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『知的余生の方法』 [☆☆]

・登場人物の年齢を絶えず忘れさせないで歴史を書くというのは一つの歴史叙述の発明ではないだろうか。その意味では「コロンブスの卵」のようなものである。

・果敢な攻撃をやるより、自軍の軍艦に被害を受けないうちに引き上げたい、というのは南雲中将の年齢に関係があったのではないか。

・軍司令官や参謀の年齢は、その名前が出てくる度に書いてもらうと、戦史にも別の解釈が生ずるのではないか。

・どんな人でも年をとる。『太閤記』でも、秀吉が出てくる度に、「その時の秀吉は何歳」と書いてくれたら、英雄も老いて行くことが実感されるだろう。

・仕事の後に晩酌でお酒を楽しむなどよりも、自分の時間を「内発的趣味」に応える勉強や訓練に当てる方がずっといい。そうすれば、今日は一杯などというささやかな享楽よりも、もっと充実感のある、知的な刺激に富む余生を迎える素地ができてくるであろう。

・彼らは、学生相手にしか講義をしてこなかったため、同じ研究者を前にしては、怖くて話せない。同僚研究者の前ではごまかしがきかない。

・戦時中は確かに、だらだら長生きするよりは、潔く死のうと考えた人が多かったようだ。戦後は平和になり、もっと生きてみたいと考えるようになった。

・いざ結婚してみると、そのような外見的なことが、いかに無意味なのかがわかってくる。そして美しさなどとは関係なく、知力や知恵のない女性ほど困るものはないということに気付くのである。

・脚の筋肉を衰えさせないためには、毎日少しでも立って歩かなければならない。別の言葉で言えば脚に重力によるストレスを与えなければならないのである。

・フロイトの研究結果は正しい。しかしそれはフロイトの患者だった人、つまり健常でなかった人の診療に基づいた結果であることを忘れてはならない。健常な人は忍耐、我慢というストレスによってのみ偉大な人間にもなれるのである。

・田舎を出て生活した者にとってみれば、「ふるさと」はやはり、一度捨てた土地以外の何物でもない。そこはすでに、古くなり荒れ果てた土地、さびれてしまった廃墟のイメージで、文字通り「古里」だ。

・テレビ番組や雑誌に登場する「田舎暮らし」は、ほんの一部の成功例だと考えてほぼ間違いない。みんなが成功していたら、記事なるはずはないのだから。

・残念なことに、日本はこの地方文化を、戦後の相続税でことごとく潰そうとした。こうして、大地主や名家はどんどんなくなってしまった。毎年、何百、何千という土蔵や倉が日本から消え続けている。当然、彼らが支えてきた地方文化も弱体化したり消滅したりしていった。

・「ふるさと」に魅力がなくなったのも、地方文化、いや名家が育んできた地方そのものが衰退していったからだと思う。

・明治、大正の日本の急速な近代化の精神的基盤には『セルフ・ヘルプ』があったと言えよう。明治の日本が世界の目には奇跡的とも言えるスピードで近代化し、富強の国になったのは、『西国立志編』のような本が超ベストセラーになるような国だったからではないか、という推測も成り立つであろう。

・私は日本の本でも外国の本でもベストセラーにいつも関心がある。内容的につまらないものもあるが、それでもその時のその国の民心を示していることになる。

・ボーイング社の工場がアメリカの西海岸に集中しているのは、創設者のウィリアム・E・ボーイングという男が、飛行機で遊ぶには東海岸は人が多くて狭くてだめだから西海岸にした、といわれている。

・賢明に使えば使う程、お金はいい召し使いになる。

・お金だけが目的となり、使わずに貯めることに生きがいを感じるようになっては、あまり意味がない。それこそお金を悪しき主人にしてしまうだけだからだ。

・「我は人よりちょっと良かれ」と唱えるというのだ。この「ちょっと」の精神が大切なのではないだろうか。他人より大きく儲ける必要はない。でも同じでは面白くない。自分はちょっとだけ多く儲けさせてもらえばいい、という謙虚な気持ち。

・書物はインターネット情報が与えることのできない「楽しさ」を与えてくれるのである。それは古い装幀や世紀を隔てた匂いなどなど……。

・自分の考える力や思想を作り上げるには、しかるべき本を熟読することが必要だ。そうして頭は作られる。このようにして出来上がった頭が必要とする情報は、インターネットで取る。体を作るのは食物で、それを補うのがサプリメントであるように。

・知力を高めるには、記憶力を高める努力が重要である。

・人間が人間であるためには、記憶の保持が中心となる。自分とは「自分の記憶」とさえ言えるかもしれない。

・札びらを切って買い物ができるくらいの英語は、「円」という通貨の力を借りているのだからそれはYenglishである。

・むしろ、退屈で我慢ならないことの方が多いと思う。年金がどうのとか、再就職先がどうの、あそこの飲み屋が美味いの不味いのといったレベルの話ばかりだからだ。これが退屈じゃないと感じるようなら、その人自身も退屈な人間になってしまったということなのだ。





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