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『撤退戦の研究 日本人は、なぜ同じ失敗を繰り返すのか』 [☆☆]

・艦隊決戦は日露戦争以来の思想で、海軍の至上の夢でした。真珠湾での機動部隊の大成功も幸運と考え、日本海軍は機動部隊の重要性を認識しなかった。艦隊決戦こそあくまで日本海軍の戦闘という思い込みから抜け出せなかったんです。

・日本は、大量生産・大量販売でチャンピオンになりました。それは大量生産・大量販売時代に、日本のシステムが最適だったからです。しかし、経済が成熟し、ソフト化、サービス化社会になると、そこでは工業化時代に適したシステムは有効に働きません。長引く平成不況はそのツケです。

・開戦してからも、常に頭のどこかに講和を置いている。講和のない戦争はありませんから、どこで講和するかが重要なポイントです。

・戦後日本が焼け跡から立ち直ったとき、トップは衆議独裁をやりました。しかし、右肩上がりの時代になり、トップは何もやらない方がいい、ボンクラぶっている方がいいという風潮に染まっていってしまった。それだけならまだましだが、本当にボンクラになってしまった。

・もう集団合議制経営、アマチュアにちょっと毛の生えた程度の経営では、激流の時代は乗り切れません。

・そもそも日本軍は絶対的な兵力が少ない。そのために、「寡を以って衆を討つ」に宿命的に陥りやすいところはありますが、普通に考えれば「多勢に無勢」が戦争の常識です。その常識無視に陥った。

・バブル崩壊で大量の不良資産を抱え込んでしまった銀行のトップは、まさにラ・ロシュフーコーの言う「人の偉さの旬」を知らなかった実力会長たちです。自分の旬を知らなかったために、鈍った判断力で重大な時期の決断ができなかった。

・「偉さの旬」をすぎた人間がトップに座り続ける弊害が、老害です。

・38式歩兵銃は明治38年につくられたことからその名がついているように、日露戦争を戦った銃です。そんな旧式銃で昭和14年に、さらには対米英戦争を戦った理由は、実にバカバカしいものです。日露戦争の際、日本は大予算をかけて38式銃の膨大な量の弾丸を生産しましたが、その膨大な量の弾丸が残っていたんです。そこで陸軍は、38式歩兵銃の弾丸がなくなるまで38式銃から転換しなかった。

・第二次世界大戦におけるほとんどの兵器はリノベーションだった。形こそ変えたものの、第一次世界大戦で使用された兵器が第二次世界大戦でも主力を占めています。

・今回、日本はドルでアメリカとマネー戦争をやりました。ドルの表側は国際通貨ですが、裏側はアメリカの国内通貨です。輪転機を回せばいくらでも印刷できる。戦争は結局、最後は補給、兵站の勝負で決着がつく。ドルで戦争をやればアメリカが勝つことは火を見るより明らかだったのに、そこに気がつかなかった日本はドルでマネー戦争を挑んでしまった。結果が、650兆円を超える赤字国債です。

・ムラ社会はもともと情報戦に弱いのです。上も下も情報を共有するということは、逆に言えば異質、異端の情報を排除するということですから。

・今の若い人は、のんびりしているようで、シビアなところは本当にシビアです。自分の上司が能力のある人間かどうかを醒めた眼で見ている。その評価に落第すれば、もう相手にしない。表面は取り繕うかもしれないが、心の底をのぞけば軽蔑があります。

・指揮官の最高の能力とは、言行を一致させ得る意思力である。

・チンギス・ハンの政治顧問だった耶律楚材は、「一利を興すは、一害を除くに如かず」と言っています。今の事業からマイナスを取り除くことの方が、一つの事業を興すことより勝っている、ということです。

・マネジメントとは、結局のところ、失敗する前に方針を変えるよう説得することだと思う。失敗して変えるのは当然、うまくやっている間にいかに変身を図るかである。

・優秀な経営者は、歴史をよく勉強してますよ。未来を知る最良の方法は、歴史を知ることですから。

・「君に行ってもらいたいんだが、どうせダメだと思うが、まあ当たってきてくれ」といった形で部下を使わないことです。部下にやらせるならば、「お前が行ってこい。お前しかいないんだ」という形でやらせなければいけない。

・歴史の中でも、戦争は国民と国民の総力戦であり勝ち負けです。だから、企業競争でも一番参考になるし、歴史を学ぶ意味がそこにある。

・日本には真のエリートがいない。エリートというのはまず国民のレベルが高く、そこから抜きん出てくる人間です。全体のレベルが低ければ、そこから少しくらい出ていてもたいしたエリートではありません。

・年功序列を崩して競争を導入しても和は乱れません。組織の和が崩れる時は、組織が存在意義をなくしてしまった時です。要するに負けた時、無能なトップ、参謀がいる倒産寸前の企業ほど、和と団結を持ち出して何とか瓦解を防ごうとするわけです。

・ヒトラーの本がアメリカでもヨーロッパでも数多く出版される理由は、なぜあの化け物のような男が出たのかということと、政治軍事的な天才的な閃きはどこから出たのかという不思議さへの追求からだと理解しています。

・イギリスのビックバンは本人もはっきりそう言っているし、サッチャーのやったことがはっきりしていますが、日本版ビックバンは誰がやったかはっきりしない。首相だった橋本龍太郎がやったのか、通貨マフィアと称される榊原英資がやったのか分からない。誰がやったのかはっきりしないということは、政治家不在、政治戦略の欠如そのものです。

・今の派閥は派閥のための派閥になってしまっているが、昔は他の派閥に負けないとみな勉強した。自民党がダメになった理由は、派閥にカウンターパワーとしての力がなくなり、ただの利権獲得のための員数合わせになってしまったからです。

・大モルトケは、「作戦が通用するのは緒戦だけだ」と言っています。次からは、相手がどう出てくるかは分からない。それに、ナポレオンは、「十年単位で戦法を変えないと、その軍隊は良質ではない」と言っています。

・太平洋戦争時の戦法だけにかぎりません。企業でも、一度成功した手段、戦法になぜか固執する癖がある。しかも落ち目になった企業ほどそうです。競争のパラダイムが変えられない。

・世界的大競争の時代には、日の丸も星条旗も、ユニオンジャックもない。勝てる企業か、負ける企業かという厳しい選別があるだけです。

・陸軍の戦死者の70パーセントは餓死と海没で、いわゆる主力決戦をやっての戦死者はあまりいない。

・たぶん日本は国家としての急激な伸張はもう望めないでしょう。美しく成熟するためにはどうすればいいかを考えなければならないときにきている。

・成熟の進行と少子化によって消費パワーは確実に落ちていく。それは国力の衰退を意味し、その結果、日本は一、二の国に追い越されることになる。ただし、一、二の国に追い越されても、日本が依然として経済的な大国であることは間違いない。

・日本人は、これ以上思う通りに欲望を発散させないこと。ここまでで結構ということで満足することに合意すれば、これ以上自然は壊れない。

・今の生活の欲望をこれ以上発散させないこと、これ以上余計なことはしないこと、自己限定の決意、そうした落ち着いた生活というものを覚悟する。

・アングロサクソンの特徴は、仮借なき攻撃の徹底性です。ことお金に関しては欲望発散力はものすごい。これは日本人に欠けてます。欠けているのを、日本人は欠点と考えてはならない。むしろ美徳でもあります。



日本人は、なぜ同じ失敗を繰り返すのか 撤退戦の研究 (知恵の森文庫)

日本人は、なぜ同じ失敗を繰り返すのか 撤退戦の研究 (知恵の森文庫)

  • 作者: 半藤 一利
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2006/08/04
  • メディア: 文庫



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