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『先送りできない日本』 [☆☆]

・なぜ日本人は、農家に対してこれほど寛容だったのでしょうか。それは、買い手である都市部の消費者が、みんなかつては農村出身だったからです。いまの団塊の世代から上の世代は、実家の多くが農家でした。

・ついに農業を産業として客観的に見る都会の人たちが多数派になってきました。時代は変わりつつあるのです。

・農家は、「高く売れるコメを作ろう」と考えるのではなく、政府に対して、「コメを高く買え」と政治的に働きかけることに眼目が置かれるようになります。

・農家の大多数は、法律に違反することなく、お上の言うことを忠実に守ってきた。これでは、なかなか「農家を経営していく」という発想は育ちません。コメ作り農家は、いつの間にか国の発注する農作業を行なう行政の下請けのような存在になっていったのです。

・株式会社が農業を始めることは、認められませんでした。株式会社を目の敵にする、まるで社会主義そのものの世界が維持されてきたのです。

・補償金欲しさに、それまで専業農家に農地を託していた兼業農家が、「自分の田んぼを返してくれ」と言って取り戻すようになりました。かくして、せっかく集約化が進んでいた農地が、細切れに戻りつつあります。

・農協の中には、所属している専業農家の人数よりも農協職員のほうが多いという逆転現象すら起きています。その巨大組織を、わずかな専業農家と多くの兼業農家で支えているという構図です。

・農協はもともと、農業技術の普及や流通支援のための組織でありました。ところがいまでは、ベテランの農業改良普及員は引退してしまい、新しく採用されるのは農業の素人ばかりです。実際、新人職員が農家に農業のことを教わりにくるといいます。

・かつて亀井氏が運輸大臣だったとき、日本航空が客室乗務員を正社員ではなく、契約社員として採用したことがあります。すると亀井氏は政治的に介入し、日航の方針は大幅に変更されました。このように政治的介入を受け続けてきた日本航空が、その後、倒産してしまったことは、ご存知の通りです。

・金融機関は、安易に社長の個人保証を求めず、独自の審査で融資を決定する力が求められているのです。

・日本の国民が、国産農産物を食べずに全部外国産に乗り換えてしまうことなどありません。それほど国産農産物に競争力がないと農水省は思っているのでしょうか。だったら、それこそ問題ではありませんか。

・「地政学」とは、国と国との地理的な位置関係が、政治や国際関係にどのような影響を与えるかを考える学問です。

・「嫌い」をそのままにしておくと、いつか大きな摩擦が起こります。そして偏見の多くは、相手を知らないことによって起きるものです。

・中国の民衆にとっての現代史は、お上に従って多くの民が命を落とす一方で、お上を信用せず他人を信用しないで裏切った者が、結果的に生き延びられた歴史でもありました。骨身に染み込んだ人生観は、そうそう変えられるものではありません。

・世紀の傑作といわれるカラシニコフの特徴は、「隙間だらけ」。敢えて部品と部品の間に隙間を作り、砂漠の砂が入り込んでも、弾が詰まって作動しなくなることがないように設計されています。もしこれを日本人が設計したら、砂が入り込まないように一分の隙間もない銃を作ろうとしたでしょう。

・世界の武装ゲリラがトヨタに熱いまなざしを注いでいる。イラクでもアフガニスタンでも、リビアでも、反政府ゲリラが使っているトラックの後部に、大きくTOYOTAの文字が書かれている。これは、トヨタのハイラックスという小型トラックです。

・砂漠を走る車といえば、かつてはイギリスのランドローバーが主流だったのですが、スーダンで働く国債援助機関の人たちに人気なのは、トヨタのランドクルーザーです。

・AK-47の威力は、私たちにモノについての大切なことを教えてくれています。それは、どんなローテクで粗末であっても、誰もが便利に使える技術や商品には世界を変えるほどの力があるということです。

・いま白物家電が突出して売れている国があります。巨大なBOPを抱えたBRICsです。どの家庭にも商品が行き渡った先進国で、爆発的に売れる白物家電などありません。でも新興国にはいま、かつての日本の高度経済成長期が到来しているのです。

・耐久消費財は、その国での世帯普及率が20%を超えると、そこから先は飛躍的に普及が進むといわれています。「お向かいも隣の家もエアコンを買った、じゃあ我が家も」となるのは、世界中同じなのですね。

・決めたのは2004年。当時の自民党・公明党の連立政権は、「これで年金制度は百年安心」と宣伝しました。このとき、財源はどうするということになり、五年後に財政の手当てをすると約束しました。つまり、「五年後に消費税を上げて、年金の財原にします」と確約したのです。あのときの約束は、どこへ行ったのでしょうか。

・民主党が掲げた「政治主導」。考えてみると、不思議な言葉です。政治家が、ものごとを決めるのは当たり前。当たり前のことを、わざわざ目標として掲げたことで、とんでもない勘違いが生まれたような気がします。

・官僚たちに、ある程度の自由度を与えて、さまざまな方針や対策を考えさせる。つまり知恵を出させるのです。その上で、政治家が決断する。これが本来の政治主導のはずです。官僚を使いこなすのが、本来の政治主導なのです。

・批判するのはいいけれど、では、どのようにすべきなのか。それが見えないまま批判したところで、解決に結びつきません。

・記者が勉強不足で全体を把握できないまま、個別の瑣末な出来事を批判する。よくある光景です。

・単なる政局報道なら、簡単に面白おかしく報道することが可能です。でも、対立する政策の違いをわかりやすく解説することは面倒です。かくして、安易な政局報道ばかりが流れて、国民は政治家の言動に失望します。

・「質問は?」と言ってすぐに手が上がる質問というのは、「これは何と読むのですか?」といったレベルの、「問題の核心」からは遠い枝葉末節の質問が多いのが特徴でした。

・もっとも大事な背景とは、1990年代初めに起きた東西冷戦の終結でした。それまで社会主義経済圏で暮らしていた人々が、一挙に資本主義経済の中になだれこんできたのです。その結果、世界経済の市場規模は30億人から倍の60億人へと膨張しました。この新しく生まれた大きなひとつのマーケットこそ、グローバリゼーションの正体です。

・欠落したジグソーパズルのワンピースを見つけて、知りたいと思う。そういう思考回路の人は、知的好奇心のある人です。



先送りできない日本  ”第二の焼け跡”からの再出発 (角川oneテーマ21)

先送りできない日本 ”第二の焼け跡”からの再出発 (角川oneテーマ21)

  • 作者: 池上 彰
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/05/10
  • メディア: 新書



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