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『プリンシプルのない日本』 [☆☆]

・必ず日本が敗北し敗北の経験のない日本人は飽くまで抗戦して、東京は焼野原になるだろうともいった。

・我が侭育ちで、好き嫌いが激しく、厭だと思うことをせずに暮らせただけに世間が狭い。

・あの人達の考え方というものは、儲かればみんな自分のポケットに入れて澄ましてる。外れたら、苦しいもんだから、政府がなんとかすべきだと言うのである。これでは一般の人は納得する筈がない。

・この頃政治評論とかいうものを読むと、大部分政治評論でなくて、政治感情論である。彼奴は好き、彼奴は嫌いときめてかかって、それから政治の「評論」をやり出すらしい。

・当時満洲にいた日本の高官連は、日本語を上手に話し日本人に接近することに努力していた満洲人連に話を聞いて、その連中の言うことを以って満洲大衆の意見とした。結果は全然違っていた。

・弱い奴が強い奴に抑え付けられるのは世の常で致し方なしとあきらめもするが、言うことだけは正しいことを堂々と言ってほしい。

・いまでも頭に残っていることがある。それは一番平気で米軍側に立ち向かったのは、昔の内務省出身の役人に多かったこと。一番ビクビクして米軍側に追従したのは外務省出身の役人に多かったこと。

・紙の色の変わった様な古証文を振り回した処で、関心を持つのは弁護士だけで国民はそんな笛ではおどらない。

・昔の塾は塾生が塾長よりものを教わること以外に、塾長の私生活に日夜ふれてその影響を享けたことが甚大であったに違いない。

・官僚全盛時代が随分続いたから政党人の考え方も余程官僚化して、国民はものを考える能力がないから俺が考えてやらねばならんという様な、大それた自惚れで頭が一杯になっているのではないだろうか。

・ながい目で見ると、心からの支持というか理解を伴っての支持と、致し方なしの支持とは、余程のひらきが出て来る。

・現在の日本の復興ぶりなどということは、言わばクリスマス・ツリーみたいなもので、飾り付けて豆電球がついて色々のものがぶらさげてあって、見ると本当に綺麗なものだが悲しい哉あのクリスマス・ツリーには根がない。あの木は育たない、あの木はきっと枯れる。

・大体八方美人的のことが多すぎる。評判を気にしたり、みなに評判がよくなりたい様な御歴々も多過ぎる。

・皆が好い人だと賞め過ぎて悪口を言われない様な人々は、おしなべて馬鹿に限るようだ。

・常識では議会は政府の予算を削る処で、増やす処ではない筈だ。

・夏中浴衣を着て心地よく着なれたから、秋になっても冬になっても、浴衣浴衣と頑張る奴は、狂人の類いだと誰もが認めるのに、経済界にはこれと同じことが果たしてないだろうかと私は疑う。

・緒方構想なるものが判っている連中でその構想に賛成な人々はみんな各自緒方構想実現の暁に自分の演ずべき役割も判っているのだろう。自分の演ずべき役割の全然見当のつかない人々は賛成しないだろう。

・大和民族はどうも政治の論争がアッという間に感情問題に急進展して、ヒステリーの女そっちのけの坊主が憎けりゃケサまでにくい論法に行くことがあまりにも多い。

・大体日ソ交渉問題は外交問題なのか、国内政治問題なのか。それとも自由民主党の党内問題なのか。

・嫌な国だから、つき合いはしないなんていう様な考え方は、個人間のことならいざ知らず国際的には通用しない。又そんなケチな料簡では世界の平和は保てそうにもない。

・戦前は軍部が横暴だったからだと澄ましていても、その横暴に対する反抗を如何にして表わしたかと聞かれたら、ぐっとつまるにきまっている。

・筋を通したとかいってやんや喝采しているのは馬鹿げているとしか考えられない。あたり前のことをしてそれがさも稀少であるように書きたてられるのは、平常行動にプリンシプルがないとの証明としか受取れない。

・プリンシプルのない妥協は妥協でなくて、一時しのぎのごまかしに過ぎないのだと考える。

・法案通過を「実力」で阻止するとか審議を拒否するとかいうことはこれ自体が議会政治否認であると考えないのか。それをさも普通のことのように報道しているマスコミの良識を疑いたくなるのは、私だけか。

・政治家が一番恐ろしいものは国民の判決です。馬鹿な政治をやった政府でこの判決の制裁を受けなかったためしはありません。

・このごろのマスコミの論調をそのまま世論だとお思いめさるな。

・日本の評論っていうのは、あいつの右足の靴の踵の減り方が気に食わないって、しつこく食い下がるんだ。

・この頃の匿名や無署名短評の横行は、インテリに思想や話題がなくなった証拠で、つまりみんな何を考えていいか分からなくなったんだ。

・日本人のは妥協じゃないんだ。単なる頬かぶりですよ。原則をほったらかしといて「まあまあ」で円く納めようとする。納まってやしないんだ。ただ問題を先へやっとこうというわけだ。

・いま日本でいけないのはすぐ人の脚をひっぱることだね。これは大変な奴だと思うと脚をひっぱっちゃう。だから日本で何かのトップにゆく奴は、毒にも薬にもならない奴が大部分だよ。

・議論したければ議論すればいいんだ。ところが、痛烈なことを言うと恨むんだね。人の前で恥をかかしたって。

・俗人は、自分の卑しさを照らし出すような人物の前に出ると、恥ずかしさからか、相手を憎むものである。

・彼が吉田茂の指南役のような役割を果たしていたので、政治好き、あるいは政商などと見ていた人もいたようだが、これくらい「批評とはおのれを語ることだ」という原理を立証している事例はないように思われる。彼のことを政商と見る人士は、政治家に近づく時、必ず自分の利益を考えている人物に違いない。だから白洲次郎をも自分の同類と見做すのである。

・文士諸君美しい文章をかくのもいいが、もっと整然と工具を並べるような文章を書いてみ給えよ。

・人間はちょっと偉くなると、単純よりも複雑に生きてみたくなるものかもしれないが、所詮それは格好を付けているだけではないのか。



プリンシプルのない日本 (新潮文庫)

プリンシプルのない日本 (新潮文庫)

  • 作者: 白洲 次郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/05
  • メディア: 文庫



タグ:白洲次郎
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