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『人は原子、世界は物理法則で動く 社会物理学で読み解く人間行動』 [☆☆☆]

・経済学者と社会学者たちはいまでは、女性の教育が巨大な風船のように膨張し続ける人口に歯止めをかける特効薬になることを認めている。

・我々は表面に現われてこない社会の潮流のエネルギーに運ばれながら、その存在に気づくことさえない場合が多い。

・フィードバックは、視野を極端に狭めてさまざまな要素そのものに焦点を当てるのではなく、要素間の相互作用を考えた時にはじめて見えてくる。

・ポストモダン主義者たちに共通する主張は、我々の思考やコミュニケーションは言語と非常に密接に結びついているので、あらゆるものをテキストと見なすことができ、社会理論は文学批評とほぼ同等となるというものだ。これまでに書かれたいかなるものにも、固定された意味や不変の意味などなく、読者が読み進んでいくなかで意味を作りあげるというのである。

・人間の行動の多くは複雑というにはほど遠く、それほど推測しがたいものではことが明らかになっている。言うなれば「社会の原子」である人間は、かなり単純な規則に従っている場合が多いのだ。

・データを集め、パターンを突き止め、パターンを説明するメカニズムを見出す。

・航空機メーカーは、もはや試作機の試験飛行を行なう必要すらない。試験飛行を行なうのは、科学にそれほどの力があるとは信じがたいと思っている一般の人々を安心させるためでしかない。

・保守派と進歩派の論客が、それぞれ思い思いの事実をこつこつ積み上げ、同じ出来事に完全に正反対の説明の仕方を与えている。

・知識の獲得とは、予測されていない新しい何かを発見することだから、今の時点でいずれ発見されると予測できるものは、発見の名に値しない。

・構成要素間の相互作用が問題となる物質(凝縮物質)を対象とする「凝縮系」物理学と呼ばれる分野(物性物理学、物性論とほぼ同義と考えていい)では、自己組織化とパターンを中心に、無限の可能性を秘めた世界を探っている。

・犯罪者は社会の落伍者や道徳的欠陥者ではなく、注意深く考えた末に法を破るのが最良の選択肢であるとの結論を下した人々なのかもしれない。

・我々の祖先は人類の歴史の99パーセントの期間を、狩猟と採集に従事しながらあちらこちらへと渡り歩く小人数の集団(数十人で構成されるのが典型)の中で暮らしていた。

・我々の祖先がヘビを恐れるようになったのは、アフリカの密林ではヘビが脅威だったからである。現在はどうだろう。クモやヘビを怖がる人は多いが、一般的にははるかに重大な危険をもたらすものに、電気のコンセントや自動車に乗ることに強烈な恐怖を抱く人はまずいない。

・被験者がボタンを押すのは、通常はボタンを押そうという自らの決断と意図に最初に気づいてから約0.2秒後であることを知った。まったく予想外だったのは、実験の記録から、脳の活動がボタンを押す0.5秒前、つまり被験者がボタンを押そうという衝動を意識する 0.3秒も前に始まっているのが明らかになったことである。

・我々は、意識が決断を下して指令を送り、身体はそれに応答して手や指を動かすと考えている。だがリベットが行なった実験を見ると、そうではなく、被験者が意識的な決定をしたと気づくより前に、ボタンを押すのに必要な頭の働きがすでに始まっていることがわかる。少なくともこの実験では、意識は脳をコントロールしておらず、コントロールしていると錯覚しているだけなのである。

・何か仕事にとりかかるとき、たとえどのように進めていけばいいのか最善の道がはっきりしていなくても、ともかく手をつけてみるのが一番いいやり方である場合が多い。試してみて、学んで適応していけばいいのである。

・世界を理解するには行動によるしかなく、いくら懸命に考えても理解することはできない。

・この駆け引きでうまく立ち回るには、他の大半の人が家にとどまっているときにバーに顔を出し、大半の人がバーに行くときには家にとどまるという少数派になればいい。

・いつまでもうまくいくはずがないのは、他の人たちも徐々に適応し、パターンに気づくようになるからである。他の人たちがパターンに気づいて加わるにつれて少数派は数を増し、ついには多数派になってしまう。

・どのような市場でも、その根底にあるのは、需給の不均衡のために価格が上昇ないし下落するという事実である。

・市場への参加者が不十分で、実際に使われている戦略を寄せ集めても、すべての戦略をカバーしきれないとする。このときには、市場の動きを「予測する」余地がまだ多少残っていて、そのために、市場の外部にいる人々は当然のように参入しようという気になる。なぜなら、簡単にひと稼ぎできるかもしれないからである。だが、新たな参入者は、それまでよりも多くの戦略が活用される状況をもたらすことによって、予測可能な余地の一部を実質的に「消失」させてしまう。市場への参入が続けば、ついには予測の余地が完全になくなってしまう決定的な状態に達し、市場はまったく予測不能になる。

・我々は誰でも世界を単純化したうえで、世界の仕組みについて仮説を立てる。そして、うまくいきそうな考え方を残し、うまくいきそうにないものは捨ててしまう。このような適応はおそらく、我々の最も優れた資質なのではないだろうか。

・普通の人には独自の意見などない。詳細な検討と熟慮を重ねて自分なりの見解をまとめることには関心がなく、ひたすら周りがどう考えているのかを知りたくてたまらず、猿まね的にその見解を取り入れるだけである。

・噂の広がりや集団パニックは、他人の行動をまねするという、人間に広く見られる一種の性向のようなものを示している。

・賢明なことに、アメリカ海軍の軍法会議では、追随させてしまう影響力を極力小さくするために、階級が下の者から順番に意見を表明することになっている。

・誤った決断でも、同じ決断をする人が他にいれば、必ずしもそれほど悪いようには見えないものなのだ。

・多くの人が携帯電話を買おうとしたのは、持っているとどんなに便利かを本当に理解して決めたからではなく、友人や同僚が次々に購入していたからだったのだ。

・あらゆる人間は自らのためになることを追い求めるのが自然であり、図らずも正義を追い求めるのは、単に平和のためだけである。

・協調的に振る舞う相手には喜んで報いようとするし、協調しない場合には、たとえ高い代償を払ってでも罰を与えようとする。

・現在の我々の行動を少しでも根源から理解しようとするなら、我々の祖先は人類史のほぼ全期間にわたって、孤立した小さな狩猟採集民の集団の中で暮らしていたことに思いいたらなければならない。

・現代の我々が徹底した互恵主義者なのは、徹底した互恵主義こそが、我々の祖先がまとまりのある集団を形成して過酷な生存競争に勝ち残るのに一役買った要因だったからなのかもしれない。遠い昔に自己本位に振る舞っていた連中は協調することができず、そのために死に絶えてしまったのだろう。

・我々の祖先は協調するのに長けていたから、困難な収穫をなんとかやりとげ、敵から身を守ることができた。だが、言いかえると、うまく協調できたからこそ、土地や資源を守るために近隣の集団に戦いを仕掛けて虐殺することができたとも考えなければならない。

・社会的貧困という条件だけでは民族浄化は生じえない。あらゆる大量虐殺事件に共通して見られるもう一つの要素は、民族間の憎悪の力を重要な目的の達成に利用する政治的指導者ないし党派の決定的な行動である。

・現実の政治は、どんな装いをまとっていようとも、常に計画的に憎しみを組織化することに関わっている。

・偉大な政治家から最低の独裁者にいたるまで、社会の大きな潮流を引き起こす人物は、いずれも、そのための手段として自身の行動を利用し、彼ら個人の力をはるかに越えた大きなエネルギーをもつ運動に具体的な形を与え、その方向を誘導する。

・アメリカでは、人口の20パーセントにすぎない人々が富の85パーセントを所有しているが、この数字はチリ、ボリヴィア、日本、南アフリカ共和国や西欧諸国のどの国でもほぼ同じである。

・人によって成果に差が出るのは、生まれながらの能力の差ではなく、単純で必然的ななりゆきによる場合が多い。

・勤勉な働き手が集まった企業が誕生しても、成長をとげて年数を経ると、最後にはただ乗りする連中の悪影響に冒されて、そのつけをしょい込まざるをえなくなる。

・規制緩和の擁護者たちが理解しそこなったのは、競争に勝つための最善手の一つは、競合相手を事業から駆逐することであるという事実だったように思われる。

・自分たちの正しさを微塵も疑わない宗教集団は、歴史を通じて互いに殺し合いを繰り返し、宗教を信じない人々を抹殺してきた。

・処罰を与えることが従業員の勤労意欲の低下につながる場合がある。なぜなら、従業員は不当だと感じた扱いに反発を覚えるからである。これは動物の訓練士にはとっくの昔からわかっていたことで、罰を与えるよりも褒美を与える方がいい結果が得られる。



人は原子、世界は物理法則で動く―社会物理学で読み解く人間行動

人は原子、世界は物理法則で動く―社会物理学で読み解く人間行動

  • 作者: マーク ブキャナン
  • 出版社/メーカー: 白揚社
  • 発売日: 2009/06
  • メディア: 単行本



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