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『酸素は鏡に映らない』 [☆☆]

・なぜ、ビクビクするか──わかっているか……? それは力がないからだ。自分が、世界に通用するなにものをも持っていないと感じているから……あらゆるものを、おそろしいと感じてしまうのだ──。

・国の権力者が、その前の皇帝かなんかが発行した有名な金貨の、その価値を落とせっていうことで偽金を造らせたのよ。ロイド、ってのは「何かに似たもの」って意味らしいわ。皇帝はエンペラーで、だからエンペロイド金貨って呼ばれているって。

・金というのは貯め込むものではない。流すものだ。今の金を別のところに流してやれば、自分のところに新しい金が流れ込んでくる。

・誰かが得をすれば、誰かが損をする。それが世の中だ。損を小さく分けて、あちこちにばらまいて大勢の人間に押しつける──その誤魔化しこそが「商売」というわけだ。

・身体が叩きつけられる寸前に、逆の床の方を、手のひらで思いっきりひっぱたいていた。じいん──と手が痺れるが、その勢いのおかげで身体が床に落ちたときには、それほど衝撃がなくなっている。腰や背中を強く打つと人間は動けなくなってしまうが、腕が痺れていても立ち上がることはできるのだ。

・人は、自分が探し求めているものが、すでにこの世で価値があると保証されている物だと思っているが、しかし……真に見つけるべき物は、まだ誰もその価値を理解していない物だけだ……。

・あんなのは全部、組織の責任者に過ぎない……座っている場所が上なだけだ。彼らが自分の目で見て、考えて、決められることなど何もない。周りから言われていることを、そのまま適当に並べることしかできない……道化たちだ。

・世界は、勝手に動いているだけだ。人間はそれに振り回されているだけだ。自分で動かしていると思っている者たちは、実は誰よりも動かされている連中にすぎない。

・自分だけの確固とした意志、そんなものは存在しない──常に他人の目を、その考えを気にしている。立派に見られたいだとか、恥ずかしくないようにとか、負けたくないとか、すべては他人の判断に己を委ねている──決めているのは自分ではない。いつだって他の誰かだ。

・わかったと簡単に思いこめる方が、どうかしている……それが人を、愚か者とそうでない者とに分ける、分岐点だ……。

・他人を出し抜こうとしているヤツは、逆にそのときが一番つけこまれやすいのだということに、気づいていないものだ──。

・人間は、人間を信じずにはいられない──だからこそ、誰かを騙すということもできるのだ。人を信じるということは、人間にとっては酸素を吸うのと同じくらいに、ありふれたこと。だからこそ、それを壊してしまう覚悟があるとき、人は他人を自在に操ってしまう、おそろしい力を手にするのである。

・何が問題になるかなんて、誰にも前もってわかりゃしない。どんなことが未来に立ちふさがる壁になるかなんて、絶対にわかりゃしない。

・ほんとうに重要なことに、自分自身の力だけで辿り着けない者には、道を選ぶ権利などない──その冷たい真実を、やっと実感したのであった。しかし、もう遅い──。

・いやな世界だから滅んでしまえ、というほどでもないのだが、こんなにもすばらしい世界が滅びるはずがないだろう、という確信も持てなかった。

・昨日までの世界は、いつだって明日の世界によって滅ぼされ続けている。



酸素は鏡に映らない (MYSTERY LAND)

酸素は鏡に映らない (MYSTERY LAND)

  • 作者: 上遠野 浩平
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/03/30
  • メディア: 単行本



タグ:上遠野浩平
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