SSブログ

『名著の話 僕とカフカのひきこもり』 [☆☆]

・疑問が一切解明されないまま、それどころか話題にすらならないまま物語が終わってしまう点です。そこには、読者が期待する意味やメッセージがごっそりと欠落しており、それゆえにカフカの文学は「不条理」の文学と呼ばれています。

・僕は、古典落語にある「松の木におじやをぶつけたような不細工な女」という表現が大好きで。こういうふうにいえば、聞き手それぞれのオーダーメイドの不細工な女性が頭に浮かんでくる。

・人間関係に安住できる人間とそうでない人間がいて、カフカは明らかに後者でしょう。

・スパルタ教育の勝利者って、安定していると、おそらく居心地が少し悪いんです。スポーツ選手でもみんな苦しいときに伸びているという実感があるから、安定した生活や充実した生活に安住したくないという意識が働いちゃう。

・文学って「わかる」ものじゃないんですね。「わかる気がする」だけ。

・一人の人間の視野はどうしても限られるので、一つの文学作品を、どうやったらみんなで豊かにしていけるかということを考えるのが文学研究だろうと思います。

・「神隠し」って、失踪を追及しない優しさとか、行方不明を神のせいにする事なかれ主義みたいなことが混ざって出来上がった言葉だと思うんですよ。

・現代に『遠野物語』みたいなものが成立するなら、おそらく貧困層と富裕層の間じゃないか、という気がするんです。

・本なんか読んでいる場合じゃないという貧しい暮らしをしている人たちの持っている知恵とか、力みたいなものを箇条書きにした本が、裕福な知識層によって「へえ、こんな生活してる人がいるんだ」みたいに消費されるようなことをイメージすると、ちょっとゾッとするんですよ。

・生きがいというものは、まったく個性的なものである。借りものやひとまねでは生きがいたりえない。

・偶然はしばしば、たまたま訪れたように見える必然であるといえると思います。

・人間が最も生きがいを感じるのは、自分がしたいと思うことと義務とが一致したときだ。

・懸命に語ると、言葉ではなく、何かが伝わる。ですから、何を「生きがい」にしているのかは伝わらなくでも、相手が「生きがい」と呼ぶほかない何かを胸に抱いて生きていることはわかってくる。

・人は、生きて「生きがい」をつくるのではなく、「生きがい」があるからこそ、生きられるのだと思うのです。

・世の中に絶対ということは少ないんですが、「私は二人いない」のは絶対の真理です。

・しかし、現代人は、じつに大きな労力を用いて、元の生活に戻ろうとする。あの窮屈で、不条理な過去であっても、慣れているというだけで、人は戻ろうとするのです。

・現代は「表現」が重んじられる時代です。極端にいえば、信じていないことでもうまく表現することは可能です。そしてそれが評価されたりもする。しかし「体現」は、それまでその人が生きてきたものが表れてくる。

・亡くなるということは消滅ではなくて、姿を変えて自分の中に宿りなおすことなのではないか。

・人生の本当のことは、言葉にすると矛盾しているように感じられる。でも、だからこそ本当なのであって、逆の言い方をすれば、理が通っていることはどこかに嘘が潜んでいる。

・自分が子供の頃好きだったことを、誰にやれと言われたわけでもない、お金がもらえなくともやり続け、好きだったことを突き詰めるしかない。

・「人生の後半」は年齢ではありませんね。大震災で両親を亡くした10歳の子供は、10歳で「人生の後半」に入ってしまう。つまり、その子は、自分の固有の問題を生きざるを得なくなる。だから、みんなと同じ問題を考えていればいいというのは人生の「前半」で、その人だけの問題に直面したら何歳であろうと、「後半」だと思うんです。



名著の話 僕とカフカのひきこもり

名著の話 僕とカフカのひきこもり

  • 作者: 伊集院 光
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/02/16
  • メディア: 単行本



名著の話 僕とカフカのひきこもり (角川学芸出版単行本)

名著の話 僕とカフカのひきこもり (角川学芸出版単行本)

  • 作者: 伊集院 光
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/02/16
  • メディア: Kindle版



nice!(0) 
共通テーマ:

nice! 0