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『バカが多いのには理由がある』 [☆☆]

・「バカ」は、ファスト思考しかできない人のことです。それに対して賢い人は、訓練によってスローな思考が身についています。

・直感は「遅い思考」が苦手な人たちに、「自分が正しいと感じたことだけが正しい」と告げるのです。

・自由と私的所有権が一対のものだからこそ、詩的所有権を否定したマルクス主義は「自由の敵」とされたのです。

・自由主義=リベラル、平等主義=デモクラット、共同体主義=コンサバティヴ(保守)と、おのおのが守るべき価値によって党派が分かれていたのです。

・働かずに税金で生活するのは不道徳ですが、だからといって飢えて死んでいくのを見捨てるわけにもいきません。こうして生活保護のあり方をめぐる喧々囂々の議論(というか罵り合い)が起きるわけです。

・福祉国家では、政治家は「幸福」を配給しないと有権者の支持を得られません。もっとも効果的な「幸福」は、公共事業や社会福祉でお金を配ることです。

・現在の日本政治は、中道右派(安倍政権)の対抗軸が共産党しかないという奇妙な図式になっており、中道左派がいるべき場所には大きな政治的空白(ブルーオーシャン)が広がっています。

・多くの人は無条件に「正義はひとつしかない」と信じ込んでいるので、政治思想をめぐる議論は常に口汚い罵り合いへと堕してしまいます。まともな人はこんな非生産的なことにかかわろうとは思いませんから、「論壇」なるものが消滅してしまうのは当然です。

・それでも、宝くじだけは、誰に対しても平等に億万長者になるチャンスを与えてくれます。必要なのは「運」だけで、努力も才能も学歴もいらないという仕掛けが、掛け金の半分を購入時にぼったくられるにもかかわらず、多くの人を魅了するのです。

・『日本書紀』も『古事記』も、唐から帰国した知識人や渡来人たちが天皇や貴族(畿内の豪族)の権力を正統を内外に示すためにつくったフィクションでした。

・戦前の軍隊は国民のためのものではなく、国体(天皇を天孫とする万世一系の国柄)を守る天皇の私兵で、満州においても、沖縄においても、民間人を守るために戦うことはありませんでした。

・自己評価と他者の評価が一致している、すなわち「勘違いしていない」人の典型はうつ病患者です。

・日本人は「俺」ではなく「俺たち」を自慢しがちです。

・憲法護持派は、現行憲法には何か特別な力が宿っていて、9条の文言を変えればたちまち日本を災いが襲い、戦争に巻き込まれると信じているようです。これは、言霊信仰以外のなにものでもありません。

・そもそも、試験官が生徒の「人間力」を主観的に判断して合否を決めるのは最悪の選抜方法です。これでは不合格の烙印が、学力ではなく全人格を否定された証拠になってしまいます。
・日本では、いくらまでなら借金をしていいのかを国家が国民に指導しています。改正貸金業法は、「日本人は金銭の自己管理すらできない愚かな民族だ」と世界に向けて公言しているのです。

・橋下市長は、日本の行政を批判してしばしば「そんなの民間ではあり得ない」といいます。しかしどんな民間企業でも、一地方支店長が社長に命令することはあり得ません。「日本維新の会」は、国政政党としての統治が崩壊しているのです。

・リベラルが退潮した一番の理由は、その思想が陳腐化したからではなく、理想の多くが実現してしまったからです。

・リベラルが夢見た社会が実現するにつれて、理想の弊害が目立つようになってきます。こうして、過度な自由や平等、人権の行使が共同体の歴史や文化、紐帯を破壊しているという保守派の批判が力を増してきます。

・日本のリベラルはいま憲法護憲、TPP反対、社会保障制度の「改悪」反対、原発反対を唱えています。こうしてみると、原発を除けば、リベラルの主張はほとんどが現状維持だということがわかります。理想が実現してしまえば、その成果である現在を理想化するしかありません。

・民主党政権の3年半は、簡単に言えば、相手を口汚く罵っていた奴が、「だったらお前やってみろよ」といわれて責任者になったら、結局何ひとつマトモにはできなかった、という話です。人間関係において、これほど信用を失墜させる行動はありません。

・「取締役」は特別な役職ではなく、会社をつくれば誰でもなれます。いまでは1円から株式会社が設立できるのですから、「ニート」や「フリーター」などと呼ばれるくらいなら、会社(マイクロ会社)をつくって社長(取締役)になってしまえばいいのです。

・店先のお菓子を勝手に取って食べれば万引きですが、友だちのお菓子ならいたずらです。法は人間関係が疎遠なほど強い影響を持ち、近しくなるにつれて効力を失い、家庭内では民法や刑法が問題になることは(ふつうは)ありません。ここに、日本の会社の尊法意識がきわめて低い理由があります。

・オランダの就業者1人あたりの労働時間は年間1392時間で、労働生産性(就業者1人1時間あたりのGDP)は53.4ドル。それに対して日本の労働者は平均労働時間1785時間で労働生産性は37.2ドルしかありません。日本人はオランダ人よりはるかに長く働いて、その労働は7割程度の価値しか生み出していないのです。

・既得権にしがみつく人たちは「日本の事情」ばかり強調しますが、欧米で成功したことが日本でできないというのは、「日本人はバカだから規制が必要」といっているのと同じです。

・TPP問題では、多数派(消費者)のメリットはできるだけ小さく報じ、少数派(農家)の被害を強調するのが「正しい報道」とされているようです。

・リベラルとは、常に少数派の側に立って社会問題を解決しようとする政治的態度です。

・ガラパゴス化した人たちの特徴は、「日本は特別だ」という肥大化した自我と、「世界では通用しない」という劣等感です。

・私たちは集団の中から裏切り者を探し出し、バッシングするのが大好きです。この社会で起きる不愉快な出来事の多くは、多数派の大衆がこれを「正義」の名において行うことが原因です。

・彼らはまず、相手に対して厳密な証明を求め、少しのミスも許しません。そして、自分の主張が非科学的だと批判されると「表現の自由だ」と言い張ります。

・「表現の自由」は、自分の気に入った意見にだけ適用されるのです。

・日展というのは、芸術では食べられなくなった芸術家の集金システムなのです。

・美術学校の教員が売っているのは「芸術という幻想」で、日本国内では一流とされる美大の教授でも世界の美術界ではまったくの無名です。

・「芸術家とは芸術によってカネを稼げる人間のことだ」とする村上氏が、日本の美術界で嫌われるのも当然です。

・大衆が好むのは昔も今も勧善懲悪の物語で、そのためにはまず悪者を特定しなければなりません。それによって悪を糾す自分(視聴者とその代弁者としてのメディア)が正義の側に立てますし、悪者に人間味(児童虐待や貧困、自殺未遂など)を持たせれば物語の魅力はさらに増して人々を魅きつけます。

・そもそもマスメディアには「読者/視聴者が理解できることしか報道できない」という制約があり、科学の世界での議論を追うことが困難だからです。

・S型遺伝子が大半を占める日本人は、自分が過度に抑うつ的になりやすいと考えて、羽目を外して楽天的になるくらいがちょうどいいのかもしれません。

・人口構成による自殺率の変化を調整したのが標準化自殺率で、長期的な自殺率の変化を論ずる際は必須とされていますが、なぜか日本ではほとんど知られています。

・「統計学的に正しい」データを見ると、年間3万人の自殺者数はバブル期よりずっと多いものの、戦後の平均的な自殺率とほぼ同じです。

・「教育格差」を批判する人の多くは、大学の教員などの教育関係者です。この人たちは、教育に公費が投入されると得をする利害関係者でもあります。

・旧約聖書を読めばわかるように、ヒトは紀元前の昔から集団を「俺たち」と「奴ら」に分け、「奴ら」を皆殺しにする蛮行をえんえんと繰り返してきたのです。

・欧米の人々がテレビで見たゴマの難民たちは、ルワンダでツチ族を虐殺した当事者たちでした。彼らが人力車などで運んできた「家財道具」は、皆殺しにしたツチ族の家から強奪したものです。だがこうした事実はほとんど報じられず、「虐殺→難民→人道の危機」という構図に短絡化されることになります。

・ルワンダ難民を「援助」すべく多くのNGO団体がゴマに殺到しました。彼らが人道援助の対象にゴマを選んだのはフツ族を支援したいと考えたからではなく、滑走路があって報道陣がいたからです。

・NGOの寄付者(ドナー)は、自分が出したお金が有効に使われ、「人道の危機」にある人々が救われる場面を(安全な場所から)確認して満足感を味わいたいと思っています。これは「消費者」として当然の要求ですから、批判しても意味がありません。

・NGOにとっては、援助の対象が虐殺されたツチ族であろうが、虐殺したフツ族であろうがどうでもいいことです。

・NGOが行なう国際人道援助とは、紛争や虐殺などを「商材」にしてドナーから寄付を募り、「よいことをして満足したい」という願望をかなえるビジネスだと気づきます。

・難民キャンプにある病院へ行き、手足を失った「かわいそうな子供」を紹介してもらいます。その子供たちに義手や義足を与えて、喜ぶ姿をビデオや写真に撮るためです。そのため難民キャンプには、義足ばかり何十本も持っている子供がいます。そのたびにいくばくかの現金をもらえるから、いい商売になるのです。

・リベリアでは、孤児院に住んでいる子供たちの大半は孤児ではなく両親がいます。国際援助を引き寄せるために、孤児院の所有者によって人買い同然の方法で集められてきたのです。

・NGOの利益の源泉は「悲惨な現場」です。そこで彼らは、テレビニュースで「悲惨」に見える人たちを追い求め、同じように悲惨な生活をしていても「絵にならない」人々を見捨てます。

・国際人道援助におけるイノベーションが起こりました。敵を殺すのではなく、四肢を切断して生かしておけば、そのほうがずっとインパクトのある「絵」になるのです。死体には見向きもしなくなったすれっからしの報道カメラマンも、手足のない子供たちが泣き叫び、地面を這いずり回る場面には殺到します。

・欧米のメディアで大々的に報道されれば、NGO(クライシス・キャラバン)が大挙してやってきます。このようにして、ドナーの寄付金は子供たちの四肢を切断した者たちの懐に落ちるのです。

・罪もない人たちの手足を無残に切断するのは、NGOからカネをかすめ取ろうと考える者にとってはきわめて「経済合理的」な行動でした。

・扇情的な嫌韓・反中も同様で、まともな人は無意味な論争からさっさと身を引いてしまいますから、結局、残っているのは「バカ」ばかり、ということになるのです。





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