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『不愉快なことには理由がある』 [☆☆]

・素人の予想が専門家を上回るのは、知っている会社(有名ブランド)にしか投資しないからだと考えられます。株価を予想した人たちは、投資についてはど素人かもしれませんが、消費者としては圧倒的な多数派です。

・なぜ私たちがいつも思い悩んでばかりいるかというと、新しい事態に遭遇すると、心という「シミュレーション装置」が無意識に駆動しはじめるからです。

・生存に有利な特徴が非現実的なまでに拡張することを進化のランナウェイ(暴走)効果といいます。

・ヒトにとって脳はクジャクの尾羽根であり、進化のランナウェイ効果の結果、不必要なまでに高度の知能(シミュレーション機能)を獲得したのです。

・東京やロサンゼルスなど豊かな都市の中で、自分だけが貧しいというのは計り知れない絶望なのです。

・複雑系の世界は、数学的な論理によっては理解できません。だとしたら進化は、合理性を極限まで高めるような非効率なことはせず、より有利な方策を模索するでしょう。

・アノマリー(非合理的行動)は、当初はヒトの脳が論理的思考が苦手なためだとされていましたが、最近では、複雑性の世界に適応するよう進化した無意識の知性だと考えられています。

・未来が予測不可能なら、確率論的に正しいリスクをとって危険に身をさらすよりも、損失を回避しながら小さな利益を積み上げていく「不合理な」戦略の方が有効なのです。

・政治というのは、権力闘争の世界です。どれほど立派な理屈を唱えても、権力を握らなければオウムや九官鳥と変わりません。

・大衆は政治や経済の専門的な知識など持たず、一時の感情に流されて投票しますが、こうした愚かな判断は相殺されて、最終的には最も正しい政策が選ばれる、というわけです。この理屈は数学的には正しいのですが、それが成立するにはひとつ条件があります。統計の奇跡が起こるためには、「バカ」が正規分布していなければならないのです。

・問題なのは有権者の民度が低いことではなく、「バカ」の分布が偏っていることなのです。

・国政選挙のような大人数の投票において1票はほとんど価値がありませんから、一般の有権者にとって最も合理的な行動は選挙などに行かず、その時間をもっと有効に使うことです。それでもわざわざ投票するのは、公共事業の受注や参入規制の維持など、特定の利害関係があるからに違いありません。

・混迷する日本の政治を担う人物を、私たちはどのように選べばいいのでしょうか。実はこれは、科学的にはすでに答が出ています。ひとつは、候補者の演説など聞かずに直感で決めればいい、というものです。

・人間の耳は、500ヘルツより低い周波数は意味のない雑音(ハミング音)としか聴こえません。私たちが会話をするとき、最初はハミング音の高低は人によってまちまちですが、そのうち全員が同じ高さにそろうことが知られています。人は無意識のうちに、支配する側にハミング音を合わせるのです。

・1960年から2000年までの8回の大統領選挙では、有権者は、ハミング音を変えなかった(すなわち相手を支配した)候補者を常に選んできました。

・橋下市長の政策の基本は、市場原理に基づく新自由主義(ネオリベ)です。それが圧倒的な人気を博するのは、日本人がもともとネオリベ的な個人主義にきわめて親和性が高いからなのかもしれません。

・どんなデタラメでも同じことを自信にあふれた口調で繰り返していると、それを信じる人が出てきます。その人数が増えてくると、さらにまわりを巻き込んで、大きな集団を作っていきます。カルト宗教から革命まで、歴史はゴーマンな人間を中心に回っているのです。

・永田町にもゴーマンが似合う政治家はほとんどいなくなってしまいました。どこを見ても、甘やかされた二世議員か頭のいいお坊っちゃん(お嬢ちゃん)ばかりです。

・そもそもヒトは、相手(中国人や日本人)が間違った行動をとったから怒りを感じるわけではありません。因果関係はこの逆で、まず衝動的な怒りがあり、その感情を正当化するために、「悪いのは奴らだ」という理屈が「理性によって」構築されるのです。

・西部開拓時代のアメリカで鉄道建設に従事した中国人がどれほど迫害に耐えたかを描いた力作ですが、アメリカの知識層は、旧日本軍が中国人をレイプする話には喝采を送っても、アメリカ人が中国移民を差別する話は好まなかったのです。

・旧日本軍による蛮行を認める戦史研究家でも、陥落時の南京城内の人口が20万人程度だったことなどから、死者30万人の「大虐殺」を史実とはみなしません。

・彼らの目的は、目の前にいる日本人の論敵を打ち負かし、歴史教科書など南京大虐殺を認める日本語の文書をこの国から放逐することでした。しかし彼らが、日本国内の日本語によるガラパゴス化した論争に夢中になっている間に、英語圏において南京大虐殺は「史実」となっていたのです。

・世界金融危機以降、世の識者たちは「国家が市場を規制せよ」と大合唱してきました。しかし現実には、市場(資本主義)に合わせて国家を再設計しないかぎり、問題は解決できません。なぜなら、「問題」は国家そのものが起こしているからです。

・1999年のユーロ誕生の時から、通貨だけを共通にして、各国が自由に国債を発行する仕組みはいずれ行き詰まると、経済学者は指摘していました。誰もこの警告を気にしませんでしたが、わずか10年あまりで「予告された危機」はやってきました。構造的な問題は、現実化するのです。

・高齢者はなんとしても、自分が生きている間は現在の制度を維持するよう求めます。負担が将来世代に先送りされたとしても、彼らにとってはどうでもいいことです。

・関税をかけることが常に有利であれば、静岡県は、県内のみかん業者を保護するために和歌山産のみかんに高率の関税を課すべきです。でも真剣にこんな主張をする人がいたとしたら、あなたはきっと、一度病院で診てもらった方がいいと思うでしょう。それなのになぜ、国境では自由貿易を制限するべきなのでしょうか。

・人間の脳には、自分が感情的に魅かれるものを「正しい」と合理化する機能が備わっています。残念なことに、どれほど理をつくしても、理解したくない人は説得できないのです。

・明治時代の論争では、愛国的な「鎖国」派の主張は、「日本人は劣等人種なのだから、安易に開国すれば欧米人の奴隷になるだけだ」というものでした。現代の「鎖国」派は、「日本の農業は「劣等産業」なのだから、TPPに参加すれば農業は壊滅する」と力説しています(「競争力がない」というのは、「劣等産業」を政治的に正しく言い換えたものです)。

・すべての人がクリエイティブクラスになれるよな社会が成立するはずはありません。彼らが多額の報酬を手にできるのは、希少性(ごく少数しかいない)があるからです。誰でも弁護士になれる社会では、平均的な報酬はマクドナルドの時給並になってしまうでしょう。

・孔子は人の道として、主君への忠誠などとともに親への孝行を説きました。孔子はなぜ、親が子供を愛することの大切さを語らなかったのでしょうか。それはおそらく、親の愛情が遺伝子プログラム(本能)であるのに対し、親孝行が文化だからです。

・家族の崩壊は福祉国家の運命だというほかありません。年金や健康保険制度を充実させればさせるほど、子供は重荷が軽減されたと考えて、家族の絆は弱くなっていきます。国家が親の世話をすべて代行するならば、「親孝行は古代の奇妙な風習」ということになるでしょう。

・日本語の複雑な尊敬語や謙譲語は、お互いの身分を常に気にしなければならなかった時代の産物です。それが身分の違いのない現代まで残ってしまったため、命令形は全人格を否定する「上から目線」になってしまいました。日本語は、フラットな人間関係に向いていないのです。

・ヒトの脳はなぜ、復讐を快楽と感じるのでしょうか? その理由は簡単で、せっかく手に入れた獲物を仲間に奪われて反撃しないような遺伝子は、とうの昔に淘汰され消滅してしまったからです。生き残ったのは、「復讐せざる者死すべし」という遺伝子なのです。

・マイケル・サンデルの「白熱教室」以来、正義についての議論が盛んです。しかし、正義の本質がエンタテインメント(娯楽)だということを指摘する人はあまりいません。

・身だしなみにすごく気を使う「デキる男(女)」が、いざとなるとぜんぜん使えない、ということはよくあります。その反対に、ふだんはだらしないのに、仕事や勉強に異常な集中力を見せる人もいます。これも、自己コントロール力という有限な資源をどう分配しているか、ということから説明できるかもしれません。

・問題の本質は、知識社会化した先進国の中に、十分な言語的知能や論理数学的知能を持たない人たちがいることです。

・冷戦時代に米ソ両超大国の援助合戦が行なわれたインドはいつまでたっても貧困から抜け出せず、経済成長が始まったのは冷戦の終焉で以前のような援助を受けられなくなり、規制緩和と市場の開放に踏み切ってからでした。

・これまでレジ袋代2円を引いてもらう機会を無視していたのだから、2円を追加で払ったとしても同じことです。ところが、「2円得する」ことにまったく興味のなかった人が、「2円損する」と気づいたとたん、行動が変わってしまうのです。

・同じ大学で同じ教育を受けた人間が集まって知恵を絞っても、シリコンバレーの多様性が生み出す爆発的なイノベーションに対抗できるわけがないのです。

・知識社会において、多様性の欠落した日本企業が敗北していくことは、いまや否定し難い現実として目の前に突きつけられています。

・ブレークスルーを見つけるためには、自分と価値観の違う人たちと出会い、彼らを意見を交わし、共にゴールを目指さなければなりません。仲間同士でつるむのは快適かもしれませんが、それは最も反知性的な環境なのです。





不愉快なことには理由がある

不愉快なことには理由がある

  • 作者: 橘 玲
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/11/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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