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『火山と地震の国に暮らす』 [☆☆]

・あまり知られていないことだが、実は地震よりも火山噴火の方が、人類にとってはるかに影響力は大きいのである。地震の被害によって文明が滅びた例はないが、かつて巨大噴火が文明をまるごと滅亡させたことがあるからだ。

・高校で物理を習っていない理系学生、生物を履修してこなかった医学部生への補習授業の問題もある。理数系の基礎教育の基盤がかなりゆらいでいるのである。

・オタク(好事家)といわれるような、世間の関心とはほど遠いことに強い興味を持つ子供が、基礎科学を継承してきたのだ。このような若者の資質は、「とにかく、ある現象(もの)が好きだ」という点にある。

・理解が進む前に、現象そのものに対する強い「愛着」が生じていることが、重要なのだ。たとえば、子供が河原で石ころ集めに興じている場面を考えてみよう。その子にとって、石そのものが興味を引くのであり、石が丸くなった理由や、その石がどこから来たかについて、最初から興味を持つわけではない。

・実際に研究者がおもしろがっている姿を直接若者たちに見せることが、最初の一歩となる。おもしろいことは伝染するからだ。それが後継者育成の原点である。

・話が通じないのは、「フレームワーク」が合わないからではないかと、あるときに気がついた。フレームワークとは「考え方の枠組み」「思考パターン」「固定観念」のことである。

・わたしたちは自らの持つフレームワークに強く支配されている。たとえば、好きな本ばかり読もうとしたり、いつも決まった結論を下したりするのが、その例である。

・大人と子供とでも、フレームワークが大きく違う。子供の語彙力ははるか大人におよばない。よって「すみやかに避難してください」という表現では、小学生には理解困難である。「いそいで、にげてください」と変えなくてはならない。フレームワークの橋わたしで最初に行うべき項目である。

・自分の考えをきちんと伝えることができてはじめて、仕事は円滑に進む。どんなによい仕事をしても、周囲に理解されなければ評価は得られない。

・学生が自身で「納得」するためには、思考の流れを繰り返し体験できる書籍がより適している。

・人と人の間のコミュニケーションには、大原則がある。相手(社会)に変わってほしいと思っていくら待っていても、決して変わらない。なぜならば、「変えられるのは自分だけ」という心理学の原理があるからである。

・人が陥りやすい落とし穴の一つに、「原因」を追求して「目的」を見失う、ということがある。原因ばかり論じていたのでは、いつまでたっても解決策が見出せない。たとえば、格差社会をいくら詳細に分析しても、何も変わらないのと同じである。

・わたしたちが日頃使っている電気製品を動かしている基本原理は、20世紀に入って得られた量子論・物性論などの知識に基づいている。ところが、高校までの理科教育では、19世紀に達成された科学に追いつくのが精一杯で、それ以降のことを教える余裕がほとんどない。

・五線譜の上に記された、どうみても暗号にしかすぎない音符が、万人の心に訴えて文化として成立できるのは演奏家の存在ゆえである。科学の演奏家はどこにいるのだろうか?

・研究と論文執筆に没頭していたあいだに、加藤は自分の周囲で生起するできごとが記憶から消えていたことに気づく。すなわち、彼は研究以外の点では世界とまったく断絶していたのである。「そこには生涯の記憶の空白があり、その代わりに一篇の論文が残っている。その交換は、等価交換であろうか。……私はそういう交換に満足することができなかった」。



火山と地震の国に暮らす

火山と地震の国に暮らす

  • 作者: 鎌田 浩毅
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2011/07/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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