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『つぼねのカトリーヌ』 [☆☆]

・維持するためには、常に悪い箇所を補正する必要がある。モグラ叩きのように小さな悪を叩いていくしかない。

・泣くことが恥ずかしいことだと感じないというだけで、かなり下品だと僕は判断する。

・それでも毎日やっていると、昨日よりは今日の方が綺麗だ、ということがわかる。それがわからなくなったら、掃除が終わるのである。

・だいたい、安くなるまで待てるということが、それほど欲しくない心理の表れである。だから、手に入れたときに満足できないのは当然だろう。

・図書館で読む人はもっと悲惨で、順番を待って、自分の好きなときに読めないし、借りてきたら、返却日に追われて読むことになる。本は無料だが、自分の時間を失っていることに気づいていない。時間の方がずっと高いというのに、である。

・完成後の長い時間を意識して、ものを作ることがとても大事だと思う。ここに、技術というものの神髄というのか、精神が宿る。後世になって、作者が賞賛されることもあるし、あるいは国の信頼を高める結果にもなる。

・十年ほどさきを見て、作品を作るようにしている。今売れるものではなく、これから売れるものをつくる。

・子供がいたっていなくたって、伴侶がいようといまいと、老人になればいずれは一人になる。一人で生きていく覚悟こそ、一人前の大人としての嗜みである。

・大勢が感じたことが正しい認識であることは、むしろ稀で、多くの人が、感情的になっているし、なによりも扇動されていることに気づいていない。

・メーカは、もう電話対応などやめて、メールを主体にすべきだ。日本人って今でもファックスを使っているんだって、と世界から見られているのを知っていますか?

・本来の「物欲」とは、自己満足でなければならない。見せびらかして自慢ができる、といった「欲」は、現実の貧しさが生む幻想なのだ。

・なにも手がつかない状況とは、なんでも良いから手をつけた方が良い状況のことだ。

・不思議からいろいろなものが生まれる。まず、不思議を探すことが重要になる。

・相手になにかを与えたい、という気持ちがあるうちは、「愛情」があるということだ。無償で与えられなくなったら、それが愛の終わりである。

・自分の中にもう少し留めておいても良いのではないか、という言葉を、そして思考を、熟成させることなく表に吐き出してしまう。こうなると、もう最初から他者を意識した言葉、他者を意識した思考しかできなくなる。このため、多くの人の言葉や思考が、充分に熟成していない、薄っぺらいものになっている。

・どうして、自分ばかりトラブルが降り掛かるのか、と嘆いている人が多いが、トラブルは誰にも常に降り掛かっている。ただ、それを想定しているかどうか、の違いにすぎない。

・言葉を発することは大事だが、その言葉によって現実が影響を受けなければ意味がない。意味がなければ、フィクションであり、絵空事になる。

・たぶんマスコミは、「我々は事実を報道しただけで、犯人扱いしたのは視聴者だ」と言うのだろう。原発の風評被害でも同じだが、報道はときにはブレーキをかける物言いをすべきで、それがモラルだ。

・アフリカの貧しい子供たちに接することができない。話をする、声をかけるということは、その子供に対して自分が関わることであって、関わったからには、もう「じゃあ、またね」「頑張ってね」では済まなくなるからだ。

・その場限りでも優しさを切り売りできる人もいる。しかし、本当に優しかったら、そんなビジネスライクな優しさは出せないとは思う。

・馬鹿なことをする人間は、馬鹿なのだからしかたがない。馬鹿でも生きていける豊かな社会になった。

・自動車も新車が発表になって、二か月以上待たされることが普通になった。「人気があるのね」なんて言っている人が多いが、人気のあるなしにかかわらず、ただ「無駄なものを作らない」という戦略のようだ。そうやって、コストを下げている。

・褒めてもらうのも好きではない。褒められると不安になる。相手が本当のことを言っているのか、何の魂胆があるのか、と考えないといけない。

・既に使っている英語のカタカナ表記を、発音に近いものに直すだけで、かなり英語のヒアリング力がアップする、といえる。

・英語を話す人の多くは英語が書けない。スペルは、日本の漢字みたいに難しいものなのだ。

・自慢というのは二種類あって、自分の苦労に関係のないものはしてはいけない自慢であり、自分が苦労したものは、大いに自慢した方が良いと考えている。

・若者たちは、自慢を素直に受け取り、こちらを注目してくれる。逆に、自虐的な謙遜をすると、素直に軽蔑されて、話を聞いてくれなくなるのだ。

・頭が良いと感じるのはどんなときか、というと、それは、なんらかのトラブルが起きたときの対処で一番わかる。

・できる人間は、いつも人よりも多くの発想をする。これが、頭が良いな、と僕が思う能力である。いかに短時間に多くのもの、まったく道筋が違う可能性を思いつくか、という力である。

・重要なことは、誰がボールを投げるのか、である。反応ばかりしている人間は、自分からボールを投げられない。そこが欠けていると、リーダーになれないし、時代を切り開いていくことはできない。ただ、対処が上手くできるスタッフとして大勢の中で働くしかない。

・みんな反応したくてうずうずしている。誰かがなにか面白いこと、自分にも反応できることを発言してくれないか、と待ち構えているのだ。

・オークションというのは、欲しいものを思い切り高く買う場なのである。みんな、高く買って、その値段を価値だと思い込むことで満足感を抱いているのだ。

・日本人は、「新」が好きだ。これは、高湿のせいであらゆるものが腐りやすい、という風土が関係しているだろう。

・ヨーロッパなどでは「古」がわりと重んじられている。古い物は、良いものだからこそ残っている、とイメージするからだ。

・子供たちは、ピストルや戦車のおもちゃを「格好良いな」と思ったはずだが、だからといって、人殺しに憧れたわけではない。そこにはまぎれもない一線があることを子供でもわかっていた。それがわからない人間が、「子供にそんなものを与えるなんて異常だ」と反対するのである。

・どっきりというのは、一言でいえば「下品」である。TVは、これをとにかく繰り返している。こういうことばかり考えているから、どんどんつまらなくなったのだろう。

・感情をストレートに表に出すことは、人間としてのマナーに反する、と考えられていた。自分の感情さえコントロールできない、意思の弱い人間(つまり馬鹿)だと認識されたのだ。

・社民党なんか、じり貧である。なんでもかんでも反対する、という立場が、やはりまずかったのだろうか。やはり「すべてに反対」では物事が進まない、とみんなが感じたのだろう。

・意見も合わないし、気持ちもわからない。なにを考えているんだ、と腹が立つ。そう、そのとおり、そのいらだちが「自分らしさ」なのである。

・のび太君は、ドラえもんに、「素晴らしいのび太を出して」と何故言わないのか。それは、素晴らしいものを望んでいるからではなく、駄目な自分のまま、素晴らしい体験だけを望んでいるからだ。これは、詐欺に引っ掛かる人の状況そのものである。稼げる自分ではなく、稼ぐ方法だけを欲しがるから騙される。

・どうしたら原発を安全にできるか、という会話をしようと思っても、ほとんどの人は、「賛成なのか反対なのか」を見極めようとしているだけで、話を聞いていない。つまり、意見ではなく立場を見ようとしてしまうのだ。





つぼねのカトリーヌ The cream of the notes 3 (講談社文庫)

つぼねのカトリーヌ The cream of the notes 3 (講談社文庫)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/12/12
  • メディア: 文庫






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