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『日本のリアル』 [☆☆]

・以前は、ステーキやお刺身など高価なものがご馳走だったかもしれませんが、今はそれぞれが好きな物だけでお腹いっぱいにできること、嫌な物は食べなくていいことが「ご馳走」のように言われています。

・一般論としてはどの人も「家族の絆は大事」と語り、「(日本人は)今こそ見直した方がいい」と言うのに、「お宅はどうですか」と問うと違った。「我が家には別に絆は必要ない」「ウチはこのままで特に見直すつもりはない」などと言う。

・一口に「戦前生まれ」と言っても、何歳で終戦を迎えたかによって、受けた衝撃はまったく違います。

・よく「日本人はモノづくりが得意」と言われますが、たぶんそれは間違いです。「モノを信じる世代」がいたから、たまたま技術大国になれたんでしょう。その後の世代にはそういう動機がなくなったのだから、今はモノづくりがうまくいかなくなって当然です。

・血を見るのが苦手なのに、成績がよかったから医学部を受けて入ってしまったとか。成績がよければ、高校の先生は医学部進学を勧めるんですよね。そうやって入ってきては、うまくいかなくて転科した学生が何人もいました。

・お気に入りの写真やマスコット、音楽や香りなどを身の周りに集め、持ち歩いたりして、自分の内的世界の心地よさにこだわるのに、外界や他者にはあまり関心を持たないという特徴もあります。

・フランス革命において、「自由・平等・博愛」とわざわざ言葉で主張したのは、それがもともと「ないもの」だったからです。言葉にはそういうふうに、「ないもの」を立てて存在させる機能もあるのです。

・考えてみると、テレビやゲームがこれだけ普及した時点で、現実は必要なくなったんでしょうね。もともと現実は面倒くさいものですから。

・現代の田んぼでは耕すことに意味はない。明治の時代までは、肥料らしい肥料がありませんでしたから、コメをたくさんとるためには耕すしかなかった。そのため、土壌肥料学の研究者たちはいまだに、耕せ、耕せと言っているわけです。

・特に農協は、不耕起冬期湛水栽培が普及すると困るでしょう。農薬も肥料も売れなくなりますから。

・どんな組織でも官僚化する危険性をはらんでいるんです。やっぱり実際に仕事をするならば、「いつも途上」という気持ちをもたないと。

・消費者が食の安全を求めているのであれば、安全性を追求した農業をやればいいんです。その結果、自分たちのコメが差別化できれば、高く売れます。コメが安い値段でしか売れないのは、安いコメしかつくっていないからなんです。

・農家の意識にも問題はあります。国家が将来にわたって農家の面倒を見てくれるはずがないのに、まだ国家に頼ろうとしている。実際のところ、農業で成功した人は、国の言うことの逆をやって自立していった人たちです。

・農林統計をみると、1キロのコメをつくるのに、原価はだいたい300円以上かかっています。そして、農協に納めているのは1キロ200円。だから1キロつくるごとに、100円ずつ損するのです。でも農家は損しているとは思っていない。なぜかというと、原価計算せず、自分の「人件費」という概念がないからです。

・日本は専門家が幅をきかせる国です。専門家は、人に口出しさせないことで自分の存在意義を確認しようとします。

・学生が学ぶべきは方法であって、対象じゃないんです。方法をちゃんと学べば、対象は何にでも使えるんです。解剖の方法を学べば、何だって解剖できる。昆虫もヒトも、解剖できますし、机や椅子も解剖できます。

・本は英語で出したほうが売れるんですよ。世界中の人が読みますから、マーケットが広がるんです。

・将来的には、食用になる魚は決まってくるのではありませんか。陸上の動物では、ウシやブタやニワトリを食べると決まっていますよね。それと同じように、魚はこれを食べるというふうに決めて、人間が育てて大きくするやり方に変わるのではないかと思うんです。ありとあらゆる野性の海洋生物を獲って食べる必要はないんですから。

・考える人は少数でしょう。ほとんどの人は考えないでやっている。しかも、そういう人に向かって、「もっと考えましょうよ」と言うと、怒りだしたりします。「そんな頭があったら、俺はここにいないよ」と言って怒るんです。困ったものです。

・学問とは本来独学です。学校に行けば、学ぶ時間は短縮できますが、本当にものになるかどうかは本人次第です。学生には、自分で学ばなければ身につかないのだということを教えなくてはいけないんですが。

・1970年頃までは、国産の材木は国際価格の3倍の値段だったんですから。あの時代が日本の林業のピークだったんでしょうね。今でも林業家の中には、あの時代のことを懐かしがっている人がたくさんいます。そういう人が生きているうちは、日本の林業はダメだと僕は言っているんだけど。

・グーグルマップの写真を見ると、よくわかりますよ。北朝鮮の山は裸山です。韓国の山には20年生から30年生の木が生えています。日本の山には50年生、60年生の木。このことは、それぞれの国が経済発展と遂げて何年経ったかということを表しています。経済力と山の木の多さは比例するんです。



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