SSブログ

『レイヤー化する世界』 [☆☆]

・中世の真っ最中には、イスラムからみたヨーロッパは辺境の未開の土地で、蛮族の地域でしかありませんでした。そして当然のように、ヨーロッパ人たちはイスラム帝国で温かくは迎えられません。どちらかといえば蛮族扱いされ、侮辱されることが多かったようです。その屈辱と、そしてイスラム文明に対する羨望が、やがて「キリスト教の聖地エルサレムをイスラムから奪い返すのだ」という意志へと変わっていきます。

・当時文明の土地だったイスラムの人たちは、十字軍がまさかヨーロッパを挙げて組織された軍隊だとは気づかず、強盗の集団が巨大化してしまったものぐらいに考えて、甘くみていました。これが悪い結果を招きます。

・いまの世界はさまざまな感情によって分けることができると言っています。彼が挙げているのは、「希望」「恐れ」「屈辱」という三つの感情。

・古代から中世まで、帝国は世界中に広がっていました。さまざまな帝国が消え、消えては現れて、たくさんの栄枯盛衰がありました。しかし何千年ものあいだ、帝国が世界の基本システムだったことに変わりはなかったのです。

・帝国に「邪悪な国」みたいなイメージを持つ人もいるでしょう。でもこれは映画やアニメのせいです。「銀河帝国」とか「ガミラス帝国」とか、他の星々を侵略し、拡大していく恐怖の帝国ですね。でもこれもしょせんイメージでしかありません。

・ローマ人は、共通語であるラテン語とギリシャ語をしゃべる人がローマのウチの人間であり、しゃべらない人間はローマのソトにいる野蛮な人だとみなしていたのです。

・イスラム帝国では、境界は宗教でした。イスラム教を信仰する人はイスラム帝国のウチの人間であり、異教徒は帝国のソトの人だったのです。

・ヨーロッパが世界を席巻したから中世帝国が衰えたのではなく、ヨーロッパが活躍するようになる以前にすでに中世帝国は衰えていたということです。

・ペストは、いったん発病したら大半の人が死んでしまう恐ろしい伝染病でした。これは中世の地球では、まるで小惑星爆発による恐竜の絶滅のようなものでした。

・イスラムや中国、インドの帝国は、大西洋や太平洋のような大海原にはたいして興味を持っていませんでした。彼らは、互いの資源や生産物を交易ネットワークで売買して、それでじゅうぶんに満たされていました。わざわざ危険を冒してまで、悪魔が住んでいるいそうな大西洋や太平洋を横断し、どこかに行ってみようとは、考えなかったのです。

・いずれにしても、革命運動では世界は変わらない。そんなことに熱中するよりも、まず目の前の仕事をきちんとこなし、同僚とも協調し、目標を着実に達成していく。そういう行いこそが、僕と家族の人生を豊かにし、そしてこの社会を安定させていく。そういうことなのだ。

・キリスト教も仏教も、どちらの宗教も、死を苦しみからの解放だと説き、教えに従えば、死後には新たな世界へと旅立てると教えたのです。こういう普遍的な宗教が広まった背景には、疫病の流行があったというのは興味深い話です。

・天皇家の儀式の多くは、古代から続いているわけではなく明治時代につくられたものです。また天皇家は古代の神を祭ってい祀っているイメージがありますが、江戸時代までは天皇家のお葬式は仏前、つまり仏教式でした。明治政府が「古代の神」をイメージさせるために、お葬式も神式に変えさせたのです。

・もう他に頼る人がいないのであれば、答えはひとつしかありません。自分の心のなかに「立派な自分」を想像し、その「立派な自分」から外れないように、自分をきちんと律して生きていくのです。

・マルクス主義では、中流家庭になれるのはブルジョワジーだけで、大多数の労働者はずっと貧しいままだろうと考えていました。まさか労働者階級が豊かになって、中流の仲間入りをするとは考えられていなかったのです。

・そしていま、この地球上においてソトは消滅しようとしています。グローバリゼーションが地球を覆い、すべての国とすべての国民を、ウチへと招き入れようとしているからです。すべてがウチになる世界は、近代ヨーロッパの世界システムとは相容れません。

・いま起きている「第三の産業革命」は、これまで先進国がウチに留めていた仕事を、ソトであるアジアやアフリカ、中南米などの新興国に分散しています。これは、近代ヨーロッパの世界システムの重要な要素だった「ウチとソトを分けることによってウチが繁栄する」という原理を、破壊しようとしています。

・不安がうずまく状況のなかで、先進国の人びとの意識はソトに向かうのではなく、逆にウチへウチへと内向しているように見えます。国民国家が意味をなくしつつあるのに、いまさらながら愛国心にすがり、他の国を攻撃する人が増えているのです。

・「皆で助け合い」のような精神が好きな私たち日本人には、たしかに社会民主主義のほうが向いているようにも思えます。しかし社会民主主義を維持するためには、分配する富みがじゅうぶんになければなりません。元手が何もないのに、「皆で分け合っていきましょう」というのは無理なのです。

・いまの学校制度は、授業を行う先生の技量や能力にあまりにも頼りすぎていて、どんな先生にあたるかによって成績がずいぶんと違ってしまいます。

・しかしこれは幻想です。ロボットにできないような知的な仕事のできる人は、限られているからです。たいていの人にはそんな知的な仕事はできず、ロボットの普及で仕事を奪われて終わるだけ、というのが冷酷な未来像なのです。

・機械は、つねに人の仕事を減らします。アメリカでは百年前、農業をしている人が仕事をしている人全体の40パーセントもいたのに、いまは2パーセントになってしまいました。農業の機械化で手作業を担う人が要らなくなったからです。

・一方、これまで自分が社会のマジョリティだと疑わず、安心しきっていた人は、その平凡さのゆえに、特異なレイヤーで他者とつながることが逆に難しくなるでしょう。

・日本やヨーロッパは、「第二の産業革命」の成功体験にいまだに引きずられて、インターネットとコンピュータという新しいGPT(汎用技術)が生み出す「第三の産業革命」に思いきって進むことができないでいます。「ネットは苦手」なんていう人がたくさんいるのも、先進国に共通する特徴です。





レイヤー化する世界―テクノロジーとの共犯関係が始まる (NHK出版新書 410)

レイヤー化する世界―テクノロジーとの共犯関係が始まる (NHK出版新書 410)

  • 作者: 佐々木 俊尚
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2013/06/05
  • メディア: 新書



レイヤー化する世界

レイヤー化する世界

  • 出版社/メーカー: 佐々木俊尚
  • 発売日: 2013/06/26
  • メディア: Kindle版



タグ:佐々木俊尚
nice!(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

トラックバック 0