SSブログ

『ことばのトリセツ』 [☆☆]

・ハーイ、アレクサ、電気を消して」なんて言ってる間に、自分でスイッチを押した方がずっと早い、と思ってしまう私は、時代遅れなのだろうか。

・私には信念がある。「ボタンを押した方が早い」ようなことに、わざわざ人間をしゃべらせるな。

・物理学とは、「そこにものがあるから当たり前」だと思っている現象に、とことん理を追求する学問である。

・やはり、愛という言葉は、どちらかが「この人の、命の輝きに責任がある」と思っていないと、そしてもう片方が「この人がいないと生きていけない」と思っていないと成立しないのかもしれない。

・私は今、亀を追い越せないアキレスになっている。ここを抜け出さないことには、一歩も先に進めない。

・卑弥呼が生きた時代、ハ行音は、今の発音ではなかった。古代日本語ではP音が使われ、やがてF音に転じた。つまり、古代、卑弥呼はピミコまたはフィミコであった。

・熱力学には、「流体の移動距離に対し、触れる表面積が広いと、流体の温度が下がる」という法則がある。空冷機はその原理でできている。

・アメリカ人研究者に「あなたたちは、奈良と言うときは Nara、奈良女子大と言うときは Nalaと発音している。同じ単語だとは思わなかった」と指摘されたことがある。

・プロフェッショナルとして振る舞う現場で、けっしてD音の接続詞は使わない。これは、若き日に、私が決心したことだ。「でも」「だって」「だって」「どうせ」「だからぁ」「たださぁ」……これらを使う先輩が、みんなかっこ悪かったからだ。

・言葉には、音韻の流れが作り出す「ものがたり」がある。特に正反対のイメージを持つ音韻同士が、一つの言葉の中に混在するときは、それを見逃してはいけない。

・コントラス効果は、前にある音韻が、後ろに来る音韻の印象を強めることになる。このため、軽やかな音韻の後に来るDは、いっそう効果が高い。

・音読みと訓読みを使い分ける、という手がある。情を伝えたかったら大和言葉(訓読み)を、理を伝えたかったら漢語(音読み)を。

・言葉は認知の核であり、認知とは、脳に世界観を作るための基本ツールである。脳の機能性から言えば、「言葉が世界を作る」と言っても過言ではない。

・変化する事象の中にある普遍性を追究することは、物理学の基本姿勢であり、私の生きる目的でもある。

・「希望」を「のぞみ」に変えたのが、阿川佐和子さんだった。選考委員だった阿川さんは、父・阿川弘之氏から「昔から、特急の名は大和言葉でつけられてきた」と聞かされていたので、「希望を大和言葉にするとのぞみですね」とおっしゃった。さすがである。

・自然体で発音できる母音、M、N、P、Bは、65歳以上の熟年層の好感度も高い。年を重ねてくると、口腔周辺の筋肉の運動性能も下がってくる。F、Vなどの技巧的な音は発音しにくくなり、発音しにくい音は認知も下がる。

・サバゲー、バイク、ギア、ガン、バーベキュー、バーガーキングなど、濁音ワードをただ思い浮かべていくだけで、男子御用達な感じが匂ってくる。

・イ段音、ウ段音は口が小さくすぼんで可愛く見えるので、語頭か語尾についていると、女子たちの好感度は跳ね上がる。「カワイイ」は、口元も可愛くなるので、好きなのだ。

・人々が一斉に見、聞き、味わい、触れる「流行」には、人々が一斉に七年目に飽きる。それを四回繰り返した28年目で感性真逆の事象を愛し、56年目に元の位置に戻ってくる。

・有能な主婦である女性は、家の中で脳を休ませることがない。そんな女にとって、家は「戦場のベースキャンプ」、安らぐための場所じゃない。

・人々の気持ちが尖ってくると、「正してやりたい」気持ちも募ってくる。「尖った表現」が出てくる一方で、それにネガティブなニュアンスを感じて「正してやりたい」人々の声も大きくなってくる。これが2027年までの、言葉に関する時代のトレンドである。

・感性トレンドから言えば、「社会に対する反発」は、ここからさらに強まるはず。「社会はこうあるべき」という正義感が、これからいっそう、人々を包み込んでいくからだ。

・感性トレンドによれば、2019~2027年は、凛々しさが増し、パワーへと傾倒していく時代。本質を突く文言、クールな言いぶりが日に日に好感度を上げていく。音韻では、息や筋肉がタフに働き、口腔内の温度が下がる音の好感度が上がる。T、K、H、P、R、Sなどがそれに当たる。

・英語人は、クロカワと言われたら、k-r-k-wという子音流れをキャッチする。しかも、子音間の間隔が一定であることにこだわる。挟まれる母音の勝手な間延びを許さないのである。




ことばのトリセツ (インターナショナル新書)

ことばのトリセツ (インターナショナル新書)

  • 作者: 黒川 伊保子
  • 出版社/メーカー: 集英社インターナショナル
  • 発売日: 2019/06/07
  • メディア: 新書



タグ:黒川伊保子
nice!(0) 
共通テーマ:

nice! 0