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『「読まなくてもいい本」の読書案内』 [☆☆]

・抽象化は現実のある種の矮小化。

・この世界が無秩序でできているのなら、すべてはとっくの昔に崩壊しているはずだ。

・自分を自分に取り込むことをフィードバックという。単純な規則から複雑な組織が生まれるのはフィードバックを繰り返すからだ。

・市場や社会はランダムネス(ベルカーブ)ではなく、フラクタルが生み出すラフネス(複雑さ)な世界だ。

・単純な規則がフィードバックを繰り返すことで、複雑な組織を生み出していく。この世界は、自然界も人間社会もラフネス(複雑さ)の秩序でできていて、因果論で未来がわかったり、確率(ベルカーブ)で未来を予測できるのはその特殊なケースなのだ。

・水を熱すると温度が上昇するが、沸点に達して臨界状態になるとそれ以上温度は上がらず、表面が激しくあわ立つというまったく別の現象が起きる。これが最も身近な相転移だ。

・世の中には自信過剰な人がものすごくたくさんいて、彼らは科学的な事実と直感が対立した場合、無条件に自分の直感が正しいと信じるのだ。

・進化を進歩と混同するのはまったくの間違いで、トカゲやアリはもちろん、ウイルスだって40億年の進化の歴史を経て現在の姿になった。

・進化の基準を知性(意識の複雑さ)に置くなら、ヒトが最もすぐれているのは疑いない。だが子供の数や繁殖度で進化の効率を測るのなら(学問的にはこちらが主流だ)、最も成功した生き物はアリやハチなどの社会性昆虫になるだろう。

・繁殖の基準を子供の数ではなく血縁度で測ることができることに気づいた。子供を1人生むことと、兄弟姉妹が1人増えることは、血縁度から見れば同じだ。だったら、子供をたくさん産むことで繁殖度を上げようとする個体がいる一方で、自分は子供を産まなくても、兄弟姉妹をたくさん作ることで結果として繁殖度を高める個体がいてもおかしくはないだろう。

・現代の進化論は自然選択の原動力を、「できるだけ多く子供を残すこと」から「できるだけ多く血縁をつくること」へと拡張した。これを包括適応度という。

・グードルなどのPC(ポリティカル・コレクトネス)派は科学ではなく、「政治的に正しい生物学」を求めただけだった。

・社会生物学論争にもそれなりの意味はあった。科学と(エセ)道徳が対立したときに、誰が真理の側に立っているかがはっきりしたからだ。

・「PならばQである」という肯定式と、その対偶である「QでないならばPでない」という否定式は常に真偽が等しい。

・進化心理学は、恋人同士がわかりあえない理由をたった一行で説明してしまう。すなわち、「異なる生殖戦略を持つ男女は「利害関係」が一致ない」のだ。

・ポーカーで毎回ブラフをかけるような戦術は、たちまち誰からも信用されなくなってしまう。それに対して、「強い手のときしか勝負しない」との評判が確立していれば、相手はブラフを信用して降りるだろう。これがコミットメントで、「どんな犠牲を払っても実行する」と信じさせることだ。

・「フォン・ノイマンは人間ではない。人間について詳しく研究し、人間を完全に真似ることができた半神半人だ」といわれた。
・均衡は平等とはかぎらない(というか、不公平なことの方が多い)ということだ。相手が圧倒的に強いなら、奴隷のように扱われても我慢しなければならない。そんな人生は不満だろうが、死ぬよりはマシで他に選択肢がないのなら、ゲーム理論的にはちゃんと均衡しているのだ。

・ジャンケンの場合、最適な混合戦略はグー、チョキ、パーを三分の一ずつランダムに出すことだとわかっている。

・混合戦略がスゴいのは、相手が違う戦略(ちょっとチョキを多めに出すとか)をとった場合、最初は勝負が拮抗するかもしれないが、長期的には「確実に」勝てることが数学的に証明されていることだ。

・テニスのファーストサーブを左右どちらのコートに打つか。この場合も、右と左をランダムに二分の一ずつにする混合戦略がゲーム理論的には最適解だ。

・プロでもランキングが下の方だとやはり二分の一にはならない、ところがトッププロだけに限定すると、ゲーム理論通り、ちゃんと左右に半分ずつ打ち分けているのだ。

・孫子の兵法にある「背水の陣」は、「兵は死地において初めて生きる」という。これをゲーム理論で解釈すれば、味方に対しては「戦わなければ死ぬしかない」というインセンティブ(動機づけ)を明快にし、敵に対しては「絶対に後には引かない」とコミットメントする戦術だ。

・石器時代には、そもそも「負債」などという概念はなかった。原始人が知っていたのは、獲得する(利益を得る)か、奪われる(損をする)かの二者択一だ。

・原始時代には、富を蓄える手段がほとんど無かった。獲得するものの多くは生の食料で、たくさんあっても腐らせるだけでほとんど役に立たなかった。大事なのは大量に獲得することではなく、「確実に」獲得することなのだ。

・「プロスペクト理論」は、人は得をするときと損をするときで「プロスペクト(見通し)」が大きく異なることを示した。

・なぜ、アベノミクスをめぐって賢いはずの経済学者同士が口汚く罵り合っているのだろうか。それは、「マクロ経済学は科学ではない」からだ。

・「成功の法則」は未来永劫続くわけではないが、グローバル市場はあまりにも巨大なので、ちょっとした発見で凡人を億万長者にするくらいの「奇跡」はいくらでも起こせるのだ。

・脳科学はものすごい進歩を遂げた。いまだに意識の謎は解けないものの、「神」や「哲学」をリングのコーナーに追い詰めるくらいのところまではきたのだ。

・自然科学の立場から意識を研究する人たちも、デカルトにはしばしば言及するがフッサールやハイデガーは完全無視だ。

・哲学者は2000年間、ほとんど何の成果も残していない。その理由は、(因果論と直感でつくられた)古いパラダイムで考えることが、ソクラテスや仏陀や孔子の時代にすべて考えつくされているからだ。

・ものを見ているにもかかわらず意識にのぼらないようにする方法はいくつかあるが、連続フラッシュ抑制では、左目にさまざまな図形を連続して表示させ、それによって右目で見ているものを意識から消す。

・「哲学者」を名乗る人たちは進化論も脳科学もいっさい無視してフッサールやハイデガーの難解な書物の訓詁学的解釈をひたすら繰り返してきた。

・人の判断には理性よりも感情が圧倒的に大きな影響を持つことを示している。論理的に正しいとわかっていることでも、感情がそれを否定すれば、その事実を受け入れることができないのだ。

・心というのは、視覚や聴覚、触覚などによって外界を認識する機能のことではない(これならロボットでもできる)。あらゆる知覚に「生き生きとした感じ」がともなって、人ははじめて自分が生きていると「意識」することができる。

・意識そのものを知ることはできないとしても、意識の複雑さなら計測できるのではないだろうか。こう考えるのが「意識の統合情報理論」だ。

・意識が成立するにはデータの量だけでなく、それがどのように統合されているかが重要だと考えた。

・アメリカが実は、国民のほとんどが悪魔や地獄を信じている非科学的な「迷信社会」。

・脳に流れ込んでくる膨大な量の情報のうち言語化できるのはごく一部で、大半は無意識の「知能」が処理している。

・自分の行為を反省し、説明することを自意識と呼ぶならば、その役割は「自己正当化」だ。

・自己正当化は無意識の下で行なわれるため、どれほど賢くても自分のウソに気づくことはできない。

・意識に現われる「自由な心」はよくできた幻覚にすぎない。「意志」はあくまで脳の活動の結果であって、原因ではありません。

・トレードオフがある以上、すべての人が満足することはあり得ないんだから、今より状況が改善できればそれでいいんだよ――こういう考え方を功利主義という。

・デモクラシー(democracy)は神政(theocracy)や貴族政(aristocracy)と同じく政治制度のことだから、「民主政治」「民主政」「民主制」などとすべきで、「民主主義(democratism)」は明らかな誤訳だ。これでは「民主政」という政治制度の上にさまざまな政治思想(主義=イズム)が対立するという基本的な構図がわからなくなってしまう。

・人はなぜこれほど正義に夢中になるのか。その秘密は、現代の脳科学によって解き明かされた。復讐や報復を考えるときに活性化する部位は、快楽を感じる部位ときわめて近いのだ。

・ヒトやチンパンジーのような社会的な生きものは、「正義」の行使(裏切り者を罰すること)を娯楽=快楽と感じるように進化してきた。ハリウッド映画から時代劇まで、「悪が破壊した秩序を正義が回復する」という勧善懲悪の陳腐な物語がひたすら繰り返されるのも無理はない。

・これまでレジ袋第2円を引いてもらう機会を無視していたのだから、2円を追加で払ったとしても同じことだ。ところが、「2円得する」ことにまったく興味のなかった人が、「2円損する」と気づいたとたん、行動が変わってしまうのだ。

・ヒトが得するよりも損に敏感に反応するよう「デザイン」されているからだ。

・人は無意識のうちに、「想像したことは現実化する」と思っている。これはふつう「夢はかなう」といわれるのだが、それが悪夢でも同じことだ。

・監視カメラは人々を「監視」しているのだろうか。カメラが映す映像を誰かが四六時中見ているわけではなく、単に録画しているだけなのだから、「記録社会」といった方がより正確かもしれない。

・監視カメラは、誤認逮捕されたときの無実の証明にも使えるから、法律を遵守する健全な市民はその設置を積極的に要求するかもしれない。すべての電車に監視カメラを設置すれば、痴漢を抑止すると同時に痴漢冤罪を防ぐことも期待できるだろう。

・大学教員の仕事は「教養」という権威を金銭に換えることで、ほとんどの文系の大学は彼らの生活のために存在している。



「読まなくてもいい本」の読書案内:知の最前線を5日間で探検する (単行本)

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  • 作者: 橘 玲
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2015/11/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
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