SSブログ

『謎の独立国家ソマリランド』 [☆☆]

・弱小国家では、首都近辺は何とか取り繕えても地方はデタラメというケースがよくある。そして、地方こそその国の現実が見えるのは世界共通だ。

・「アフリカでは植民地時代に引かれた国境線を変えてはいけない」という国際社会の「掟」がある。アフリカ諸国の集合体であるアフリカ連合(AU)の憲章にも明記されている。アフリカの国はどこも民族問題を抱えている。どこか一つの国で「分離独立」を認めてしまうと、他の国でも他の民族が「俺たちも独立する!」となだれを打ってしまうことを恐れているのだ。

・アンフェタミンと同様、カートをやると気が大きくなり、恐怖心がなくなる。集中力も増すので、エチオピアでは受験生にも人気だという。

・日本のメディアやジャーナリストはいまだにtribeの訳語である「部族」なる語を使い続け、民族と氏族の両方にあてはめてしまう。そこに誤解や混乱が起きる。

・武田氏と上杉氏の戦いを「部族抗争」とか「民族紛争」と呼ぶ人はいないだろう。それと同じくらい「部族~」という表現はソマリにふさわしくない。

・要するに氏族は、日本人のような定住民にとっての「住所」もしくは「本籍」みたいなものなのだ。私の実家の住所は「東京都」「八王子市」「北野台」「二丁目」「××番地」である。それを外国人が「どうしてそんなに細かく分かれているんだ?」といえば、私たちはその外国人が馬鹿だと思うだろう。

・ダルヴィーシュはプロ野球のダルビッシュ有投手のダルビッシュと同じ言葉で、本来はイスラム神秘主義(スーフィー)の修行僧を指す。

・戦争好きなのはソマリランドの人間。南部のやつらは戦争をしない。だから戦争のやめ方もわからない。

・こんな貧しくて何もない国だから、利権もない。利権がないから汚職も少ない。土地や財産や権力をめぐる争いも熾烈でない。

・初のケースを解決するためにはまず立法が必要であり、立法には政治の力が必要となってくる。

・エチオピアは伝統的にクリスチャンの勢力がひじょうに強いので、欧米諸国は常にエチオピアの機嫌を取ろうとする。それは21世紀の今も19世紀末も変わりがない。

・要するに、私に訊きたいのではなく、自分が知っていることを誇りたいのだ。

・ケニア人は──他の世界中の人々もそうだろうが──「何もないより安くてもカネが入ってきたほうがいい」と考えるのに、ソマリ人は「安いカネで働くなら、何もしないほうがマシだ」と考えるのである。

・ここでも働いているのは「やり返されない相手には何をしてもいい」=「やり返される相手には攻撃しない」というソマリの法則である。

・無政府状態になり、中央銀行もなくなってから、シリングはインフレ率が下がり、安定するようになった。なぜなら、中央銀行が新しい札を刷らなくなったからだ。

・20年以上前の札をそのまま使っている。ボロくなりすぎた札は捨てられるから、総数は減ることはあっても増えることはない。だから、インフレが低く抑えられているのだ。

・普通、ある場所で戦争が行われた場合、そこが荒廃すれば、他の地域に舞台は移る。でも都が主戦場になると、いくらそこが荒廃してもどちらかが完全制圧するまで舞台が移らない。「都を支配する者=勝者」だからである。

・応仁の乱だって、核心部分は単純である。「足利幕府の二大実力者である細川勝元と山名宗全が幕府内での自分の立場を有利にするために戦った」──これだけなのだ。その証拠に、二人が世を去ると、たちまち戦は縮小し、終息に向かった。

・だが、田舎に行けば、どうか。電気がない。したがってテレビもラジカセもない。酒を出すようなレストランもないし、映画館もない。要するに、村の人たちにとって、タリバンの「カルト的な禁止事項」はいっこうに苦にならないのだ。逆らう必要がないから罰を受けたり殺されることもない。

・トラブルを起こせば起こすだけ、カネが外から送られてくる。誰も真剣にトラブルを止めようと思うはずがない。プントランドが海賊を基幹産業としているのと同じで、モガディショはトラブル全般が基幹産業なのである。

・モガディショの金持ちの中には、年に一回、ソマリランドに避暑ならぬ「避戦」に行く人も多い。地元は年中戦争なので、たまには家族揃って「平和」を満喫しにハルゲイサに行くというのだ。

・「インダイヤル」とは直訳すれば「小さい目」で、日本人・中国人・朝鮮韓国人をひとくくりにした、ソマリ世界ではごく一般的な呼び方だ。

・人間は自分の知っているシステムしか作ることができない。だから日本人が会社を作るとそれは村社会になり、ソマリ人は氏族社会になる。

・なぜ彼らが決して豊かでない生活の中から毎月、日本円で何万円ものお金を仕送りし続けるのかやっとわかった。「家族思い」とか「氏族の結束が固い」だけではない。忘れられることが怖いのだ。




謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

  • 作者: 高野 秀行
  • 出版社/メーカー: 本の雑誌社
  • 発売日: 2013/02/19
  • メディア: 単行本



謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

  • 出版社/メーカー: 本の雑誌社
  • 発売日: 2013/02/20
  • メディア: Kindle版



タグ:高野秀行
nice!(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 1

トラックバック 0