SSブログ

『数覚とは何か?』 [☆☆]

・人間の「数覚」には、少なくとも三つの法則が利用されている。一つめは、一つしかない物体は、複数の場所を同時に占有することはできないということ、二つめは、二つの物体は、同じ位置を占有することはできないということ、三つめは、物体は突然消えたり、何もなかった場所に突然現れたりはできないということである。これらの三法則は、非常に幼い赤ちゃんでさえも理解している。

・人間社会の多くは、世界中のいたるところで、同じような解決に徐々に収束していった。ほぼすべての社会は、最初の三つもしくは四つの数を、それらに対応する分だけ印をつけることによって表記し、それ以降の数については、本質的に恣意的なシンボルによって表記するという点で共通している。

・8と9の間の距離は、1と2の間の距離と同一ではない。私たちが数を測定する場合に使用する「心の物差し」は、目盛りが一定の間隔で並んでいるわけではない。その物差しは、より大きな数ほど、より狭い範囲に間隔が圧縮される傾向にある。私たちの脳は、計算尺上の対数尺度に非常によく似たやり方で、量を表象している。この尺度上では、1と2、2と4、4と8の間隔が等しい空間で割り当てられる。

・異なる言語において、ある言語で数を発音するのにかかる時間と、その話し手の記憶容量との間には相関関係があり、それは何度も再現されている。

・人間の記憶の固定量としてよく引き合いに出される「魔法の数、7」は、人類に普遍的に見られる定数ではない。それは、ホモ・サピエンスの中の特別な集団で、たまたま90パーセント以上の心理学研究が対象としてきた人間である、アメリカの大学生の数字記憶の標準にすぎないのだ。

・ウェールズ人の生徒は、イギリス人の生徒に比べ、平均すると、「134+88」を計算するのに1.5秒長くかかる。年齢や教育程度を同じとすると、この差はもっぱら、問題と途中計算を発音するのにかかる時間のせいであるらしい。

・論理的な計算とホモ・サピエンスの脳の関係は、古代の始祖鳥が持っていた羽で空を飛ぶということと同じである。ぎこちない器官でやれと言うならやれないことはないが、とても最適とは言えない。

・電卓は、数の国の道路地図のようなものだ。五歳の子供に電卓を与えれば、数を毛嫌いするのではなく、数と友だちになることを教えられる。算術には、発見することのできる素晴らしい法則性がいくつもあるのだ。

・分数とは、水平な棒で区切られた二つの数字だとしか思えない子供は、分子どうしと分母どうしを足してしまうという、古典的誤りに陥る可能性が高い。1/2+1/3=(1+1)/(2+3)=2/5! この誤りは、具体的なモデルから正当化することさえできるかもしれない。たとえば、最初の試合でマイケル・ジョーダンが二回シュートを行って一つ決めたとしよう。平均すると1/2だ。次の試合で彼は三回シュートして一つ決めたとしよう。平均すると1/3である。両方の試合を通じてみると、彼は五回シュートして二回決めた。これが、1/2+1/3=2/5である!

・専門家とは、思考を停止した人のことである。

・計算の天才は、なじみのある数字にイメージを伴った、数の「動物園」を心的に備えていることが多い。数と友達になり、数のことは何から何まで知り尽くすということは、計算の天才の典型的な特徴と言える。

・子供の脳はスポンジではなく、それまでに得られた知識と統合できる限りにおいて事実を獲得していくように構造化された器官である。

・数学を教えるもっと理にかなった戦略は、量的な操作と数を数える操作は早くから理解できることを重視して、子供が直感を徐々に豊かにさせていくことだと思われる。まずは、おもしろい数のパズルや謎解きで好奇心を刺激する。それから、少しずつ、象徴的な数学の記号の持つ力を教え、それによっていろいろなことが手短に書けることを教えていく。

・数学者たちは、膨大な数の純粋数学を作り出してきたが、そのうちのほんの一部しか、物理学に有効ではない。つまり、数学的解は有り余るほど産み出されてきたが、その中から、物理学者は、彼らの学問にもっともよく合うものだけを選択してきたのだろう。これだと、ランダムな突然変異のあとに自然淘汰が来るという、ダーウィンのモデルと近いプロセスだ。

・私たちが不遜にも宇宙に対して当てはめる物理学の「法則」はすべて、常に部分的なモデルに過ぎず、私たちが不断に改訂していく大ざっぱな心的表象に過ぎない。私の意見では、現代の物理学者の夢である「すべてを説明する理論」は、決して見つかることはないだろう。



数覚とは何か?―心が数を創り、操る仕組み

数覚とは何か?―心が数を創り、操る仕組み

  • 作者: スタニスラス ドゥアンヌ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/07
  • メディア: 単行本



nice!(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

トラックバック 0