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『「常識」としての保守主義』 [☆☆]

・政治に絡む諸々の現象を観察する際に大事なのは、「それが、どのように観えたか」ではなく、「誰が、どのような立場や視点に拠って、それを観たか」に留意することである。

・自らの「視点」に対する執着を示す。そのことは、他の人々の「視点」を排除するという意味の「偏狭」に結びつくのである。

・保守主義と呼ばれる思潮の本質は、人間の「理性」を懐疑し、その限界を認識するということにある。

・「右翼」には、「進歩」を拒絶し「変革」によって既に去った古い体制への回帰を模索する傾向もあるけれども、この傾向を鮮明に打ち出す立場は、一般には「極右」と呼び習わされる。

・そもそも、政治とは、他の人々を自分の望むとおりに動かすことを趣旨とする営みであるけれども、その営みを裏付けるのは、「暴力」、「富」、「魅力」を中身とする「権力」である。

・振り返れば、日本が近代国家として出発した明治という時代もまた、19世紀後半の「グローバリゼーション」の趨勢に否応なく巻き込まれれ、それに対する適応に没頭した歳月であった。

・広範な「国家の役割」への期待は、具体的には官僚層への「依存」の精神に通じている。

・帝政期におけるロシア芸術の豊饒さに比べれば、ソヴィエト共産主義体制下に登場した芸術作品が、総じて貧相な物であったのは、疑うべくもないであろう。こうした事情は、文化の豊饒さが人々の「自由」に裏付けされた多様な活動に支えられることを示唆している。

・共産主義や社会主義を標榜する国家の実態は、「官僚統制国家」である。

・「自由」の擁護を念頭に置いた諸々の政策は、必然的に「格差」を生じさせる。

・保守主義の思想の核にあるのは、人間の「理性」への懐疑である。一人の天才が自らの「理性」によって披露した見解や構想よりは、大勢の人々が多年に渉って尊重してきた慣習や伝統の方がはるかに信頼を寄せるに値する。それが保守主義の姿勢である。

・模索されるべきは、「変革」(change)ではなく、「適応」(adjustment)であるということになる。それは、元来、「正しい方向へ」(ad-just)移るということを意味する。

・「中庸」の美徳を支えるものは、第一義としては、「結局のところは、人間の手掛けることには限界がある」という感覚である。それは、物事に対する「謙虚さ」に相通じている。

・日本は、民主主義国家ではあるけれども、その国制は、「共和制」(republic)ではなく、歴然とした「立憲君主制」(constitutional monarchy)に他ならない。

・古代ローマ以来の「パンとサーカス」によって国民の歓心を買う政治手法には、「国民に対する不信と侮蔑」が反映されている。

・文化や芸術とは、人々の自由にして多様な活動における「時間の蓄積」を反映したものである。

・平時の政治家においては、自らを支持する特定の社会集団・階層の利害を優先しようという誘惑は、誠に強いものであるけれども、そうした誘惑に無分別に屈することは、国民各層に対して「断絶」の種を蒔くことである。

・川端康成の傑作『雪国』の舞台である越後湯沢にリゾート・マンションが立ち並ぶ風景を前にして、保守主義の政治は、それに怪訝な眼差しを向ける感情の受け皿を提供できるのか。そうしたことが問われているのである。

・政府の第一の義務は、人々を保護することであって、その生活を立ち行かせることではない。

・明治期に日本の発展を牽引したのは、実践を旨とする英国流の「現実主義(realism)、効用主義(pragmatism)」の思考であった。

・政治の前提とは、「多様性」であり、政治という営みの趣旨は、「異質な他者」との多様な関係を紡ぎ、それを切り回すことにある。

・ナチスから弾圧されたという政治上、道徳上の高みに拠って、ナチスに追随した人々を非難し、断罪するがごとき振舞いは、ドイツ国民の間に「断絶」を来すものでしかなかったのである。

・その再統一の実態は、「西」による「東」の「吸収合併」であった。東ドイツは、連邦国家としての西ドイツに「新連邦州」として編入されたのである。

・外交は機械工ではなく庭師の手法で行なわれるものである。

・民主主義体制は、「被治者」が「統治者」でもあることを要請する政治制度である。

・マルクス・レーニン主義の「肝」は、カール・フォン・クラウゼヴィッツが『戦争論』に残した「戦争は、別の手段による政治の継続である」という命題を転倒させて、「政治は戦争(闘争)の継続である」という命題を立てたことにある。

・東西両洋の古典は、「統治者」に対して統治の際しての「作法」を説く意味合いを持つ。



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