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『鷺と雪』 [☆☆]

・見られる側からすれば、「見学」じゃなくって「見物」。物好きな金持ちの、物見遊山にしか思えんだろうがね。

・お腹が空いてるのは兄さんなのに、弟がお饅頭を貰ったようなものでしょ。意地汚いようだが、食べ物に譬えてみたら人情の機微がきりきりとよく分かった。周り中から複雑な眼で睨まれたら、お饅頭も食べにくいだろう。

・「庶民的」と説明されれば普通は「誰もが行ける街」となるだろう。しかし、わたし達のような娘には逆だ。魚が水から出られないように、動ける範囲がある。

・やむにやまれぬ好意からそうしても、軽はずみと思われ、人としての信用を失うかも知れません。

・身分があれば身分によって、思想があれば思想によって、宗教があれば宗教によって、国家があれば国家によって、人は自らを囲い、他を蔑し排撃する。

・「三稜玻璃?」 「プリズムのことです」

・大きな現実の前に立つと、か弱い個人には、仮に命がけでも、何も出来ません。

・軽薄な理想主義者では物の役に立たない。腰の据わった男かどうかが、問題だ。

・大器晩成の人間が、夭折したら哀れだなあ……。

・どの国に生まれるかで、ことに弱い立場の者の生き方には、昼と夜の差がある。

・初めて地下鉄に乗った時も、移動手段としてより、大掛かりな玩具で遊ぶ感じだった。

・当人が悪いことをしなくても、被害者になる心配なら十分あるでしょう。東京市に虎狼は出ない。しかし、それよりも怖い人間という猛獣がいる。昼間と同じつもりで、夜の街をうろつきなさんなよ。

・物珍しかった頃とは違い、地下鉄も、もう「遊具」ではない。「交通機関」になってしまったのだ。

・制服の人間になり替わるのは、ある意味「見えない人」になることだ。しかし、逆もまた真なり。「制服でいる」と思い込んでいる人間が、「そうでなくなる」のもまた目眩ましの有効な手段になるわけだ。

・わたしなどは根が素直だし、強くもない。常識に異をとなえるよりは、多数と同じ道を行く方に居心地の良さを感じる。

・「良妻賢母」に抵抗はない。ただし、良き夫、優れた父となる人に巡り会えたらの話だけれど。

・どうしようもない悪妻が間近にいたら、「うーむ、こいつに選挙権をやってもよいものか」と考えてしまうのが、まあ人情かも知れない。

・言葉というのは不思議なもんだ。こういう羅列を無駄な遊びと片付けちゃあいけない。そう決めつける奴は、つまり、せっかちなんだな。──並の煉瓦では建てられない建築は、確かにあるんだ。

・お嬢様がおっしゃったのは、失礼ながら、「いうまでもないこと」でございます。先生が、それをご存じないと、お思いになりますか? お若いうちは、そのような言葉が、うるさく、時には忌まわしくさえ感じられるかも知れません。──ですけれど、誰がいったか、その内にどのような思いが隠れているか、──そういうことをお考えになるのも、よろしいかと存じます。

・国策に沿い、しかも儲かるとなれば、こんなうまい話はない。

・大きくは国家から小さくは一個人まで、人はその利益を考えて動く。

・善く敗るる者は滅びず。



鷺と雪

鷺と雪

  • 作者: 北村 薫
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/04
  • メディア: 単行本



タグ:北村薫
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