SSブログ

『赤の女王の名の下に』 [☆☆]

・この国では万物に──長生きした猫や縫い針、ガスコンロ、便所にすら神が宿る。マンガ家やプロ野球選手が神と呼ばれ崇め奉られるのだから、神格を得るのはたやすいことだ。

・百年前の科学は大体間違っていたわけですが、どうして今現在の科学が最も優れているなんて信じることができるんでしょうか。この先五十年、百年経ったら常識なんてものは全く変わっているかもしれないのに。

・環境とは地形や気候、CO2や汚染物質の濃度のことではないんです。イワシにとってはマグロやサメやイルカに追い回されることが、「環境」です。

・サメが速く泳ぐほど、イワシが速く泳ぐことに意味はなくなっていく。その分イワシがどんな進化を遂げるかというと、足並みを乱すような極端に速い奴や遅い奴が淘汰されて大多数の平均に合わせて泳げるものばかりになり、群れの編隊が洗練されて撹乱されてもすぐに列を立て直し、卵を産む数が増える。

・生きていくのに必要な知識以外、その他のことなど知らなくていいというのは、女は家に籠もっていろという戦前の男尊女卑と同じではないか。人間を家畜化する言葉だ。

・義務教育というのはな、向学心を抱くきっかけを自分では見つけられない人間に、とりあえず文明人として最低限の知識を与えて品質保証番号を印刷することだ。

・「働かざる者食うべからず」というのは国民に労働を強いて所得税を巻き上げるための方便だ。

・探偵小説には部屋に閉じこもって学問に淫し、先祖の遺産を食い潰している奴が何人もいる。ディレッタントは浪漫だ! 私だってなれるものならなりたい。

・大人になったのか涙もろくなったのか、心が弱くなったのか。

・普段から人を殺したいと口走っている奴でも、真性の快楽殺人鬼かどうかを見抜くのはベテランの精神科医でも難しい。それをいちいち警察に言いつけて何とかしようというのは、表現の自由を制限することに他ならない。

・信じている神はキリストでも創造主でも旧神(エルダー・ゴッズ)でも名状しがたき外宇宙の神々でもなく、ただ一柱、天神・菅原道真だ。

・冤罪撲滅のために戦っている弁護士ならともかく、先祖代々の資産家が路上に座り込んでいる不良少年の人権のことなど考えるはずもない。

・何せよくも悪くも百年に一人しか生まれないような人間だ。──今から思えば確かに普通ではなかった。

・プラチナは磨きに出せば元に戻る。貴金属の美しさは永遠だ。人間とは違う。

・この世で最も完全な犯罪は、遺体を見つけさせないことだ。遺体が変死状況でなければ、それだけで犯罪ではなくなる。

・悲しいことに世界平和は必ずしも、個人の幸せとは結びつかない。

・闇によって魚が弱視になったのではなく、盲目の魚が闇に守られて生き永らえたのだ。

・夢は脳のエラーチェックであり、デフラグである。いらない記憶を消去して整理する。

・チェスでは最弱の「歩兵(ポーン)」も最後の升目まで到達すれば、最強の「女王(クイーン)」に昇格できる。努力は必ず報われるはずだ。

・進化論というのは推理小説に似ている。現存する証拠から過去を推測し、現在の状況がいかにして作られたかを思考する。証拠はどちらも死体。違うのはいかにして生まれたかということと、いかにして死んだかということ。

・死とは外なる理由による淘汰、そして内なる自己愛の欠如。自らを愛せないものはこの世を生き抜くことはできない。

・誰でも、いつか世界から排除される日は来る。早いか遅いか、ただそれだけのこと。

・潜水艦には耳を澄まし、自分の聴覚でソナー音を聞き取って周囲の様子を観測する乗員がいた。それが可能だったのは人間に元々音声情報を立体的に感知する能力が備わっていたということだろう。

・外聞を気にして、しなくてもいい我慢をする時代じゃない。

・この仕事は法の下の正義を守ることなどではなく、他人の人生の重大事を書類に書き込むだけに過ぎない。

・進化とは何者かがそれを愛し、慈しんだ証なのだと。創造の神ではなく同種の生物が。

・点字をなぞっても覚えていなければ意味がない。ヘブライ語よりこちらを勉強しておくべきだった。

・生き延びるために自分を愛し、生き延びるために自分ではないものに愛を求め始めた。それは、彼らの幼年期が終わっただけだ。

・昔から普通じゃない、特別だ、違う世界に旅立てと言われていたが、旅立つ方法がわからない。どこに旅立てばいいのだろう?

・クジャクの羽根は美しいが、雌の気を引く以外何の役にも立たない。しかし一度美しい羽根に魅かれた雌の生んだ仔は皆、母親の美的感覚を引き継いで美しいだけの邪魔な羽根に魅かれる。それがこの世を動かす、弱肉強食のもう一つの掟らしいぞ。



赤の女王の名の下に THANATOS (講談社ノベルス)

赤の女王の名の下に THANATOS (講談社ノベルス)

  • 作者: 汀 こるもの
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/11/06
  • メディア: 新書



タグ:汀こるもの
nice!(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

トラックバック 0