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『読書について』 [☆☆]

・永遠に読まれざるため、永遠の読書を続けている。

・学者とは書物を読破した人、思想家、天才とは人類の蒙をひらき、その前進を促す者で、世界という書物を直接読破した人のことである。

・他人から学んだだけにすぎない真理は、我々に付着しているだけで、義手義足、入歯のようなものにすぎないが、自分で考えた結果獲得した真理は生きた手足のようなもので、それだけが真に我々のものなのである。

・読書で生涯をすごし、さまざまな本から知恵をくみとった人は、旅行案内書をいく冊も読んで、ある土地に精通した人のようなものである。これと対照的なのが生涯を思索に費やした人で、いわば自分でその土地に旅した人の立場にある。

・事柄そのものについて思索をめぐらす者はきわめて少数で、それ以外の者はただ書籍について、他人の主張について思索するだけである。

・書名は手紙のあて名にあたるべきものであるから、先ずその内容に興味を持ちそうな読者層に、その書物を送付する目的をもつはずのものである。だから、書名は独自の特徴をそなえるべきである。

・賎民色の染みついたある文筆家たちのように、臆病風に吹かれて「我が尊敬する批評家氏」というような荘重な言葉を使うべきではない。

・匿名評論家は、厚顔無恥なふるまいをいろいろ見せてくれるが、なかでも滑稽なのは、国王のように一人称複数の「我々は」という形式で発言することである。

・汝自らを賎民と呼ぶべし、しからずんば沈黙を守るべし。

・匿名批評というものには、発信人の署名のない手紙と同じ程度の値打ちしかないのであるから、そういう手紙をうけとる時と同じように、疑いの気持ちをいだいて迎えるべきであろう。

・話すとおりにものを書こうとするのは、誤った努力である。むしろいかなる文体も碑文的文体の面影を、いく分でも留めているべきである。

・少量の思想を伝達するために多量の言葉を使用するのは、一般に、凡庸の印と見て間違いない。これに対して、頭脳の卓抜さを示す印は、多量の思想を少量の言葉に収めることである。

・ゲーテは言っている。「勝手気ままな生活を営むのは下賎の者、秩序と規則を求めるのは高貴なる者」

・主観的であるとは、執筆者が、文章の意味を自分だけ理解して満足していることである。読者は読者なりの理解のしかたで読んでも結構という態度である。

・ペンを執る以上は対話調に書くべきであろう。

・主観的な文体の働きは、あやふやで、壁に付着した染みにも劣る。染みならば偶然想像力を刺激されて、そこにある図柄を見る人がただ一人くらいはいるにしても、普通の人は要するにただ染みを見るにすぎないのである。

・人間はまだ一度にただ一つのことしか、明瞭に考えられない動物である。文章作成にあたっては、まずこの事実に何よりも注意をはらうべきであろう。だから一度に二つも三つものことまで考えさせようというのは、人間に対して無理な要求である。

・ドイツ人ほど自分で判断し、自分の判断で判決を下すことを好まない国民はいないのである。

・読書は、他人にものを考えてもらうことである。本を読む我々は、他人の考えた過程を反復的にたどるにすぎない。

・紙に書かれた思想は一般に、砂に残った歩行者の足跡以上のものではないのである。歩行者のたどった道は見える。だが歩行者がその途上で何を見たかを知るには、自分の目を用いなければならない。

・我が国の現在の書籍、著作の大半は、読者のポケットから金を抜き取ること以外に目的がなく、著者と出版社と批評家は、そのために固く手を結んでいる。

・いつでもそのへんに掃き捨てるほどいる作家の新刊ものを、しょっちゅう彼らは読まなければならないと思っているのである。そのかわり、史上に残る稀有の天才の作品は、ただ名前だけを知っておけばよいとしている始末である。

・それは、趣味のよい読者から、真の文学作品にあてるべき時間を強奪する巧妙な手段であり、その強奪した時間を凡庸作家の日々の駄作に対する供物にしようとしている。

・凡庸な者と凡庸な者とは、いったいなぜこのようにたがいに似ているのか。いったい彼らはすべて同じ一つの型で鋳られたのか。彼らの中の誰もが、同じような機会に同じようなことを思いつくではないか。違ったことは何一つ思いつかないのではないか。

・読み終えたことをいっさい忘れまいと思うのは、食べたものをいっさい、体内にとどめたいと願うようなものである。

・後世名声を博する者の多くは、同時代の者から迎えられないという憂き目にあい、逆に今の世に迎えられる者の多くは、後世に無視される。

・最近では誰も彼もが争って文学史を読みたがる。本当のことは何一つ知らなくても、何かについておしゃべりできればよいというのが、彼らの願いである。





読書について 他二篇 (岩波文庫)

読書について 他二篇 (岩波文庫)

  • 作者: ショウペンハウエル
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1983/07
  • メディア: 文庫



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