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『恐怖の構造』 [☆☆]

・バナナの皮で滑って転ぶという笑いは、転倒した人が頭から血を流しはじめた瞬間から恐怖に変わるように、恐怖と笑いは薄紙一枚の差なんですね。

・いわば恐怖というのは二股に分かれた道、それに対して不安はだだっ広い砂漠みたいなものです。不安はいつ終わるかもわからない、どう歩いてどう逃げればよいかすらはっきりしない存在なのです。

・被害者が何十か所も刺されている場合には、立場や年齢が下位のグループを対象に加害者を捜すのだそうです。なぜなら、被害者よりも立場が上位になる人間は一発でとどめを刺すからです。ところが下位グループは「反撃されたらどうしよう」という不安が常にあるため、致命傷以外の傷がたくさん残ってしまうんだとか。

・良い暮らしについての情報は蔓延しているのに、どうしても自分はその情報と繋がれない……そんなジレンマを青年は抱えている。

・「どう生きればいいか」が見つからないまま生きていく。これは恐いですよ。つまり、恐怖は「いかに生きるか」という問題と不可分なんです。

・最初こそ「面白いなあ」と思いながら素直に読みましたが、二回目以降は「何でこんなに惹かれるんだろう、何が好きなんだろう」って疑問を解消するための読書になりました。

・レクターは観客から好かれる傾向にあります。それは狂人だからです。対してビルは変態なので、誰も好感を抱かないんですよ。大衆って狂人が好きなんです。

・変態のベースが過剰な自己愛、つまりナルシシズムだからなんです。彼らは自分の趣味趣向から欠点、弱さまですべてを容認してしまう。それを他者に「こういう人間なんで許してね、ごめんね」と強要し、請願していく。自己改革やタフネスとは無縁の理不尽な押しつけしか行いません。

・ところが狂人は逆なんです。自分の望むことについてはなりふり構わず突き進み、障害のとなるものに対してはとことん闘っていく常軌を逸した力を持っている。そして、その障害の中には自分の弱さも含むんです。己を克服していく。

・家というのは安らぎを得られる空間でありながら同時に抜け出すことが容易ではない檻でもあり、、そこで起こることは外部からわからないブラックボックスとしての役割も有しています。

・我々がドラキュラや狼男をノスタルジックな存在としか思えないように、いま我々が怖がっているような対象や価値観は過去のものになることでしょう。そのときに、はたしてどのような「恐るべき未来」が待っているのか。

・何かを推理したり難文を解読したりといった場合には、大脳新皮質という別な部位を使うんだそうです。つまり偏桃体の機能が抑制され、恐怖が減ってしまうらしいんです。読み解いていく作業と恐怖を感じる作業というのは、脳処理においてまったく別物、両立させようとしてもアンバランスになるというわけです。

・小説は、見たことも聞いたこともないものでは組み立てられないんです。そこで僕らは「読者自身が、知っているもので勝手に組み立ててくれる」ように工夫しなければいけないんです。

・小説は「読み終わった読者にどんな感情を抱かせたいのか」が大事なんです。その感情は作者の根底にある思想です。

・読者というのは頭の中で音読、黙読しているんですね。なので、小説というのは視覚情報というよりも耳からの情報に近いものがある。

・才能のある人間というのは、何気ない日常の中でも圧倒的な量の情報を吸収します。

・今まで見て聞いて考えたことがすべて文章に出てくるんです。ヒーローを上手に描ける人は、ヒーローと同じ視点で世の中を見ている。

・強迫神経症的なことを口にする人間って、表面こそ紳士的なんだけど、内面はけっこう狂暴だったりしてさ。うっかり気を許すとその顔が出ちゃいそうになるもんで、第三者からすれば愚にもつかない行為でエネルギーを消化しようとするんだよね。

・統合失調症の発病率って人口比でみるとおよそ1パーセントなの。国とか人種とか一切関係ない。時代さえ関係ない。常に1パーセントがキープされている。

・統合失調症の考え方で「具象化傾向」というのがあって、たとえにすぎないものをすべて具体的に実行するのよ。「壁に耳あり」って聞いたら、切り取った耳を壁に貼りつけちゃうみたいな。

・なぜ大多数の人間は万物に恐怖をおぼえないかといえば、日常生活にある種のスピードがあるからだと思う。立ち止まれないから脳がスルーしちゃうんだろうな。ところが、何かの加減で立ち止まっちゃうと大変な事になる。

・人間が精神的に不調になるのって、スピードダウンしたときだもん。速度があればたいがいのことは走り抜けられる。

・「ドラッグがキマってる人に”大丈夫か”と訊ねてはいけない」って教わったんです。聞かれるたびに大丈夫かどうかを自己確認するもんで、どんどんバッドトリップしちゃうんですって。

・バッドトリップって視覚と聴覚なんです。「変なにおいがする」とか嗅覚方面にはいかない。

・電波がどうのとか言ってる人も、それほどパターンがない。ビックリするくらいバリエーションは少ないよ。「ただの人」が短時間で思いつくんだもの、それほど込み入った話があるわけない。要は映画やニュースで見聞きしたものにおさまっちゃうんだよ。



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  • 作者: 平山 夢明
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