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『嫌われものほど美しい ゴキブリから寄生虫まで』 [☆☆]

・脳の血管には血液脳関門と呼ばれる障壁があるため、頭蓋骨内と体内のホルモンの活性はそれぞれ異なっている。したがって血液中のホルモンの濃度は、中央司令部である脳のホルモン濃度を必ずしも反映しない。

・イルカの脳が大きいからというだけで、この動物が高い知能を持つと結論づけるわけにはいかない。あらゆる動物の中で、体に対する脳の比率が最も大きいのは、なんと羊なのだ。

・一般に、数の少ない動植物は極端な、あるいはリスクの大きい、特殊な繁殖戦略を持つことが多い。それぞれが自分の生息地で生きていくために、いわば特別仕様になっているのだ。

・タンパク質は正しい三次元的な形に自然になるのではなく、他のタンパク質のフォールディングを手伝うのが唯一の仕事である多数のタンパク質に助けられてその形になるという事実の発見は、科学者にとって大きな驚きだった。シャペロンと呼ばれるこの補佐役のタンパク質の発見により、自発的にフォールディングするという従来の説は間違っていることがわかったのだ。

・筋ジストロフィーなどの遺伝病は、突然変異によって細胞中のシャペロンの機能が弱まり、その結果タンパク質が正常な形にならないためにおこるとも考えられている。

・この外皮は月光などの紫外線があたると、それを強く反射するため、黒いサソリでも鮮やかなグリーンやピンクに見える。3億年前のサソリの化石でさえ、紫外線光をあてると明るく輝く。

・ゴキブリは通風がよいところを最も嫌うことがわかった。ゴキブリはほとんどあるかないかの空気の流れによって仲間が出す化学的なシグナルを感知する。だが空気の動きがすきま風ほどの強さになると、体をおおっている被膜がたちまち乾燥して生存が危うくなる。

・「コンバット」に含まれている即効性の成分は、貯蔵エネルギーを細胞が使うときの何段階にもおよぶ生化学的なプロセスを疎外する。さらに重要なのは、この毒が少量でも効くことだ。ゴキブリがこれに耐性を持つようにならない理由の一つは、餌を一口かじっただけで、死なずにすんだ虫も繁殖能力はなくしてしまうためだ。

・よく遊ぶほどそのサルは大人になってから集団にうまく適応できる。彼らは遊びを通じていつ降参し、いつ追いかけるべきかといったことや、見苦しくないけんかの負け方を学のだ。

・ハイエナは見たところイヌに似ているが実際はよりネコに近く、マングースやジャコウネコと近縁である。

・多くの人間は生きるために必要な量よりはるかに多くの財産を築きたいという強い欲求に突き動かされて、しゃにむに働く。リスはひと冬を越すのに必要な食糧しか集めない。

・血管形成の抑制は理想的なガン治療法とみなされている。正常な組織をまったく傷つけずにガンを攻撃できるからだ。成人では新しい血管が作られるのは、腫瘍が大きくなるとき以外では、大けがや心臓発作の後や胚が子宮に着床したときなど、ごく限られた場合だけであり、したがって血管形成を抑制する物質に副作用はほとんどないと思われる。

・カロリーの摂取を抑えると、ガンの罹患率が大幅に下がることは動物実験により確かめられている。

・一般に野生動物より人間の方が太りやすい。なぜなら先進国に住む人たちはいつでも食物が手に入るにもかかわらず、いまだに飢餓の危険を想定した昔の代謝システムを持っているからだ。

・その他の哺乳類からも、人間は自制心によって化学代謝が変えられることを学ぶべきかもしれない。たとえばクマは秋に冬眠の準備を始めると、体重を大幅に増やそうとして大量の魚を食べる。だが春と夏にはスリムでいるため、湖や川に魚があふれていても、少ししか食べない。

・腹を抱えて笑うのは、エアロビクスに匹敵する快い運動である。100回笑うのは10分間ボートをこぐのに等しい。違いは、笑っている間は楽しい気分でいられることだ。

・胚の中のすべての細胞は、最初から13回目までは同時に分裂する。すなわち全細胞が脈動する一つのかたまりとして倍になり、また倍になっていく。ところが14回目の分裂でこの同調性が失われる。この時点から、いくつかの細胞群がみな違ったスピードで分裂をはじめるのだ。それぞれの分裂領域はマイトティック・ドメインと呼ばれている。

・彼女は歩くのも話すのもきびきびと早いので、つい比較して、我が身がぐずでのろまに思えてしまう。

・競争を持ち込むことによって、男性たちは科学という仕事にまったく不必要な、うんざりするような男らしさを与えた。

・最近の若い連中はどうなってるんだ? なにか言うときは必ず語尾を上げる。質問してるみたいにね。まるで一言一言、確認を求めてるみたいだ。

・あの子たちは何か学んでいるんだろうか? それとも、ただボタンを押してるだけなのかね?

・博士の話し方は、彼のエッセイの書き方と同じだ。ちょっとした思いつきを取り上げ、それをしばらく考察してから他のアイデアと結びつけ、さらに別のアイデアと組み合わせていく。そのうち、何本もの糸がよりあわされて複雑な模様ができあがっていくように、さまざまな考えがまとめられていく。

・遺伝と環境は複雑にからみあっており、両者の影響を分離することはできないのだ。この二つを切り離すことは、論理的にも、数学的にも、哲学的にも不可能だ。

・子宮の中で赤ん坊の脳が発達するとき、約80パーセントの神経細胞が、つくられて数時間のうちに死滅する。こうした神経繊維は、最終的にできあがる器官にとって役に立たなかったり、有害である可能性があるからだ。

・人体は大量の免疫細胞を絶えずつくりだしている。それぞれの細胞は体にとって異物であるタンパク質、それも少しずつ違う種類のタンパク質を攻撃するようにつくられている。だが大半の免疫細胞──おそらく95から98パーセント──はできそこないだ。もし生き延びるのを許したら、それらは自分自身の器官を攻撃するといった、個体にとって不都合なことをやりかねない。そこで、体はそうした細胞をつくるそばから処分していく。

・体長1ミリの半透明な線虫、C・エレガンスの場合は発生の過程で1090個の細胞を生じるが、そのうち131個は途中で死んでしまう。

・人間は組織が大量に死んでも──手足を失おうと、肝臓の四分の三を失おうと、大脳のかなりの部分を失おうと──生きていられる。しかし不死の野望を抱いた小さな細胞が1個あると、そのために命を失う恐れがある。

・自殺が世界中のどの文化でも一貫して高い発生率を示していることは、進化とかかわる因子がその根底にあることを示唆している。すなわち、まったく不合理に見えるこの行為にも、進化的に筋の通った理由があるかもしれないのだ。

・人間の習性には新たにつくりだされたものはほとんどなく、たいていは動物界に一般に見られる行動が複雑化したものだ。

・ふつう研究者が動物の死を自殺と呼ぶのは、その動物が、その行為によって繁殖という観点から得るものが多く失うものが少ないときだけだ。

・最近増えている、理性的自殺と呼ばれるものもある。これは高齢の病人や不治の病にかかった人が、家族の負担にならないように早く死なせてほしいと要求するようなケースだ。

・鬱病は進化上古くからあり、原人の登場に先立つものであることがわかる。その本来の目的は、人間をはじめ高度な認識力を持つ動物を守るものだったのかもしれない。彼らはこの病気のおかげで、自分のおかれた状況を分析し、自分のやったことがなぜ裏目にでてしまったのかを考え、高くついた失敗を二度とくりかえさないための方策をあみだすことができたのだろう。

・自分がヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染していることすら知らなかった。知らなかったのは、知ろうとしなかったからだ。

・エイズは私たちが有機物であることを再認識させる。目に見えない無数の微生物にとって、人間は豊かな資源であり、ごちそうだ。ふつう我々が微生物の餌になるのは死んだ後だが、エイズにかかった患者は、生きながら食われるのだ。

・怒りを爆発させるか、姿を消してしまう。どちらもおとなげない反応で、後で恥ずかしい思いをすることになる。

・私の頭の中には、パステルで描いたような理想のおばあさんの姿がある。そのおばあさんは賢く品があり、自分に満足しており、自分が築いてきた人生に誇りを持っている。人に認められようとしたり愚痴をこぼしたりで時間を無駄にするかわりに、自分の得意なことをする。



嫌われものほど美しい―ゴキブリから寄生虫まで

嫌われものほど美しい―ゴキブリから寄生虫まで

  • 作者: ナタリー アンジェ
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 1998/05
  • メディア: 単行本



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