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『素数夜曲 女王陛下のLISP』 [☆☆]

・数学には「美」があります。その美しさは、他の芸術分野と異なり、受け身ではなかなか感じられないものです。音楽や絵画のように、その空間に身を委ねていれば、唯それだけで気持ちが安らいだり、昂揚した気分になったりする性質のものではありません。

・数学的な美は、理解の後にやってきます。直接感情に訴えるのではなく、理性に訴えて、それが感情を揺り動かすのです。

・使える「道具」が増えるほど、そうした道具では太刀打ちできない、新たな謎が生まれてきます。理解は終わりの刻印ではなく、はじまりの合図なのです。

・早熟な才能が、適切な環境を得た時、それは想像を絶する速度で変貌を遂げる。

・力尽くの方法が仮に上手くいかないとしたら、その理由こそ考えるべきなのです。その時に初めて、エレガントな発想が生まれてきます。

・何事も本格的に身に付けようと思えば、自学自習しかないのである。

・プログラムは、整然とした一筋の流れの中から生み出されるものではなく、まさに文筆家や画家がするように、書いては消し、試しては止め、という試行錯誤の中から作り上げていくものである。

・字下げ・改行は、文章を二次元化する。話し言葉が時間の一方向性に因った一次元的なものであるのに対して、書かれた言葉はより高次元の表現を持つ。

・朗読は人の心に訴えるが、それは後戻り出来ない、聞き返せない儚さによる部分が多い。音楽も同様である。

・集合とは、論理の幾何学化である。記号だけで操られる関係を、視覚に訴え、手に触れられるようにする。

・計算機プログラムの世界は、数学と物理の狭間にある。自らに物理的な実体は無いが、直ちに実体となり得るだけの「現実世界との関係」を保持している。

・LISPの思想は古くならない。何故なら、LISPは発明された言語ではないからである。数学的な研究の中で、偶発的に「発見された言語」なのである。

・知的飢餓感を奪う教育は、知的拒食症を誘発する。食べたことも無いのに嫌いだと感じ、学んだことも無いのに理解出来ないと感じる気質を育ててしまう。

・工夫することを厭わなければ、装備は必要最小限でよい。

・名前を附けるという行為は、抽象化の第一歩である。

・抽象化とは余計なことを考えないで済ませることである。名によって語り、その内部構造を問わないことである。思考のパック化である。

・例示することが「具体的」で、概念を記述することが「抽象的」という認識だけでは、言葉の片側しか捉えていない。人間の直観が利くようにする為に、下位構造を包み隠すことが抽象的であり、それを暴いて触感により理解しようとするのが具体的なのである。

・幾何学が対象の全体を束ね、その全貌を静止画として与える学問であるのに対し、力学は世界の動きを、物の流れを時系列で追う学問である。

・数学的教養と同時に理・工学を学び、社会に出てそれを活用しようという人達に必須と考えるのが、「絵を描く技術」「イラストの技法」である。

・一枚の絵の持つ情報量は凄まじい。言葉ではどうしても伝えにくいことが、イラストにすれば間違いなく確実に伝えられる。

・外国語教育に異様に熱心な方が多いが、まさに「世界中とコミュニケート出来る」のはイラストの方である。これは海外に派遣された若手研究者や企業の技術者が、しばしば体験することである。絵画表現能力の有無は、天地の差を生む。

・「Elegantなコード」は人を魅了するものであるが、それは「Elephantなコード」が洗練されて出来たものである。初学者は、「巨象」が伸し歩く様を楽しみ、その巨大さ故に見える風景を目に焼き附けておくことこそ重要である。

・「車輪の再発明(reinventing the wheel)」という言葉がある。先人が既に発見、発明したものを、今さらながらに見出して喜んでいる、という否定的な意味合いで使われることが多い言葉である。既存の体系に無知であり、或いは意図的にこれを無視して、「独自路線」を気取ることを揶揄しているのである。

・一瞬でもこの世の憂さを忘れさせてくれる芸術は、それが出来ない芸術よりも優れている。

・数学が無限を扱い、あらゆる対象を理想化し、無限化するのに対して、計算機工学では、そこから得た結論を現実化し、有限化することによって、物理学の出番を作る。これを「実装」と呼ぶ。実装の難しさは現実の難しさである。

・「机に噛り付いているだけではダメだ」と識者達は指摘する。確かに「だけでは」ダメである。しかし、机に噛り付いた経験のない者に未来は拓けない。

・故郷を復旧させるのは大人の仕事であるが、復興させるのは、そうした大人の背中を見ながら、学ぶことに徹した青年達である。



素数夜曲: 女王陛下のLISP

素数夜曲: 女王陛下のLISP

  • 作者: 吉田 武
  • 出版社/メーカー: 東海大学出版会
  • 発売日: 2012/06/26
  • メディア: 単行本



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