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『臆病者のための裁判入門』 [☆☆]

・少額の民事紛争が本人訴訟で争われるのは、弁護士が扱わない(相手にしない)からだ。

・「私はあなたと電話で話した」と言い張ったのだという。嘘を認めれば減給などの処分で済まず、懲戒解雇になるかもしれない。どれほど支離滅裂でも「いったいわない」の争いに持ち込むしかなかったのだ。

・企業がコンプライアンス(法令遵守)を強化すると、組織は容易に非を認められなくなるのだ。

・どんなトラブルでもそうだろうが、もっとも効果的なのはすぐに非を認めて謝ることだ。その機会を逃すとどんどん解決が難しくなっていく。

・1980年代までは、日本の司法制度はヤクザによって補完されていた。交通事故の示談ばかりでなく、会社の倒産処理や借金の取立てなども、訴訟を起こしたり弁護士に依頼するよりもヤクザに頼むほうが一般的だった。

・納得はできないだろうけれど、これ以上こだわっても面倒なだけだから、嫌なことは忘れて楽しく暮らすのが大人の正しい知恵だ。

・当事者同士の争いは「謝り方が気に入らない」というような不毛な議論になりがちだが、民事調停や民事訴訟ではトラブルはすべて金銭に換算されて処理される。法社会というのは、社会のさまざまなトラブルを、明示されたルールに則って金銭に置き換えていく一連の手続きのことなのだ。

・保険会社の利益は保険金を払えば払うほど減っていく。だとしたら、保険会社が利益を増やすもっとも簡単で確実な方法は保険金を払わないことで、損保会社の担当者の仕事は保険金を請求させないよう邪魔することなのだという。

・損保会社の担当者に嘘をつかれたといって怒るほうがどうかしている。「犬が吠えた」とか、「鳥が空を飛んでいる」といって怒るのと同じなのだ。

・相続争いや医療過誤訴訟から原発事故の賠償問題まで、この世のあらゆる紛争は「カネのなる木」だ。弁護士の仕事は法律を道具として紛争からカネという果実を収穫することで、「カネにならない木」はそもそも法律の世界に存在する意味がない。

・簡裁判事は、司法試験合格者以外にも、簡易裁判所判事選考委員会の選考で認められた者が任命されるのだ。簡裁判事は司法の世界の「二級市民」だった。司法試験を通っていない彼らは、裁判の実務には詳しいが、法律の条文を解釈して判決を下すことに慣れていない。

・世界の多くの国では、言葉の話せない外国人は犬や猫のように追い払われるのが当たり前なのだから、それに比べれば日本の裁判所や裁判官の態度は高く評価されるべきだろう。

・判決文というのは最初に結論があって、それに合わせてつじつまを合わせていくものだという。裁判所は、つねに揚げ足をとる機会を狙っている。その隙を見せないように論証することが、弁護士の腕の見せどころなのだ。

・ようするに日本の裁判では、判決や事実や論理の積み重ねというよりも、最初にあり得べき結論(政治家の有罪や行政の無罪)があり、それに合わせて都合のいい推定や理屈を当てはめていくもののようなのだ。

・法律の世界では、相手が嘘をつくことを前提として行動しなくてはならない。

・日本では裁判は紛争解決の最終手段なのに対し、アメリカでは和解に向けての交渉の一過程と考えられている。

・紛争が個人(消費者)と金融機関の間で起きた場合、当事者間の「格差」はより大きな問題になる。金融機関にとって裁判は日常業務のひとつだから、ほとんど負担にはならない。このような状況で調停案を自由に断ることができるとするならば、金融機関はすべての調停案を不同意にして、申立人を「泣き寝入り」させようとするかもしれない。

・三浦和義の本人訴訟は、その高い勝率とともに、裁判が「ビジネス」になるという意味でも大きな衝撃を与えた。1社で3800万円もの和解金が支払われたものもあった。こうした裁判で得た損害賠償金や和解金は1億数千万円にのぼるとされている。

・日本では零細なアパートの大家よりも、家賃を払わない「貧しいひとたち」の権利が強く保護されている。一時期「サラリーマン大家」が流行ったが、日本の司法制度では、素人の不動産経営には大きなリスクが隠されているのだ。

・司法制度改革で弁護士の数を増やしてもそれに応じて需要は増えず、いまでは弁護士の失業問題が深刻になっている。法テラスや少額訴訟などで司法サービスへのアクセスを改善しても訴訟件数が増えないのは、強制執行の欠陥などで判決に実効性がないことを見透かされているからだ。

・ほとんどのひとが気づいていないと思うが、この弁護士費用保険は日本でもすでに販売されており、その契約件数は全国の総世帯数の3割に迫る1400万件を超えている。これは損害保険会社が、自動車保険や火災保険、損害保険の特約として、年間2000円前後の保険料で弁護士費用保険の特約をつけているからだ。だが実際には、その利用率はきわめて低く、2010年度の利用件数は約8200件と契約件数の0.05%でしかない。この低い利用率は、保険契約者が弁護士費用保険の特約を知らないのが大きな理由だろう。弁護士費用保険のことなどすっかり忘れているのだ。

・「情報の非対称性」は依頼を受ける弁護士にもある。それは、法律相談で出会った依頼者がどのような人なのか、30分の短い会話だけではわからないことだ。

・弁護士が少額の依頼を警戒するのは、依頼人と揉めることが多いからでもある。そもそも普通の人は、損をするのがわかっているような裁判などしない。一般的にいって、経済合理性を度外視して裁判に訴えるのはヘンな人なのだ。

・弁護士に対する依頼人の不満の多くは、「親身になってくれない」というものだ。しかしこれは、時間が有限であることを考えれば当然で、10万円の着手金だけで1人の依頼人にすべての時間を割くことはできない。なにもかも他人に任せて問題を解決しようと思うほうが間違っているのだ。

・同じ被災者でも、津波によって家や生活の糧を失った人には何の賠償もない。原発事故が損害賠償の対象になっているのは、東電という加害者(賠償主体)がいるからだ。当然、津波の被災者は原発事故の被災者だけに多額の賠償金が支払われることに大きな不満を持つだろう。そんな中で、「6000万円」という数字が一人歩きすれば、国民は賠償の公正さに疑問を抱くかもしれない。



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