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『テロリストの心理戦術』 [☆☆]

・とらえどころがない「透きとおった悪」

・ここ20年ほどの間で、日本のみならず世界的に、精神疾患の主役は統合失調症からうつ病に移りつつある。

・うつ病へのシフトはなぜ起きたのか。やはりその最大の原因は、「大きな物語の消失」だったのではないか。冷戦構造が終わり、物語の構造のどこかに自分を位置づけることはできなくなってしまったのだ。

・前を見ると「あなたより上」とされる人たちが何億人も並び、後ろを見ると「あなたより下」の人が並ぶ。先頭も最後尾も見えず、頑張っても手を抜いても、状況はそれほど変わらないようにしか思えない。

・若く、悩みや怒りがある。なんらかの形で役に立つ場を求めている。その彼らに居場所、あるいは死に場所を与えるんです。

・人は誰でも、いくら自信がなくても劣等感があっても、心のどこかでは「でも、私だってうまくハマれる場所さえあれば、誰にも負けない力を発揮できるはず」と特権意識、選民意識を持っている。

・若者は次のようなプロセスでマインドコントロールされていく。(1)相手が今まで経験したことがないことを体験させ、日常の価値観を揺さぶる。(2)相手が今までいかに間違った生き方をしてきたのかを、討論、発表などで自覚させる。(3)リーダーが提示する考えを受け入れることで、自分の力を存分に発揮できるといったカタルシスを軽く経験させ、まわりの人たちがそれをほめたたえる。

・極端な二分割の思考による「メリット」は、さまざまな困難に直面しないですませたり、複雑さを回避したりできるというあくまで本人しか通用しないもので、周囲の人にとってはこの極端な変化や不安定さは迷惑でしかない。

・同じように困難な状況にある労働者たちはお互いに理解し合い協力し合い、助け合わなければならないのに、決してそうはならない。それどころか、その中でさえ「あいつはうまくやっている」と思う相手を見つけては、その人に激しい憎悪を抱き、匿名でその人の悪口をネットに書き込んだりするのだ。

・「差異」から「差別」が生まれるのではなく、「差別」から「差異」が想定されるのである。

・私たちが一番気になってしまうのは「自分と比べて明らかに異なる対象」ではなくて、「限りなくそっくりに見えるが、実は細部が違う(かもしれない)対象」だという。

・いろいろな困難がある人にとって、「自由」というのは優先事項の中でそれほど上位には来ない場合もある。

・これからいろいろなところで、「もうすんだはず」の問題が蒸し返され、実は誰も深く考えていなかったことが明らかになり、いまさらのように議論がわき起こるのであろうか。

・複雑で繊細な表現で述べるようなことはとてもできなくても、「なんとなく不機嫌」「なんとなく気持ちが晴れない」というくらいの変化は自覚できる。それはもはや感情というよりは、もっと動物的な情動に近い次元の話だ。

・家の居間などで話すとお互い歯止めがきかなくなるので、誰か第三者も交えてレストランの個室で話すなどなるべく「正式な話し合い」の雰囲気を作ることが大切だ。

・「もともと統合失調症になるべき人」がそうなれずになだれ込む先として、うつ病と並んで増えたのが解離性障害つまり多重人格であった。

・米ソ冷戦が終了し、大きな対立の物語が消滅した後の社会は、よくポストモダン社会と言われる。

・冷戦という「大きな物語」がなくなったら、民族という「小さな物語」が浮上してきた。「私は東側」「この国は西側」との立場から解放されたとき、人はそれに代わる新たなよりどころを求めたくなったのだ。

・大局的な視点に立つことができず、小さな差異の争いとバッシングに汲々とする「ポストモダン学者」が幅をきかせるようになった。

・インターネットは、多重人格とも非常に相性のよいツールである。



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