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『国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源』 [☆☆]

・エジプトは過去にいくどか革命を経験したにもかかわらず、状況は変わらなかった。革命を起こした人々が、自らが追放した人々から支配権を引き継ぎ、
似たような体制を再構築したに過ぎなかったからだ。

・イングランド人が北米を選んだのは、そこが魅力的だったからではなく、そこしか手に入らなかったからだ。アメリカ大陸の「好ましい」部分、つまり搾取すべき先住民がたくさんいて金山や銀山がある場所は、すでに占領されていた。イングランド人は残り物を取ったのだ。

・サンタ・アナは大統領だったにもかかわらず、その国の大部分は彼の支配下になかった。だからこそ、合衆国によるテキサス併合が可能となったのだ。

・メキシコの独立宣言の背後にある動機は、植民地時代に発展した一連の経済制度を守ることだった。こした制度のせいでメキシコは「不平等の国」となったのだ。

・スリムがメキシコ経済において財を築いたのは、もっぱら政治的なコネのおかげだった。彼が合衆国に進出して成功したことはないのだ。

・北米が南米よりも繁栄するようになったのは、産業革命の技術や成果を熱心に取り入れたからにほかならない。住民は知識を身につけ、大平原には鉄道が広がった。

・中東が貧しくなってしまった原因も地理ではなかった。そうではなく、オスマン帝国の拡張と合併だったのであり、今日の中東を貧しいままにしているのは、この帝国の制度的遺産なのである。

・王にとっても、大々的に鋤を導入したり、農業生産性の向上を主要な優先事項としたりするインセンティブはなかった。奴隷を輸出するほうがはるかに儲かったからだ。

・捕まって奴隷として売られるかもしれないという環境が、歴史的に見てアフリカ人がどこまで他人を信じるかに影響を及ぼしたのは疑いない。

・世界中のあらゆるテクノロジーは、その操作法を知っている労働者がいなければ、ほとんど役に立たないだろう。

・ある派閥の権力を制約するのは、他の派閥の銃だけだ。こうした権力の配分が招くのは、包括的な制度ではなく混沌である。

・産業革命の拡大に伴い、貴族階級は経済的敗者となっただけではなかった。政治的敗者となり、政治権力の支配を失うリスクにさらされてもいたのだ。経済的・政治的権力の危機に直面し、これらのエリートは産業化に強く反対することが多かった。

・成長が進むのは、自らの経済特権の喪失を心配する経済的敗者によって、また自らの政治権力の毀損を恐れる政治的敗者によって、成長が阻害されない場合に限られるのである。

・希少な資源、収入、権力をめぐる争いは、ゲームのルール、つまり経済制度をめぐる争いに至る。この制度次第で、経済活動とそこから誰が利益を得るかが決まるのだ。

・ソ連が急速な製剤成長を成し遂げたときでさえ、経済の大半の領域で技術的変化はほとんどなかった。

・創造的破壊も幅広い技術革新も伴わないこうした成長は、持続的なものではなく、突如として終わりを告げたのだった。

・レレ族は貧しいのに、ブショング族は裕福だ。レレ族が生活の糧を得るために生産していたのに対し、ブショング族は市場で交換するために生産していたのである。

・アボリジニーの集団が、大きな技術革新、つまり鉄の斧を使い始めたとき、生産量が急増することはなく、睡眠時間が長くなったのだ。もっと多くを得ようと働くインセンティブはほとんどなかったからだ。

・黒曜石水和層年代測定法というテクニックだ。黒曜石がいったん採掘されると、水分の含有量は既知の比率で下がっていくため、考古学者は採掘された日付を算定できる。

・ソ連の多くの人々、また西側世界のさらに多くの人々が、1920年代、30年代、40年代、50年代、60年代、さらには70年代になってさえ、ソ連の成長に畏敬の念を抱いていたのだ。今日の多くの人々が、中国の経済成長の猛烈なスピードに魅了されているのと同じである。

・ヴェネツィアは経済大国から博物館になったのである。

・水道橋や都市下水路といった偉業でさえ、完成させたのはローマ人だが、既存のテクノロジーが使われていた。イノベーションを起こさなくても、既存のテクノロジーを頼りにある程度の経済成長は可能だったが、それは創造的破壊の伴わない成長だった。こうした成長は長続きしなかった。

・ある男が割れないガラスを発明し、多額の報酬を期待して皇帝のもとを訪れた。男が自分の発明について説明すると、ティベリウスはそれを他人に話したかと尋ねた。男がいいえと答えると、男を拉致し、殺した。「金の価値がなくなってはいけない」からだ。

・技術革新は人間社会を繁栄させるが、新旧交代も引き起こすし、一部の人々の経済的特権や政治特権も破壊する。

・創造的破壊によってエリートが多くのものを失うという事実は、彼らが様々なイノベーションの導入者にならないだけでなく、そうしたイノベーションに抵抗し、その導入を阻止しようとしがちであることを意味する。

・社会が極めて抜本的なイノベーションを導入するためには新規参入者を必要とし、そうした新規参入者と彼らがもたらす創造的破壊は、いくつもの抵抗の根源に打ち勝たなくてはならない。

・創造的破壊は、収入と富だけでなく政治権力をも再配分する。

・印刷機に対するこうした妨害は、識字能力、教育、経済的成功に明らかな影響を及ぼした。そうした国の一つであるポルトガルでは、成人で読み書きできたのはわずか20パーセント前後だったと思われる。

・国民が文字の使用に抵抗したのは、文字を使うと国家が財産権を主張して、貴重な土地などの資源が支配されるのではないかと恐れたためだというのである。国民はまた、さらに体系的な課税がなされるのではないかとも恐れた。


国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源

国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源

  • 作者: ダロン アセモグル
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/06/21
  • メディア: 単行本



国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源(上)

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  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/06/25
  • メディア: Kindle版




・奴隷貿易が行なわれていたため、あらゆる刑罰が奴隷にされることに変わっている。こうした断罪には利点があった。犯罪者を売って利益を手に入れようと、人々が鵜の目鷹の目で犯罪を見つけようとするからだ。

・制度の発展のパターンに応じて、19世紀以降に存在した大きなチャンスを活かした国と、そうできなかった国が決まった。今日見られる世界の不平等のルーツは、この分かれ道に見出せる。

・今日裕福な国々は、19世紀に始まる工業化と技術改革のプロセスに着手した国々であり、貧しい国々はそうしなかった国々なのである。

・バニヤンの『天路歴程』に登場する肥やし熊手(マックレイク)を持った男を元に、秘密を暴き出すジャーナリズムを表わす「マックレイカー」という新語を作り出した。

・疑わしきは合憲というこの健全なルールは破棄されてきました。最高裁判所は司法機関ではなく、政策決定機関として振る舞っているのです。

・フジモリ大統領とチャベス大統領は、議会を閉鎖し、続いて大統領権限の大幅な強化を図るために憲法を書き直した。

・独立後のサハラ以南のアフリカ諸国は、植民地時代の悪しき習慣を改めるだろうし、販売委員会を使って農民に重税を課すこともやめるだろうと思っていた人は多かった。しかしそうはならなかった。

・軍隊に代わって、まずは国内治安部隊(Internal Security Unit)、略称ISUができた。長く苦しめられているシエラレオネの国民は、これは「お前を撃つ(I Shoot U)」の意味だと知っていた。次にできたのが特別治安課(Special Security Division)、略称SSDだ。人々は、これは「シアカ・スティーヴンズの犬(Siaka Steven's Dogs)」の意味だと知ってた。

・アフリカ諸国における争いは、政治制度を改革するとか、権力の行使を抑制するとか、社会的多元性を創造するのが目的ではなく、権力を把握し、他者を犠牲にして特定のグループを裕福にするのが目的だった。

・コロンビアには民主的選挙の長い歴史はあっても、包括的制度がない。一方、同国の歴史には市民の自由の侵害、法的手続きを経ない処刑、一般市民に対する暴力、内戦といった汚点が刻まれてきた。民主主義がそんな結果を生むとは意外だ。

・ノーベル賞を受賞した経済学者、サイモン・クズネッツは、アルゼンチンを理解するのがいかに難しいかを表わす有名な言葉を残している。「世界には4種類の国がある。先進国、発展途上国、日本、アルゼンチンだ」。

・国家が経済的に破綻する原因は、収奪的制度にある。そうした制度のせいで貧しい国は貧しいまま、経済成長に向かって歩み出すことができない。

・今日のボツワナは均質的な国に見え、他の多くのアフリカの国家のように民族と言語が細分化されていないかのようだ。だが、これは英語の他にツワナ語のみを唯一の国語として学校で教えることにより、社会の中の異なる部族・グループ間の摩擦を最小限に抑えようとする政策のたまものだ。

・「独裁政治型の成長」を奨励する今日の政策提言は、過去数十年間に中国が成長を達成した経験に基づいている。

・中国経済を鳥とすれば、党の支配は籠にあたり、鳥がもっと健康で活発になるためには籠を大きくしなくてはならない。だが、鍵を開けたり籠を取り除いたりしてはいけない。鳥が飛び去ってしまうからだ。

・ソ連の場合と同じように、収奪的政治制度下での中国の成長は、取り戻すべき遅れが多かったからこそ実現できた。

・中国が経済成長を達成したが、それは収奪的政治制度のおかげではない。収奪的政治制度にもかかわらず成長したのであり、過去30年間の中国の成功体験は、収奪的経済制度からの脱却とはるかに包括的な経済制度への移行のたまものだ。

・トマス・フリードマンが、マクドナルドのハンバーガー店がある程度まで増えた国では、民主主義と制度が後に続くはずだとさえ述べている。

・看護師に日に3回、タイムカードを押させるのは、さほど目新しい発想とは思えない。実際、産業界全体で(インド産業界ですら)行なわれている慣行だ。

・独裁政権はたいがい、自由なメディアの重要性を認識し、メディアとの闘いに全力を挙げる。


国家はなぜ衰退するのか(下):権力・繁栄・貧困の起源

国家はなぜ衰退するのか(下):権力・繁栄・貧困の起源

  • 作者: ダロン アセモグル
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/06/24
  • メディア: 単行本



国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源(下)

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  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/06/25
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