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『いま生きる「資本論」』 [☆☆]

・日本の文化のいいところですが、フランス語版の『資本論』も日本語に訳されています。ドイツ語版とフランス語版の比較研究が、わが日本語だけでできる。そんな国は多くありません。

・一方においては富の集積が起きて、他方においては貧困の集積が起きる。そして、その格差はどんどん拡大していき、ついに人間の抵抗が爆発する。革命が起きる。

・すごく深刻な現象はユーロが140円台になっていることですよ。ドルとユーロが4割も開いたなんて前代未聞ですよ。EU加盟諸国のファンダメンタルズはそんなにいいですか?

・人間をギューッと絞るのが一番利潤を得るのに確実な方法だというのが、マルクスの『資本論』の倫理であります。

・ポストモダンは、社会主義がそんなに素晴らしいものなのかと疑って、小さな差異を見ていくことで大きな物語を批判する。これは大きな物語がまだ生きているうちは有効性がありました。

・人間はどうしても物語を作ってしまう動物なんです。そうすると、大きな物語が欠けたところに、到底これまでは見向きもされなかったような稚拙な物語が入ってくるのです。

・だいたいの事柄は1000字あればまとめられるはずです。この1000字というのが何の基準化と言いますと、内閣総理大臣に官僚がブリーフィングする時のペーパーが一項目についてだいたい1000字なんです。

・引用のつなぎ合わせではなく、自分の言葉で書けるように努める。

・自分の言いたいことって、論理にしないと他者には通じないわけです。

・「起承転結」というのは「書き出し→その続き→別のテーマ→もとのテーマ」という漢詩の構成法で、それを使って論文を書けば、何が幹線なのかよくわからないものが出来上がります。起承転結は、詩文の法則としては立派に役を果たす原則でしょうが、これを論文に応用してもらっては困ります。

・「京都三条糸屋の娘」、「上が十六、下が十四」、そして「諸国大名は弓矢で殺す」、「女二人は目で殺す」。これが起承転結のいい例なのですが、転の「諸大名は弓矢で殺す」は論文やレポートには不要です。

・『資本論』の理論のかなりの部分がリカードの理論の引き写しです。リカードの主著であり、マルクスがまさにパクったのは『経済学および課税の原理』という本です。

・本来『資本論』の視座は、資本家側から見ているのです。資本家にとって商品の何が重要かと言えば、売って幾らになるかという価値ですよ。使用価値というのは使用価値がないと商品が売れないから、くっつけているだけなんです。そのことをマルクスは「他者のための使用価値」と呼んでいます。

・中世も現在も、ラテン語をしゃべれる人の人口は同じぐらいなのだそうです。カトリック教会の神父たち、それからラテン語専門家は常に一定数いて、いまだ完全には死に果てていない言語です。

・贈与はずっとするが、与えるだけで、返さないでいいとなると、力関係になります。だから派閥の領袖が、夏に氷代、冬には餅代とばらまく。

・最初は仲間同士のつもりでいても、いつも奢られていると、それは力関係になってしまいます。

・砂糖にイースト菌を入れて発酵させ、密造酒を作るわけです。アルコール度数は60度から70度にもなりますが、けっこうおいしい。

・守銭奴って、ケチではなくて、とにかくカネを持っておきたいという欲望が異常に肥大している人間です。

・ガンと闘うのにはカネがかかります。十分な医療を受けなくていい理屈が欲しいから、「ガンと闘わなくていい」みたいな本が売れているのです。

・長たらしい交響曲など、仮に作曲することはできても、作曲しない。そんなものは売れるはずがない。にもかかわらず、全聾で頭痛もち、それで両親が被爆者である人が、広島に対する祈りを込めて曲を作るとなぜかビックリするほど売れてしまう。

・人間の心理の中にある、被爆者や障害者や被災者への同情や共感などを貨幣に転換することができるのです。資本主義では、ありとあらゆるものを貨幣に転換できますからね。

・浅田さんはデビュー前、アパレルの店をやっていたのですが、これは商売と見なして、「商売が終わった後、家に帰って自分の仕事をする」と思っていた。仕事というのは、作家だ、と信じた。

・平均的なサラリーパーソンの食事よりも、絶対に東京拘置所や刑務所の食事の方が実はいいんですけどね。

・小説を読んで下さいね。19世紀のイギリスで発展したのは、資本主義と近代小説です。人間や社会を考える上で、この二つはまさしく車の両輪のように必要なものです。

・社会科学としての経済学はインテリになる科学的方法、小説は直接われわれの心情を通してインテリにするものだ。

・自分は今こういう所にいるんだということを知ること、それがインテリになるということだ。

・「信頼してしまう」のが一番楽なのです。複雑性を縮減することができるわけですね。

・自分が理解できないことは誰かが説明してくれるだろうと高を括って、とりあえず順応していくようになる。

・反知性主義は、教育水準が低いから起きるわけではありません。これも複雑系に対して堪え切ることができないから、決断主義になるのです。

・基本的には同一律、矛盾律、排中律を使うと、世の中の事柄、森羅万象はほぼ簡単に説明できます。

・貨幣形態というのは、どうやってカネを稼いでいるのか、われわれ一人ひとりがどういう労働に就いて、社会的にどんな意味のある商品を作っているのか、それらを全部消し去ってしまう魔法の力があるわけです。

・五公五民や六公四民は実はけっこう農民にとって有利だったんですよ。というのは、太閤検地がベースになっているから、その後の生産力の向上が計算に入っていないんです。

・奴隷は主人に合意しているのではなく、自分の境遇を当たり前だと思い込んでいるのです。

・ロシア革命以降の社会主義体制の最大の成果は、社会主義システムが外に閉ざされていたおかげで、資本主義諸国に「きっとあれはものすごい素晴らしいシステムなんだろう」と勘違いさせたことです。



いま生きる「資本論」

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  • 作者: 佐藤 優
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/07/31
  • メディア: 単行本



いま生きる「資本論」(新潮文庫)

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  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/02/01
  • メディア: Kindle版



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