け取るだけの者は負けるのだ。

・ほとんどの人が気づいていないのは、スターバックスは消費者向け飲料ビジネスの企業ではないということだ。実態を見れば、事業用不動産ビジネスの会社と言った方がいい。大勢のフリーエージェントにとって、コーヒーショップはオフィスとして機能しているからだ。

・大組織に支配されている世界では、金融資本が経済の最も重要な資源だったと言っていいだろう。高層ビルや巨大な機械の費用をまかなうためには、莫大な金が必要になる。しかし、力の所在が組織から個人に移るにつれて、経済の最も重要な資源は、金融資本ではなくなってきているようだ。いま最も不足していて、最も貴重な資源、それは才能であり、人材だ。

・会社だと、オフィスで暇にしている人が3人いれば、次に仕事が入ってきた時に担当するのはその人たちということになる。つまり、一番手近にいる人間のところに仕事が行く。しかしそれは、必ずしも一番適任の人物とは限らない。

・仕事の世界には2種類の人間が生息している。「セグメンター(区別する人)」と「インテグレーター(一緒にする人)」だ。セグメンターは、家庭と仕事の間にはっきりした揺るぎ無い境界線を引く。インテグレーターはその反対。

・家族企業が世界で最も普及している企業形態であり、すべての働き口の約6割を生み出している。

・実体験を通じて、顧客が一度に大きな金額を払いたがらないことを知っていた。金利を払ってでも、分割払いで少しずつ払いたがる顧客が多かった。

・劣悪な労働条件を強いられている臨時社員を「テンプ・スレーブ(臨時社員奴隷)」と呼ぶ。

・今日、職場における不平等を生み出しているのは、その人が会社員であるかフリーエージェントであるかではない。不平等を生むのは、需要のある技能を持っているか否かの違いであり、新しい人材市場における交渉力を持っているか否かの違いなのだ。

・工業経済の時代には、年を取って曲がった背中は大きな負債だったが、知識経済の時代には、年輪の刻まれた脳ミソは大きな財産だ。

・学校以外に、20年前、30年前、40年前とほとんど変わっていないものなどあるだろうか? 学校の教室を訪れて感じた甘美なノスタルジーは、実は停滞の悪臭だったのかもしれない。

・卒業証明書は、いまやかつてのような「品質保証書」としての価値を持たなくなってしまった。

・社会全体にとっても、オフィスに出勤して働くというシステムは無駄が多すぎるとも言える。オフィスは1日の半分空っぽで、家は1日の半分空っぽだ。そして、人々は莫大な時間を費やして、車や電車、バスなどで自宅と職場を往復して、道路を傷め、空気を排気ガスで充満させている。

・資本(キャピタル)のない資本主義(キャピタリズム)は単なる「主義(イズム)」に過ぎない。

・私たちの乗る自動車は、法律で保険をかけることが義務づけられているのに、肝心の自分が保険に入っていないなんて、情けない。

・もっと税制を簡単にすべきだと思う。わざわざ税理士に依頼しないと確定申告できないなんて、どうかしている。

・デルコンピュータの在庫が5日分しかないと知って、証券アナリストが同社の「弱点」を見つけたと主張するようなものだ。もちろん、デルの在庫が少ないことは弱点などでなく、むしろ新しいビジネスの方法であり、どこに同社の強みがあるのだ。

・大半の政治家は、斜陽の古いグループにこだわり続けて、上げ潮の若いグループを黙殺している。

・経済の新しい生態系では、たくさんの象ともっとたくさんのネズミが活躍し、その中間サイズの種は滅んでいくのだ。

・ひとつの企業の内部で取引を行なった方がコストが安ければ、企業の規模は大きくなる傾向がある。オープンな市場で外部の独立した相手と取り引きした方がコストが安ければ、企業の規模は小さいままだったり、さらに小型化する傾向がある。

・中間管理職は「人間メッセージ交換機」であると言ったが、コンピュータネットワークや電子メールの普及により、そうした役割も不要になりつつある。

・女の子たちの間でいちばんステイタスが高いのは、誰よりも強い子ではない。いちばん大勢の子と仲良しな女の子だ。それも、他の子との関係が双方向的なものである方がなおいい。

・日本の労働社会の仕組みやルールは、「正社員」を前提に作られている(なにせ、正社員は「正しい」社員なのだ。派遣社員やパートタイマーは、現状のルールの中では「正しくない」のだ)。

・たまにしか会わないけれども、会えば何でも心の底から話し合える友人・知人の存在。それがウィークタイズ(弱い絆の力)である。

・情報分野であれ、介護福祉であれ、これから成長が期待される分野に共通することがある。それは「与えた者が与えられる」という事実だ。インターネットでは、情報を発信する人に、情報が集まる。介護では、癒す人が最も癒され、ケアする人がケアされる。

・夢を持てと、表現することが許されるのは、勝者、成功した人であるという暗黙のルールがある。



フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか

フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか

  • 作者: ダニエル ピンク
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2002/04
  • メディア: 単行本



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