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『老いの才覚』 [☆☆]

・テレビで、後期高齢者にあたる男性が「我々を殺す気か」と腹を立てていました。番組を見ていた同世代の知り合いは、「情けないですな。戦争を体験してきた者が、何ですか、あの言い方は」と怒っていました。

・制度に反対する人の中には、「私たちはごろつきですか」と食ってかかっている女性もいました。そういう嫌らしい言い方をする。日本の年寄りは、戦前と比べると毅然としたところがなくなりました。

・「私は老人だから、○○してもらって当たり前」と思っている人のほうが多いようです。

・私が老化度をはかる目安としているのが、「くれない指数」です。世間には、友だちが「してくれない」、配偶者が「してくれない」、娘や息子や兄弟や従兄弟が「してくれない」と終始口にしている人がいます。

・「今度行く時、私も連れていってくれない?」 「○○さんに伝えておいてくれない?」 「ついでに買ってきてくれない?」と、絶えず他人を当てにしている人もいます。

・老化が進んだ人間は、わずかな金銭、品物から手助けに至るまで、もらうことには異常とも思えるほど敏感です。

・サービスだからとそのまま受け入れるのではなく、まわりの状況などを見て、自分はどうすべきか、と判断する気力と「才覚」がないように見えました。

・子供の頃から「才覚を持ちなさい」と訓練されたものです。何事に関してもいちいち人に聞かないで、どうしたらうまくできるか考えろ、と。

・日本では「食えない」という言葉は、家のローンが払い切れない、子供を大学に行かせる費用がない、などと拡大解釈されていますが、世界の多くの土地で「食えない」と言えば、まさに今晩口にするものがない、ということです。

・よく「日本は経済大国なのに、どうして豊かさを感じられないのだろうか」と言われますが、答えは簡単です。貧しさを知らないから豊かさがわからないのです。

・日本人は、被災したその日から、すぐに菓子パンを食べることができるのに、「三日間パンばかり配られて飽き飽きした」などと文句を言っている。それほどに贅沢なのです。

・なんでもかんでも権利だとか平等だとか、極端な考え方がまかり通る世の中になってしまったのは、言葉が極端に貧困になったせいもあると私は思います。言語的に複雑になれない人間は、思考も単純なのです。

・読まない、書かないから、微妙な考え方や話し方ができない人が多くなりました。

・愛情というのは、手を出すことより、むしろ見守ることだ、と思いました。「してもらう」という立場は、意外と当人に幸せを与えないものです。どんなに大変だろうと、自立の誇りほど快いものはありません。

・東京では、特に収入のない70歳以上はバスの年間フリーパスが千円と、優遇されています。年間千円でバス乗り放題というのはむちゃくちゃです。

・社会が(して)くれるものなら、何でももらっておこうというのは、乞食根性になっている証拠です。

・年をとると、自己過保護型になるか、自己過信型になるか、どちらかに傾きがちになります。別の言い方をすると、自分は労ってもらって当然だと思うか、自分はまだやれると思いすぎるかです。

・すべてのことは、「させられる」と思うから辛かったり惨めになるのであって、「してみよう」と思うとどんなことも道楽になります。うまくいった時は、かなり贅沢な思いにもなれる。

・ただ受けているだけの人は、もっと多く、もっといいものをもらいたいと際限がなくて、配偶者が「してくれない」、嫁が「してくれない」と不満が募る。しかし、与える側に立つと、ほんの少しのものでも些細なことでも楽しくなるし、相手が喜んでくれれば、さらに満たされる。

・ただ黙って受けるだけなら、子供と同じです。もし、「ほんとうにありがとう」と感謝して受けたら、与える側はたぶんうれしい。

・お金に少しゆとりがあれば、親戚や友だちとの付き合いの中で、自分がおおらかな気持ちで損をすることもできる。

・得をしたい、という気持ちが起きた時は、すでにお金に関する事件に巻き込まれる素地ができかけているから用心しなさい。

・何にお金を出して何に出さないか、世間にならうのではなく、自分の好みで決めなさい。

・あからさまな悪徳商法に引っかかったり、途方もない儲け話にころりと騙されたりするのは、多くの場合、強欲な年寄りです。

・備えあっても憂いあり。一文無しになったら野垂れ死にを覚悟する。

・立場を変えれば、誰でも少しは相手のカンにさわるような生き方をしているものです。それは、いいとか悪いとかの問題ではなく、ただ生き方が違うだけのことです。

・よく政治家が「皆さんが安心して暮らせる世の中にします」と言いますが、日本人はそれが可能だと思っているのがおかしいですね。完全な安全など、世界のどこにもありません。

・筋力がなくては、着物姿できちんと裾さばきをして姿勢を正して歩くとか、美しくお辞儀をするとか、そういう粋なしぐさができないし、したいという気にもならないわけです。

・後期高齢者医療制度を生み出した張本人は、医者に通うのが趣味になっている高齢者たちだと私は思います。ちょっとしたことで病院へ行ったり、高い薬をもらってもきちんと服用しないで捨てたりしている人が少なくありません。

・あの世があるか、ないか、わからないが、分からないものはあるほうに賭ける。



老いの才覚 (ベスト新書)

老いの才覚 (ベスト新書)

  • 作者: 曽野 綾子
  • 出版社/メーカー: ベストセラーズ
  • 発売日: 2010/09/09
  • メディア: 新書



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