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『ブラッカムの爆撃機』 [☆☆]

・あのウィンピー……本名、ウェリントン爆撃機ってやつは……鉄でできてんじゃない。布製なんだ。貧弱なアルミ管の骨組みに布がはってあるだけだ。ま、テントみたいなもんさ。

・爆撃機の中じゃ、きこえるのはエンジンの音だけ。対空砲火の音も耳にとどきゃしない。だがエンジン音に慣れちまうと、しんと静まりかえった部屋の中にいるみたいに思えてくる。

・ほとんどの飛行士は一回のサイクルが半分も終わらないうちに、あの世行きだ。親父が生き残ってきたのは、死のうが生きようがかまわないと思ってるからだ、という連中もいる。

・することがあれば、考えごとをする暇なんてなくなっちまう。考える暇なんていりゃしない。戦争で死ぬのは、考えるせいだ。親父はみんなをいつもいそがしくさせておいた。

・婦人補助部隊に、すげえ美人がひとりいるんだが、だれひとりそいつとは口をきかない。その顔を二度みた者はかならず死ぬって話だ。

・目的地の上空では、焼ける絹のにおいと、化学薬品を混ぜ合わせたようなにおいがしていた。まあ、市街地を爆撃するときの、あのローストビーフみたいなにおいよりはましだ。

・上空にいると、ずうたいが干草の山みたいにでっかくて、牛みたいにのろいような気がするんだが、低空だと、がんがんとばす馬力十分のレーシングカーみたいに、強く速く感じていられる。

・ガソリンと爆弾を積んで、地上五千メートルを飛んでる連中と、そうでない連中があるだけだ。空を飛ぶ連中と、空を飛べと命令する連中、それしかないんだ。

・田舎の人間ってのは、自分たちだけの世界にどっぷりつかってて、おれたちの世界のことなんてききもしない。

・ウィスキーを一本あけようとまちかまえていたんだ。そのウィスキーってのは、どこかの能天気なやつが買ってきたもので、リーパーたちといっしょに飲むか、あるいは、リーパーたちをしのんで飲むつもりで買っておいたんだろう。

・週末には、やつもたずねてきてくれるかもしれないな……まあ、おれたちに戦後ってやつがあればの話だが。

・急患用ベッドだぜ、あれは。何もできないでおろおろみている仲間にかこまれて、血といっしょに命を吹きだしながら横たわるためのベッドだ。

・おれは生まれてはじめて、死んでりゃよかったと思った。いやいや、真珠色の門が開いて、聖者ペテロが勲章をピンで止めようとまってる場所にいきたいなんて考えたわけじゃない。心地よい黒いビロードのような無の中にいたいと思ったんだ。みることもなく、感じることもなく、考えることもない無の中に。

・ドイツの中世の寺院を作った職人たちの技術について考えたりすることもある。そういったすごい連中を、そういったすごい連中が作ったすごい建物を全部、お偉方たちがごみくずにしちまってる。そしてそういったごみがゆっくりヨーロッパをおおっていってる。

・もし世界にはもっとほかの場所があるってことを忘れていられれば地獄だってたえられる。

・あらゆるものには物語があるし、あらゆるもののあらゆる傷にも物語がある。

・私達の国では空襲による惨禍についてはわずかですが語りつがれています。しかし自分達の爆撃機が他の国の人々を爆撃したことは忘れている。

・君はこのひどい世の中をわたっていくには気立てがよすぎる。

・社交生活の割合が増すにしたがって、作家としての生活はしぼんでいき、そのうち、学校の宿題のレポートを書くのさえ面倒になったという。

・彼は自分の信念を貫いた。真実はそのまま、決して観念的な低温殺菌などせずに、子供たちに伝えるべきだという信念を。

・この子たちにはフィクションが必要だと彼は感じた。殺菌され無菌化された政治倫理のルールブックとしてではなく、この世を生き抜くためのサバイバルキットとして役立つ、フィクションが必要だと。





ブラッカムの爆撃機―チャス・マッギルの幽霊/ぼくを作ったもの

ブラッカムの爆撃機―チャス・マッギルの幽霊/ぼくを作ったもの

  • 作者: ロバート・アトキンソン ウェストール
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2006/10/05
  • メディア: 単行本



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