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『「司馬遼太郎」で学ぶ日本史』 [☆☆]

・日本の現在の皇室は北朝の系統ですが、明治天皇はこれを裁断し、楠木正成が仕えていた南朝が正統であると決定しました。こうして第二次大戦の敗戦時まで、日本の国家では南朝を正統とする議論が正しいとされていました。

・他の動物と人間が大きく違うのは、動物は自分の体験しか未来に活かせないのに、人間は違う時代や違う場所に生きた赤の他人の経験をも将来に活かせる点です。

・昭和の軍事国家が無茶をやって壊れ、形を変化させたのが、私たちの現在の社会である。

・司馬さんの場合、信長という人物の内面を描くより、信長という存在が与えた社会的影響を明らかにする方が大事でした。ですから、あえてその人物の性格や資質をひと言で定義します。

・信長評で最も重要な指摘が「合理主義者」です。人間を機能で見る。それでいて非常に直観的で、美しいものが好きであるという、芸術家のような側面を持っていると司馬さんは指摘します。

・革命には最初に理想主義を掲げる予言者が現れ、次に革命の実行家が現れ、最後に、その革命の果実を受け取る権力者が生まれるのですが、その時にはもうすでに革命は腐敗が始まるということです。

・日本人というのは、とにかく戦争で目に見えない「思想」というものに痛めつけられた。だから、ちゃんと目に見える、即物的なものを強く信じる合理的な世代が生じて、高度経済成長期のときに一気に物質文明に向かったのだ。

・組織は変質する。最初は理想があるけれど、だんだん老化して、おかしなことをおこない始めるという、古今東西、あらゆる組織や人物に言えることです。

・合理主義とは相容れない偏狭な「思想」にかぶれて、仲間内だけでしか通用しない異常な行動を平気でとってしまう人や集団です。

・多くの場合、不合理を生み出しているのは、言ってみれば形式主義なのです。

・「こうしておりましたから」とか「こういう形式をとっていますから」という、その当時までは通用していた常識主義、形式主義を否定することから日本の発展が生まれる。

・彼は長崎の町があまりに無防備なことにおどろき、敵に攻められたらどうするのかと町の商人にたずねました。すると、「それは幕府(お上)のなさることだ。われわれの知ったことではない」との答えが返ってきてびっくりします。

・咸臨丸、勝海舟や福沢諭吉が乗っていたがために後年有名になりますが、遣米使節のトップが乗っている船(ポーハタン号)ではなく、それに随行していた随行艦でした。

・正しくて誰でももっともだというスローガンは、革命的ではないのです。それは、液体でいえば、水です。水は、生きるのになくてはならないものです。しかし、革命というのは、みんなが酔っぱらわなくてはならないものですから、水ではどうにもならなくて、強い酒を必要とするものなのです。

・国民全員が、「草莽の志」を抱いて「天皇の家来」を名乗ることで、政治参加が可能となる回路ができたわけです。これが明治維新という革命の原動力となったのです。

・「分相応」は、江戸人みんなに課せられていた義務でした。こうした義務が貫徹されると、たとえばものすごい職人とかが生まれたりします。現代で言えばノーベル賞をとれそうな人材も、本人の意思や能力に関係なく、生まれた環境や育ちによって自動的、強制的に与えられた仕事に就きました。彼らは、その家業の道を極めるような完璧な仕事をしました。

・現代の日本人がどういう考え方をするかと言えば、「政府になんとかしてもらって、景気がよくなるといいな」となるわけです。ところが明治の人たちの考え方だと、「中国の経済成長が7パーセントならば、せめて自分が関わるものづくりや生産だけでも毎年7パーセント成長させよう」。この精神こそが、明治の強さだったと思います。

・死者たちのせめてもの幸福は、自分たちが生死をあずけている乃木軍司令部が、世界戦史にもまれにみる無能司令部であることを知らなかったことであろう。

・公共心だけの人間がリアリズムを失ったとき、行き着く先はテロリズムや自殺にしかならない。

・自分の家をよくするだけではなく、周りの人たちのお世話までできる家にする――その高い次元の、真の愛国心を持った人が支配層にいる間はまだしも、そうではなくなってきたときに国は誤りをおかします。

・当時の日本人は、何もわかっておらず、よその国に対して強硬に出て、威勢のいいことを言うことが正しいと信じ切っていました。

・日本人というのは、前例にとらわれやすい「経路依存性」を持っています。「合理主義」の対極にある日本人の性質が「前例主義」(経路依存)です。

・明治維新の理想のひとつは、天皇の下の国民平等の実現です。ところが、維新の功労者が真っ先に、貴族になりました。

・海軍の人たちは失業するわけにいかないので、大きいままの海軍を維持して、今度は新しい仮想敵を求めます。ロシアの艦隊を破った後ですから、それはアメリカということになる。



「司馬遼太郎」で学ぶ日本史 (NHK出版新書 517)

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  • 作者: 磯田 道史
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「司馬遼太郎」で学ぶ日本史 NHK出版新書

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