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『戦争がつくった現代の食卓』 [☆☆]

・たいていの病原菌はpHが4.6より低いと増殖できないので、酸性度を強めれば肉の保存性が高まる。

・事業の中には政府から資金提供を受けるため報告義務を負うものもあるが、多くは政府から資金以外の支援はふんだんに受けるが資金提供は受けていないので報告義務がなく、それゆえ事業の大部分は謎めいていて、実態がほとんどわからない。

・金槌を持つ者にはすべてが釘のように見えるとしたら、槍を持つ者にはすべてが何に見えるだろうか。そう、獲物だ。

・太古のホモ・サピエンスの糞便からミオグロビン(人間の筋肉に含まれるタンパク質)が検出されたことから、私たちの祖先が仲間や敵やえせ友だちをときおり食べるのをいとわなかったことは否定の余地がない。

・人類がいつでも酒を飲めるように農業を発明したというのは、複数の考古学者がまじめに提案している説である。古代シュメールでは農作物の四割以上がビールづくりのために栽培されていた。

・戦場における彼らの武勇と偉業が西洋の規範として君臨してきたのは、もっぱら彼ら自身が記録を書き残したおかげである。

・大昔の祖先が多民族に対して抱いた反感の名残は、食品への偏見として現在でも見受けられる。中国人は、中国を征服したモンゴル人の常食だった乳や乳製品を嫌う。

・イスラム教徒とユダヤ教徒は豚の食用を禁じているが、それは敵の飼育する家畜に対する本能的な侮蔑のせいである。

・アステカ人は土地、財物、権力といった伝統的な戦利品にはほとんど関心を持たず、統治機構には手をつけなかった。なぜなら、彼らの最も欲していた天然資源はすでに獲得できていたからだ。その資源とは、敵兵の新鮮な身体である。この人食い帝国は、一世紀にわたる支配の間に100万に以上の老若男女をむさぼったと推定されている。

・食品に関する何よりも基本的な事実とは、それが「死んでいる」ということである。この点から、食品の保存と死体の防腐処理との不穏な類似が生じる。乾燥、塩漬け、砂糖漬け、燻製、埋蔵といった伝統的な食品保存法の多くが死体に対しても用いられている。

・非侵襲性病原菌は、「悪い天気というものは存在しない。ただ装備が不適切なだけだ」などと言って他人を見下すアウトドア派と似ている。極端な温度、栄養欠乏、環境ストレス、免疫反応など、ありとあらゆる条件に対して万全の備えができている。

・発明者は大金持ちとなり、ペンシルヴェニアとキューバに自社工場を中心とした町をひとつずつ建設した。

・大事なのは、中間水分食品は水分活性が著しく低下してだいたい0.6から0.9の範囲となっている(ちなみに、乾燥食品の水分活性は0.2以下)ので、腐敗や病気を引き起こすレベルまで細菌が増殖できないということだ。

・筋肉が脂肪を代謝するには酸素を大量に取り込まなくてはならないので、激しい運動の最中には脂肪がさらに利用しにくくなる。

・実質的に無価値なものに付加価値を与えて商品を作るという事業に意欲的な民間企業は、役割を拡大していった。

・マックリブ(この商品は豚肉のくず肉が安価なときにしか発売されない)が登場したとかまた消えたとかブログやツイッターで報告して悦に入る。

・今やパンの存在を最も意識するのは、パンがなくなったときだ。

・グルテンの巨大分子(その構成要素の一つであるグルテニンは、自然界に存在する最大のタンパク質分子である)をかき混ぜてこねると、分子同士が絡み合って相互に結合した長い鎖を形成し始める。

・もっぱらエジソン的な、既存の理論では答えが出せなければ試行錯誤に頼るというやり方をしていた。

・動物実験ではフタル酸エステルが繁殖障害を引き起こすことが示されており、また、子供の低IQとの関連も確認されている。

・最近のメタアナリシス(過去に行なわれた複数の関連する研究の結果を検討する研究法)では、レトルトパウチ入りのインスタントベビーフードを食べた乳幼児は、体重1キロ当たりで換算したフタル酸エステルの推定1日摂取量が被験者全体の内で最も多かったことが判明した(しかもそのベビーフードは1食しか摂取していない)。

・人間の細胞に入って異変を起こすのにぴったりなサイズのナノ粒子が健康に与える影響についての毒性データはほぼ皆無に等しい。

・pHが下がるのは、酸素を必要とする代謝(好気性代謝)が停止する一方で酸素を素必要としない代謝(嫌気性代謝)がしばらく続き、乳酸が蓄積する(生体の組織では、乳酸は絶えず除去される)ためである。こうして酸性度が強まると、pHが4.5~5.6まで下がり、タンパク質が水分と結合しにくくなるので、除去すべき「自由水」が増える。

・亜致死損傷と呼ばれるものだ。損傷した細胞は、機能を維持しつつ損傷から回復しようと努める。これによって貯蔵エネルギーが枯渇し、次の攻撃に対して脆弱になる「代謝性消耗」という現象が生じる。これは人里離れた場所で敵の膝を銃で撃ち抜くようなもの考えるとわかりやすい。失血死することはないが、助けを求めて這い回るうちに空腹と疲労で死んでしまう。

・微生物細胞内の異なる標的(細胞膜、DNA、pHや水分活性や酸化還元電位に関係する酵素系など)を同時に攻撃し、いくつかの部分で微生物の恒常性を乱すことができれば、相乗効果が期待できる。

・近頃の私は、面白いネタをたくさん知っている愉快な人物になったかと思うと、食べ物の知識をひけらかす嫌味な人物になったりしている。

・私は自分を嫌味な人物に変えてしまう引き金に気をつける必要があった。そんな引き金の一つが、人の誤りを正そうとする「じつは」という危険な一言なのだ。

・食品科学と食品技術に関する基礎研究を軍が支配しているというということは、兵士に配給するレーションについて戦闘食糧配給プログラムの下す決定が、一般市民の食べるものに関する事実上の決定となることを意味する。

・将来の成長分野を知りたいと考えるベンチャー投資家は、軍が今どこに資金を投入しているか見極めるべきである。軍が投資しているということは、そこに未開発か開発途上の技術分野が存在している可能性が高い。

・当初のターゲットの一つは、世界で売り上げが140億ドルに達する切り花産業である。花の大陸間貿易の9割は空輸で行なわれるが、これは生産コストを著しく増大させてしまう。保冷船で輸送できれば、業界に革命を起こせる。

・問題なのは、物質の中に閉じ込められているエネルギーを取り出す方法としては、燃焼はひどく効率が悪いということだ。

・古くから利用されてきた燃焼は、酸素の豊富な環境に置いて摂氏430~650度の温度で生じる。エネルギーは水蒸気によって移動するしかなく、燃焼のエネルギー効率は15~25%にすぎない。

・低温の150~320度で酸素がまったく存在しない環境で熱分解が起き、有機物質は可燃性のバイオオイルとなる。

・超臨界水は強酸と強塩基の両方の性質を帯び、ほぼあらゆるものを溶かせるようになる。私たちの出すゴミのほとんどを占めるプラスチックやボール紙さえ溶かしてしまうのだ。

・未来の戦場は孤独な場となるだろう。小規模な特殊作戦部隊向けの戦術を利用することが多くなるに違いない。

・テイクアウトやインスタント食品に対して寛容になった。私たちは疲れ切り、無理をしているのだから、どこかで手を抜く必要がある。その「どこか」が夕食だったのだ。

・料理というのは、先に音楽がたどったのと同じ道を歩んでいる。内輪の個人的なもの――曽祖父母の世代は自分たちで歌を歌ったり楽器を演奏したりしていた――から、大勢で共有する商業的なものへと移り変わってきている。

・家族が求めているのは私の料理そのものではなく、私に何かしてもらっているというという感覚なのだ、と気づいた。母親、妻、娘としての私の存在を実感したいのだ。この思いを満たす方法はたくさんあるが、私の場合はいつも料理がそのひとつだった。

・この国では普通に手に入るような食べ物でも、それがもらえるなら何でもするという人が世界にはいるのだ。

・端切れを寄せ集めたキルトのようなオンラインの情報源を使いこなすために、司書はこれまでになく重要な存在となっている。情報源の中には、一般公開されているが見つけにくいものや、特定の機関に所属していないとほとんどアクセスできないものもある。

・私は「いつもとっかかりとして使うだけで、最終判断には使わない」というルールに従ってウィキペディアを利用している。



戦争がつくった現代の食卓-軍と加工食品の知られざる関係

戦争がつくった現代の食卓-軍と加工食品の知られざる関係

  • 作者: アナスタシア・マークス・デ・サルセド
  • 出版社/メーカー: 白揚社
  • 発売日: 2017/07/04
  • メディア: 単行本



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