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『人生に聴診器をあてる』 [☆☆]

・隣り合った独房にいる二人の囚人が長い服役期間に、いかにして壁をこつこつと叩いて対話をするようになっていくかを説明しました。「壁は、ふたりを分けへだてているものであるが、また、ふたりに通信を可能にさせるものでもある」と彼女は書きました。「どんな分けへだても、きずなになる」と。

・何か魔法のような秘技を述べているのではありません。それはありふれた日常の行為のひとつなのです──こつこつ叩く、そして耳を澄ますこと。

・私の考えを両親が知ったら、私たちに残された関係もそれで一巻の終わり。私自身を苦しめている事柄について親子で話し合う技量は私にはありません。きっと収拾がつかなくなるでしょう。

・自負心に関する諸研究では、「頭が良い」と子供を褒めても学業の助けにはならないと結論づけている。それどころか、成績を落とす原因になるらしい。往々にして、子供は褒められるとそこで努力をやめてしまう。

・褒め言葉がBGMのように聞こえてくる。「いい子ね」「よくできたね」「あなたって最高」。私たちは自分の子供を褒めちぎることで、私たちってこんなに素晴らしい親子なんです、というシグナルを周囲に発信し、一時的であれ自尊心を高めることができる。

・「小さい子が、できて当たり前のことをやったからといって、私は褒めません」と彼女は述べた。「本当に難しいことができたときだけ、褒めるんです。たとえばおもちゃを独り占めにしなかったときや、我慢することができたとき。単に遊んでいたり本を読んでいたりする子を褒めることはしません」。

・誰でも一度や二度は、苦しくてたまらない感情を押し殺そうとした経験がある。しかし、感覚を押し殺すことに成功した私たちは、何が自分を傷つけているのか、その原因は何なのか、それを知る唯一の手段を失ってしまうのだ。

・私は彼の子供っぽさに強い印象を受けていた。共感力の欠如は、彼がまだ思春期にあることを示していた。

・家族の和を唱える政治家が恥ずべき恰好で取り押さえられたり、同性愛は罪悪なりと唱える宣教師が男娼と寝ているところを見つかったり、という話題に触れるたび私は、いかめしさの裏にやましさあり、と思う。

・「誰それが私を裏切った」という想像は、それよりも耐えがたい「誰も私のことを気にかけてくれない」という考えに落ち込まないための防波堤なのだ。

・歳をとると、妄想拡大の危険は高まる。私は病院で、高齢の男女がこんなふうに不平をもらすのを聞いた。「ここの看護婦は私を毒殺しようとしてるのよ」「私が眼鏡を置き忘れたんじゃないの。娘が盗ったに違いないわ」。被害妄想というのは往々にして、社会から無視されているときに生じる反応である。

・両親の期待に添ってうまくやっていくエマの技量は、知的能力が素晴らしく発達することの邪魔にはならなかったけれども、情緒面の発育を止めてしまった。

・彼は他人をうらやんでしまう状況を避けているようだと私はすぐに読み取った。外出はせず、つき合いは彼が見下すことのできる人々に限っていた──たとえば、雑用のために雇った人など。

・彼らは愛する対象には欲望を感じず、欲望の対象には愛を感じない。

・変化はこの場所で、今この時にしか生じない。これは大事な認識である。なぜならば、過去を変えようと思っても無力感と憂鬱な気分が残るだけだからだ。

・変化というものは、私たちが立ち直ろうとし始めたから、あるいは周囲の者たちとの関係修復を図ったから生じるというものでもない。そうではなく、関係を断った人々、忘れていた人々、死んでしまった人々との関係修復を図ったとき、私たちが大いに変化することが往々にしてある。

・スクルージが、かつて愛していたにもかかわらず記憶から追い出してしまった人々を悼むとき、彼は失っていた世界を取り戻し始める。真の人生を生き始める。

・自分だけ時間のなかで凍りついたままなのではないかという考えに苦しめられていた。彼女は自分のまわりの人たちの人生が変化してゆくのを観察していた。友達が結婚したり、子供をもうけたりしてゆくのを。なのに自分の人生はひとところで足踏みしたままだ。

・私たちは自分が信じた世界観、既知の物語に激しくしがみつく。古い物語を捨て去るときは、これから足を踏み入れる新しい物語の中身を知りたがる。

・出口の向こうに何があるのか正確に把握できなければ──緊急事態であっても、いや緊急事態であればなおのこと、その出口を使う気にはならない。

・変化に直面すると私たちは逡巡する。なぜなら変化とは何かを失うことだから。しかし、私たちが何らかの喪失をためらっていると、すべてを失うことになりかねない。

・何かを得れば何かを失うという先見の明を持たない人は、失敗する可能性がある。

・誰かと別れるということは、彼との今日を放棄するだけでなく、二人で描いてきた明日の夢をあきらめることでもある。

・贈り物というのは他者をコントロールすることがある、ときには残酷なまでに。

・妊娠できずにいる研究室の同僚のことを話した。ところが養子斡旋所で里親になる認可を得た直後、その同僚は妊娠した。彼女は誰かから、あなたはよい母親になれると言ってもらうことを必要としていたのでしょう。

・HIV感染者のCD4の数が200以下になったとき、その感染者はエイズ患者とされる。





人生に聴診器をあてる - 見失った自分を取り戻す道案内

人生に聴診器をあてる - 見失った自分を取り戻す道案内

  • 作者: スティーブン・グロス
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2015/03/09
  • メディア: 単行本



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