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『神話が考える ネットワーク社会の文化論』 [☆]

・遊び相手を探してケータイのアドレス帳を漁るとき、あるいはインターネットのSNSで友達とコミュニケーションをするとき、そこで重視されるのは、空間的というよりも時間的なマッチングではないだろうか。

・ツイッター上のユーザーは、日頃はたんに、誰へともなく呟いているにすぎない。しかし、その呟きが別の呟きとときどき時間的に交差することによって、ある種の擬似的な共同性が発生する。

・現代は、社会の全体的なコンセンサス(大きな物語)の消失によって特徴づけられる「ポストモダン」の時代であり、つまり人々の多数的な利害や意志を無視できなくなった時代である。

・コンピュータにアシストされた強力な計算力によって、社会平面上に散らばった人々の行動や趣味嗜好が計量可能なものとなり、同時にコンピュータの容量の爆発的増大が、高度なデータマイニングを実現する。

・たんなる現実や、たんなる虚構は、それだけではもはやリアリティを生まず、いずれ飛散してしまうだろう。それに対して、高精度のシミュレーションは、リアリティを濃縮する確率を高めてくれる。

・コミュニケーションとは、ランダム以上の確率で発生するパターン=冗長性を世界に埋め込むこと。

・自動車メーカーは、自社製品のプロモーションの一環としてプレイステーション用のゲームソフトである「グランツーリスモ」を利用するに到っているが、これはゲームが人間に対して発揮する現前性や志向性が、ただ流れているだけのマスメディアの情報よりも、遥かに強力だからである。本気で見られるかわからないTVで広告をうつよりも、本物さながらに精巧につくられたゲームの自動車を運転してしまう方が、プロモーションとしては確かにいい。

・社会的信頼の機能というのは、その「どこにもない」はずの保証を成立させるところにあるが、社会の複雑性や不透明性の増大は、その保証が不成立に終わる機会を増やしている。

・人間は個々のパーソナリティにかかわらず、条件(特に、権威ある第三者からの指令)さえ整えば容易に大規模の悪をなし得る生き物である(悪の陳腐さ)。しかも、その悪はときに、彼ら自身の良心を少しも傷つけることなく実現される。

・食料が相対的に豊富化する一方で、それまではふんだんにあると思われていた水が希少化し、新たな政治的課題として立ち上がってくる。豊富性の位置に応じて、希少性の位置も変わるのだ。

・表現というのは、親密さの遠近感を壊すことによって力を得る。たんに見慣れないものは人の関心をすり抜けるばかりだし、見慣れたものはそれだけでは何も新しい状況を引き起こさない。むしろ、見慣れたものが見慣れないものになることによって、あるいは見慣れないはずのものから慣れ親しんだ何かが生じることによって、人はどうしても対象から目が離せなくなってしまう。

・ガンダムほど有名な神話になれば、それはもはや一種の共有財として──つまり、誰であれアクセスできるし、誰であれ改変できる素材として──捉えたほうがよい。

・どれだけ真に迫った映像でも、それは常に別の何気ない映像と隣り合わせている。もし録画スイッチを押さなければ、その「貴重」な映像は何一つ残らなかったのだから。

・新聞や出版が国民国家という「想像の共同体」を構築すると論じたが、国民という巨大な共同性は、定期刊行物が人々の想像力の発動と生活リズムを同期させてくれるからこそ成り立つシステムなのである。しかし、ラジオ、TV、ビデオ……と経て、インターネットが出てくれば状況はまったく変わってしまう。

・神話は不特定多数の人間によってつくられ、不特定多数の人間に向けて発せられるなかで、秩序を宿していった文芸なのだ。

・ネーションによってもたらされる死は、凡庸な生を輝かしい運命に変え、惰性に満ちた生活に一つの確固たる道筋を与える。

・現代の都市はむしろ、能力を十分に生かせること、さらにそれへの見返りがあることを餌に多くの人的資本を集め、相互行為を促し、それによって全体の富を増やそうと企てる。

・私たちの内奥の感覚を煮詰めていっても、それはおそらく何ら創作上の根拠には結びつかない。仮に創作の出発点があるとすれば、それはあくまで、向こう側からやってきたものに応答することによってである。

・近代以降の文学は、「世俗化」の波を一身に浴びてきた。その結果として、現在の文学というのは、おおむね廉価で、販売網も確立し、さらには公共施設(図書館)での保存も約束された豊富な財として人々の前に現れている。文学の最大の武器は、そのアクセシビリティの高さにあると言っても過言ではない。

・たんなる文学者というよりは新進気鋭の企業家として捉えた方が実情にかなっているように思われる。実際、文学の世俗化が進めば、人々を自分のところに誘導する戦略が必須となるのであり、だとすれば、その仕事が「企業」のそれに接近するのもまったく自然なことだろう。

・ケータイ小説には「昔話」の様式に近い作品が散見される。「むかしむかし(時間的あいまいさ)、あるところに(空間的あいまいさ)、おじいさんとおばあさんが(人格的あいまいさ)…」式に、具体的な情報をほとんど明かさない──というより必要としない── ケータイ小説は少なくない。

・ルールには絶対的に従わなければならず、かつ、しかし潜在的にはいつでもルールをハッキングして、別の均衡状態を生み出すことが可能なのだ。

・個人というのは、世界における他の対象と同じく、周囲を取り巻く環境に対して、彼ら自身の行動や特性に合致する作法によって作用する。個人はたんに存在しているだけで、サインやマークを産出する。手短に言えば、個人は表現をにじみ出させているのだ。

・ベクトルの向きのことをsenseと呼ぶ。

・現代社会で確実に伝達できるのはノリくらいしかない。したがって、音楽性や歌詞を云々するよりも、複雑なリズムやビートを中心にして、そこに受け手を巻き込んでいく。

・「VOCALOID」の初音ミク、あるいはアスキーアートの類を見ればわかるように、匿名的で計算的な「声」、言い換えれば虚構を挟んだ声を用いたコミュニケーション様式は、社会にすでに定着しつつある。実際、発話者の肉声があまりに際立ってくるようだと、それが刺激になって、過激な糾弾が始まりかねない。そこで、自分で語っているのではなく、あたかも別の集団的な「声」が語っているかのような偽装を施すことによって、コミュニケーション上の軋轢が起こる確率を減らす野である。

・今、純文学の衰退が取り沙汰されるのは、何らかの集団言語を引き出すだけの参照能力が、多くの純文学作家に不足しているためである。

・2ちゃんねるやニコニコ動画で今最も頻繁に使われるのは、おそらく「w」という文字だろう。ご覧の通り、この文字は発音することができない。この文字はもともと「(笑)」という表記の略なので、アルファベットとしてのアイデンティティはほとんどないに等しい。

・だけど、いつもいつも同じことしかいわない人と、どうやっておしゃべりができて?

・生態学的あるいはシステム論的な含意で言えば、コミュニケーションとは「冗長性」を蔓延させることと同義である。コミュニケーションを通じて、少々のエラーには動じない自己修正的なメカニズム(コモンセンス)を社会に据えつけていくこと。

・個体はすべて一種の演算装置であり、行動を通じて情報を外界ににじみ出させている。

・宇宙は物理法則を言語とし、局所的な相互作用を積み重ねながら、膨大な論理演算を実行してきたメカニズムとして捉えられる。

・今日の社会が人間を生かすだけ生かす一方、その身体の衰えから来るみじめさに対して何ら救いを差し伸べることができない。

・死への恐怖というよりは、快楽を失ったみじめな生への恐怖なのだ。そして、人々がそのみじめさに耐えられなくなったとき、世界に根底的な革命が起こり、いっさいの社会原理が再構築される。

・他者の感情の模倣が共感のネットワークを形成する。私たちの社会性はゼロからスタートするのではなく、感情のレベルでの素早い複製行為が行き渡っているところから始まるのである。

・「緑の革命」を支える高収量品種は高い生産性は見込めるかわりに、原産種よりも遥かに多くの水を必要とするという欠点がある。

・熱狂的なブームには愛はあるがリスペクトはないので、長続きしない。他方、ブランドにはリスペクトはあるが愛がないので、熱狂を生まない。

・「本当のことを書く」という仕草、つまり擬似告白体がかくも広く愛好されることは、それなりに重要である。この種の擬似告白体というのは、一種の「耳打ち」に近く、他ならぬこの情報を、他ならぬあなたに伝えようという演劇的な文体である。

・文学は、あることを知っているとは言わず、あることの一部を知っていると言う。あるいはもっと適切には、あることについて何かを知っている──人間について多くを知っている、と言う。

・ジャーナリズムは、公共空間における第三者的な「証言」というモデルを引き継いでいる。このようなモデルは、これからも当分は必要とされるだろう。

・想像力というのは「成り代わり」の能力である。言い換えれば、自分と他人の障壁を壊す能力である。

・世界に散らばった無数の情報を加工して、人々にとって共有可能な神話に高めること、それが文化の機能である。文化には、利用可能なテーマや変形の規則がストックされている。



神話が考える ネットワーク社会の文化論

神話が考える ネットワーク社会の文化論

  • 作者: 福嶋亮大
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2010/03/25
  • メディア: 単行本



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