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『リスクにあなたは騙される 「恐怖」を操る論理』 [☆☆]

・新聞の紙面や夜のニュースを見るといい。どの日をとっても、誰か――ジャーナリストや活動家、コンサルタント、企業の幹部、政治家――が私たちや私たちの大切な人を脅かす何かしらの「流行」について警告していることがよくある。

・未来に目を凝らし、事態がぞっとするほど悪くなるあらゆる可能性を想像することは、知識人の頭脳ゲームのようなものになっている。知識人の中で野心を持つ者は自らの暗い想像をベストセラーに仕立てる。

・歴史にもう少し注意を払えばいつの時代も「この世の終わりだ」と叫ぶ人間がいたことに気づくだろう。そして、そのように叫ぶ人間のほぼ全員が、未来を予見する能力を持っていなかったことが判明している。

・ためらわずゴロワーズのタバコに火をつける人間が、どうして消化不良すら引き起こしたことがない食品の販売禁止を求めて街をデモ行進しようとするのかは、科学が答えるべき大きな謎に違いない。

・ヨーロッパでも他のどこでも、人は原子炉を目にすると身震いするがX線を当てられることは意に介さない。

・恐怖は売り物になる。恐怖は儲かる。どんなことであれ恐怖を感じていることから恐怖を感じている人を守る商売に携わる無数の会社のコンサルタントはそのことを知り尽くしている。恐怖が大きくなれば、その分売り上げが向上する。

・その経験則とは、何かの例が簡単に思い出されれば、それは一般的なものに違いないということである。心理学者はこれを利用可能性ヒューリスティックと呼んでいる。

・「頭」は教育する必要がある。私たちは複雑な情報の世界に生きている。だから「頭」が数学や統計、論理の基礎を学ばなければ、ひどい間違いを犯すことになる。

・この男性の即座の判断――「私はこの車が好きじゃない」――は「腹」から出てきた。しかし、インタビュアーは「頭」に話しかけている。そして「頭」は、どうして「腹」がその車を好まないかについての手がかりを持っていない。そこで「頭」は理屈をつける。「頭」は「腹」の出した結論に着目し、もっともらしいだけでなく、間違っている可能性が非常に高い説明をでっち上げる。

・人はいつも真剣に考えているわけではなく、しばしば、すぐ心に浮かぶもっともらしい判断を信用して満足している。

・購入を12缶までに制限するという表示がないと、ほぼ半数の買い物客がスープ缶を1缶か2缶だけ買った。一方、12缶までの表示があると、ほとんどの買い物客が4缶から10缶買い、1缶か2缶だけという買い物客は1人もいなかった。

・注意しなければならないのは、「腹」の直感的判断に影響を与えるのが実例そのものではないということだ。思いつく実例の「数」でもない。いかに「容易に」思いつくかである。

・集中と繰り返しも記憶を向上させる。何かを見て、それを思い返さなければ、その何かは、かなりの確率で、永遠に記憶に刻み込まれず、まるで一度も起こらなかったかのように意識から消えてしまうだろう。

・ある科学者チームが次のように警告している。アフリカの海岸沖にあるカナリア諸島の1つの島に亀裂が入っており、その島の大きな塊がいつか轟音とともに海洋に崩落する。そして巨大津波が高速で大西洋を横断し、ブラジルからカナダまでの海岸に大被害を与える。

・経験は金のかかる学校を経営しているが、愚か者が他の学校で学ぶことはないだろう。

・大部分の社会学者が、西側諸国がリスクや安全性に取りつかれるようになったその始まりを1970年代に見出している。それは、指数曲線に近い勢いでメディアの成長が始まり、情報洪水の水量が増加し始めた時期でもある。

・被験者は「原子力」と聞くと、ぎょっとし、瞬間的に無意識の反応を起こす。この悪感情は、実際のところ、どんな意識上の思考よりも「先に」起きるため、後に続く思考(リスクに関する研究者の質問への反応も含まれる)の形と色合いを決める。

・多くの者にとって正義は、悪に対する激しい怒りとその悪を非難し懲らしめることに伴う満足感としてとらえられている。それは根本的な感情である。

・核廃棄物の廃棄場のような放射能源について考えると恐ろしさのあまり膝が震える人が、ラドン――間違いなく、核廃棄物によってこれまで亡くなった人より多くの人がラドンによって亡くなっている――を、非常にリスクが小さいと評価した。

・人は地震で死ぬのではない。地震で倒壊した建物によって死ぬ。だから、建物が壊れやすければやすいほど人は死ぬことになりやすい。これが同じマグニチュードの地震によって、カリフォルニア州では数十人だけ死ぬのに、イランやパキスタン、インドでは何十万も死ぬかもしれない理由である。

・世間はリスクに対する行動を要求するがそれにかかる費用には少しも考慮していない。しかし、状況によってそういった費用に直面せざるをえなくなると、急に考えを変えることがある。

・アスベストは「良い・悪い規則」の引金を引き、いったん「良い・悪い規則」が発動すると、他のあらゆることが取るに足りないものになる。「落ちつけなんて言うな!」と1人の親が公開集会で叫んだ。「子供の健康がかかっているのだ」 しかし、学校が9月に始められなくなると、親たちにとって別の種類の危機となった。誰が子供の世話をすることになるのか? 3週間以内に、圧倒的多数の意見が逆転した。

・日本の娼婦がシリコンと豊胸を結びつけた最初の女性である。それは1950年代のことで、在日米国軍人が母国でのような胸を好んだため、娼婦がシリコンや流動パラフィンを胸に注射したのだった。

・病気に関する最新知識を伝えるいわゆる病気認識キャンペーンは、公衆衛生を主な関心事としている組織というより、大手の製薬会社のマーケティング部門によって費用が賄われている。

・製薬会社のマーケティング部門が「病気のブランド化」の専門知識を持った広告代理店と契約していることは秘密になっているわけではない。そういった広告代理店の手腕には新しい病気や機能不全の「創出を促進すること」が含まれている。

・「病気にさせて、元気にする」という宣伝の考え方であり、不安を生み出したあとに、解決策があると言って世間の人々を安心させようとする。

・ニュースが提示する衝撃的な怪我や死の映像は「甚だしく」ゆがめられており「視覚的に強く引きつけられる出来事」には過度の関心が払われ、目立つ映像を提供しない出来事にはほとんど関心が払われていない。

・出来事が見ている人にどう関係しているかなど、キャスターにはほとんど関心がない。刺激的であればそれで十分だ。

・連続殺人犯の話は魅力的かもしれないが、平均的な犯罪者は17歳の万引き犯であり、17歳の万引き犯の話が連続殺人犯の話と同じくらい面白いことは決してないだろう。

・この病院では、ラスムッセン脳炎のような稀な病気が驚くべき頻度で登場し、番組に登場する稀な病気を全部合わせたより多くの人が死亡している糖尿病のような面白みのない病気には、誰もかからない。

・無数の植物が、昆虫やその他の捕食者に対する防御手段として発癌性化学物質を生産している。そのため、食物は言うまでもなく天然の発癌物質に満ちている。

・非常に致死性の高い物質でさえ、十分わずかな量摂取するだけなら、まったく害が出ないだろう。自然界に存在するウランを土壌から吸収した植物を食べたり、そういったウランを含む水を飲んだりした結果として、私たちの体内に存在する何兆個もの放射性ウラニウム原子が、害がないのと同じことである。重要なのは体内にあるかどうかではない。「どれくらい」体内にあるかである。

・「天然健康食品」が満たさなくてはならない安全基準は概して非常に甘い。処方薬や殺虫剤を取り締まる法律や規制とは異なって。

・民衆の敵ナンバー1に昇格することは、まさにテロリスト集団が求めていることだ。それによって仲間に加わる可能性のある者たちとのあいだで名声が得られ、その結果より多くの追随者を獲得する。要するに、テロリストとの戦争を宣言することは、テロリスト集団が求める名声を手渡すことだ。

・アルカイダは、最盛期においても、小火器とアフガニスタンの砂漠にある野営地のネットワークを持っただけの狂信者の一団だった。現在、彼らは小火器を持っただけの狂信者の一団に過ぎない。だから、そのようなものとして論じられるべきだ。

・ほとんどの人が歴史を知らない。知っているのは自分自身の経験と自分の回りで起きていることだけだ。だから、この偉大な進歩を当然のこととみなす。

・人は一生懸命考えることに慣れていない。そして、すぐに頭に浮かんだもっともらしい判断を信用して満足することが多い。





リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理

リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理

  • 作者: ダン・ガードナー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2009/05/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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