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『日本の難点』 [☆☆]

・読者は濃密な人間関係を経験したことがないので、濃密な人間関係を描く小説や漫画や映画に触れると「自分がはじかれてる」「自分が関われないものが描かれている」と感じるのだと思います。そんな読者が望むのは、「ディープな関係の履歴」ではなく、「ディープな事件の羅列」なのでしょう。

・お茶の間や井戸端に相当する「場」がなくなれば、お茶の間や井戸端のコミュニケーションを支える共通前提を供給するメディアも不要になる道理です。

・安全保障についても、大切なのは軍事だけでなく、資源の、食糧の、技術の、文化の、安全保障が重要です。軍事側面だけを突出して重要だと見做すのは、単なる「軍事オタク」の発想に過ぎません。

・自分をケアする訓練が未熟なので病気で孤独に死んでしまう。

・広告主が広告を出すのは、専ら高額所得者がアクセスすることが確実なメディアか、広告主が提供しようとする商品やサービスに合致した趣味を抱く人間ばかりがアクセスすることが確実なメディアだけに、限られるようになるでしょう。

・心底スゴイと思える人に出会い、思わず「この人のようになりたい」と感じる「感染」によって、初めて理屈ではなく気持ちが動くのです。

・インターネットの最大の問題は、「匿名サイトで事件に巻き込まれる可能性」よりも「オンラインとオフラインとにコミュニケーションが二重化することによる疑心暗鬼」とそれがもたらす日常的コミュニケーションの変質なのだ。

・「おかしなことは何も起こりません」という期待を「慣れ親しむ(安心)」と呼び、「いろいろあっても大丈夫です」という期待を「信頼」と呼びます。「安心」は脆弱ですが「信頼」は強靭です。

・モンスターペアレンツも、クレーマーも、共通して、「全体を顧みない理不尽さ」や「社会的期待に対する鈍感さ」や、そうした意味での「常識外れぶり」などが問題にされている。

・クレーマーやモンスターペアレンツの言うことを真に受けて聞くメカニズムがあるから、彼らが生き残ってしまうのです。

・クレーマーにせよ匿名掲示板のディープユーザーにせよ、いわゆる世論=サイレント・マジョリティではなく、キーキー声が目立つだけの少数者=ラウド・マイノリティが大半だからです。ラウド・マイノリティの言うことを直ちに真に受けることは、マスメディアの自殺行為になります。

・共通前提に鈍感であるだけでなく、共通前提を徹底的に観察する習慣がないこともあって、相手を「読む」ことができないところから来る戦略的な稚拙さ。

・市場では「まとまったニーズ」があれば、供給が生じるのは当たり前です。

・公立学校で教えることを関係者たちが「最低限」に(事実上)縛りつけてきたからこそ、巨大な塾市場が育ちました。

・関係性の履歴がなければ、「お前が死んだら悲しい」「嘘つけ!」で終了。実は日本の自殺率が先進国最悪で、イギリスの倍に及ぶ理由も、ここから理解できます。「お前が死んだら悲しい」「嘘つけ!」で終了するような関係性が蔓延しているのです。これが「社会的包摂の空洞化」なのです。

・ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の超越神は、実は「同じ神」です。ユダヤ教は、まだ救い主(メシア)は現れていないと考えるのに対し、キリスト教は救い主はただ一人イエスがキリストとして現れたと考え、イスラム教はイエスの後にムハマドが真の救い主として現れたと考えるだけです。

・ブッシュ・ネオコン政権も、悪意というよりむしろ善意(正義の貫徹)で失政をもたらしたのです。

・新自由主義はもともと「小さな政府」で行くぶん「大きな社会」で包摂せよという枠組みだったのです。

・「大きな社会」、すなわち、経済的につまずいたりちょっと法を犯した程度では路頭に迷わずに済む「社会的包摂」を伴った社会を、グローバル化の流れの中で、どうやって作り、維持するのか。

・「弱者が言うことは聞き入れなければならない」などという「当事者主義」が横行すれば、弱者を扮技した計画的な陥れをチェックできなくなります。

・コミュニティとアソシエーションとの違いは何か。「目標の共有」です。コミュニティは自生的な事実性ですが、アソシエーションは目標を共有する者の集まりです。通常の国家はコミュニティだと観念されますが、米国だけは感ぜんに違うのです。

・「非同化主義」とは、最低限のルールを踏まえてもらえば、宗教だろうが風俗習慣だろうが気にしないという枠組みです。これに対し「同化主義」は、フランスの学校内での、イスラム教徒の女性が人前に出る際に頭髪を隠すヘジャブ(スカーフ)着用禁止に象徴されるように、言葉を核としてフランス的なものならフランス的なものへの適応を最大限重視します。

・かつての帝国的な覇権国家が「生産→流通サービス→金融」とプラットフォームをシフトさせた挙げ句に没落するのだ。

・残酷な本土での地上戦に持ち込ませないためにこそ、相手に攻撃させない重武装化が必要だ。

・経済は政治に従属します。たとえば外国政府が禁輸を決めてしまえば貿易は止まります。止まること自体も問題ですが、止まると困るだろうと足元を見られて外交的交渉力が弱まるのも問題です。

・資本主義とは未来の成長を先食いして儲けるネズミ講です。成長への期待と、それを支えるフロンティアの発見がなければ、資本主義は回りません。

・政治的ゲームでは、「何が真実か」ということより「何が真実だという話になったか」がはるかに重要です。「何が真実だという話しになったか」に有効な影響を与えられなかった以上、今頃何を言っても「負け犬の遠吠え」です。

・政治問題である以上、政治的な取引を通じた恣意的な決定は避けられない。そのことを事前にどれだけ理解しているかが、各国の「大人」度合いを決めます。

・日本の学生たちの就職活動を見ると、企業イメージ、それもBtoCに偏った企業イメージに、大きく左右されています。

・グローバル化を敵に据える。企業社会を敵に据える。格差社会を敵に据える。そして「それだけで終わる」。

・285万戸のうち、主業農家でなおかつ65歳未満の農業専従者がおり農業所得が過半に及ぶ「農家らしい農家」はたった37万戸。残りは農業を営まない「土地持ち非農家」、農業外所得が過半の「片手間農家」、そして「高齢農家」です。

・安全保障概念は一見多岐にわたりますが、思考伝統の核は、今日の言葉で言えばリスクマネジメント、すなわち非常時に最悪の事態を如何に回避するかというマクシミン戦略(最小値を最大化にする戦略)です。さらに、非常時に何ができるかで足元を見られて平時の交渉力が低下するという重要問題も派生します。

・金を出せば希少な財も入手可能だということがなければ、比較優位説ベースの国際貿易論はそもそも成り立ちません。

・「天下り規制」「渡り規制」の問題にしても、抵抗している官僚幹部らだって「理不尽だし続かないのも分かっている」けれど、「食えないから仕方ない」のです。実際、そうした連中はプライドは高いけれど、他で食えるほどは有能ではありません。

・企業に環境に優しくあれと倫理的に命じるのではなく、環境に優しくない企業が儲からず、従って、生き残れないような経済環境を作ることを提唱しています。



日本の難点 (幻冬舎新書)

日本の難点 (幻冬舎新書)

  • 作者: 宮台 真司
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2009/04
  • メディア: 新書



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