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『肥満と飢餓 世界フード・ビジネスの不幸のシステム』 [☆☆]

・世界中で、消費者は「地産地消」と「旬産旬消」に価値を見出すようになってきており、さらに重要なことに、人々は自らが単なる消費者ではないことに気づきはじめている。

・農民には限られた選択肢しかない。農民は市場が求める作物を育てねばならない。

・需要と供給の法則からすれば、コーヒー生産者は、他の作物を生産すべきだということになる。しかしこの考えは、彼らが他に生産する作物があるという前提に立っている。だが現実には、そうでない場合がとても多い。

・世界では9億キログラムもコーヒーが余剰となった。それほどコーヒーが余っているなら小売価格が安くなってもよさそうなものだが、そうなるには流通プロセスが長すぎるのである。

・世界には、コーヒーの生産者と消費者は星の数ほど存在し、加工工場の数も多いが、輸出業者の数は少なく、これが、コーヒーの流通システムのボトルネックとなっている。同様のことは他の食品についても言える。生産者と食卓を結んでいる流通システムのある段階において、ひと握りの企業に力が集中しているのである。

・歴史的に見ても。政府が貧困対策に熱心であった場合のほとんどが、腹を空かせた怒れる都市貧困層が政治的に大規模に組織化されれば、都市の富裕層に対して何をするかわからない、という恐怖に駆られた結果であった。

・農村が、都市の人々にとっての理想郷であり続けるために、農村は忘れ去られ、都合の悪い事実は隠され、歪められてきた。

・農村の内部にも格差はある。農地を所有し続けている農民と、すでに売る物がなく、労働を売るしかなくなった者たちとの間には際だった違いがある。

・インドは、工業部門の発展を経ることなく、知識集約型のコンピュータ・ソフト産業の雄となったが、国民の三人に一人は読み書きすらできない。

・より良い生活を夢見て初めて借金をするときには、それ自体が大きな問題であることはない。返済が滞るようになったとき、その夢が破れるのである。

・地元市場向けの食用作物であれば、作況が良いときは価格が下がることがわかっているので、その分多めに生産しておくことで何とかしのげる。作況が悪くても、価格が上がるので問題はない。しかし、国際市場に向けて綿花を栽培するとなると、あなたはどうすることもできない。あなたの知り得ないいくつもの要因が、生活を左右することになる。

・神の見えざる手は、常に見えざる拳をともなう。

・2002年には、米国産トウモロコシの価格は1ブッシェルあたり1ドル74セントだったが、生産コストは2ドル66セントだった。米国では長いこと農民が保護されてきており、農機械や肥料、貸付、輸送など、さまざまな形で政府が補助金を出しているからだ。

・通常は、価格が下がるということは、それ以上生産しても売れる保証はないということであり、したがって、生産者は決して増産すべきではないのである。

・価格変動が起きた際の対応を「即時」「短期」および「長期」の三つに分けて考えてみよう。価格変動が突然発生したとき、驚いた生産者は「即時」には何もできず、生産を続けるしかない。「短期」的には、その作物の生産をやめ、「長期」的には需要と供給はバランスを取り戻す。

・モノとマネーは簡単に国境を越えられるが、人間の場合はそうはいかない。モノとマネーだけでなく、文化もまた国境を簡単に越える。

・今日のソフトドリンクの起源は、砂糖入りのお茶にさかのぼることができる。

・特筆すべきは、紅茶の苦味を消し、穏やかな習慣性を補完する砂糖と、紅茶の渋味を緩和する牛乳との組み合わせが紅茶の人気を世界に広め、世界を変えてしまったことだろう。

・牛乳と砂糖を入れた紅茶は、飲んだ人に即座にカフェインと炭水化物を供給するため、手仕事を行う人々の活力とカロリーの源として最適だった。

・紅茶は、史上初の栄養ドリンク剤のようなものだったのである。

・飢えた人々は、パン切れを持った人の言うことしか聞かない。食料は道具であり、米国の交渉カードのなかでも強力な武器である。

・競合他社は味方であり、消費者・生産者は敵である。

・多国籍アグリビジネスは、世界の食料貿易の40%を支配しており、コーヒー貿易のすべてが20社に、小麦貿易の7割が6社に、包装された紅茶の貿易の98%がわずか1社によって支配されている。

・集中度は小売から養鶏にいたるまで、あらゆる部門で高まっている。フードシステム全体で統合が進んでいるのである。

・1993年、米国とカナダの政府が、動物性脂肪の摂取の削減を勧告したときのことを例に見てみよう。栄養学者たちは、この勧告が出される10年も前に同様の結論にいたっていたが、この勧告が政府見解といて採用されるという快挙は、実際には、科学の勝利ではなく、食肉・酪農産業に対して植物油脂産業が勝利した結果だった。

・ある国が他の国に執着すれば、さまざまな悪いことが起きる。その友好国への思い入れから、ありもしない共通の利害が捏造され、友好国の敵は自国の敵だと考える雰囲気が醸成され、友好国が関わる国際紛争や戦争への介入が正当化される。

・国益とは、自明のものでも、実態があるものでもないが、この名のもとに存在する指導者と神官がいて、彼らに「十分の一税」を支払う者は、より特権的な分け前を得ることができる。そして、中世の教会がそうであったように、国益もまた、貧困層よりも富裕層に恩恵をもたらしてきた。

・ブドウ糖果糖液糖(HFCS)は砂糖ではなく、代替物質であるが、砂糖が高価である米国では非常に魅力的な代替物なのである。

・米国では、海外で生産された安価な砂糖を輸入させないことで国内の高価格を維持してきた。この状況は、米国のより貧しい農民ではなく、フードシステムの中間に位置する加工業者に多額の収入をもたらした。

・ADMは、トウモロコシ由来の甘味料1ポンドを9~12セントで生産し、国内で精製された砂糖よりも安い18~19セントで販売することで大儲けをしている。

・GM(遺伝子組み換え)作物が農民を貧困から救い出すという主張も、消費者がGM食品を買ってくれなければ実現しない。消費者団体は、GM食品に対して多くの懸念を抱いている。

・私たちは、人の死をひどく悼むが、彼らがそれまでどのような生活を送ってきたのかについては無頓着だ。

・人々が飢えているのは、食料が売られていても買うことができないからなのである。

・アフリカ人でもアフリカ系米国人でもかまわないのだが、とにかくアフリカの「代弁者」に、アフリカの人々が何を求めているのかを「生の声」で伝えさせ、彼らの望みに反する活動は、すべて人種差別主義者によるものであるかのように思わせるという戦略なのである。

・キューバの人口は中南米地域全体の2%にすぎないが、科学者の数はこの地域全体の11%に上る。

・農民は、農薬を普段から使用するのではなく、最後の手段として使用するという点において、専門家となる責任を担っているのである。

・工業的な農業の害虫駆除の方法は、皆殺しの哲学に基づいているという問題がある。農薬は、作物に害をなす虫だけでなく、害虫の天敵である虫まで殺してしまう。

・害虫をなくしたいなら、害虫の駆除をあきらめることだ。つまり、虫の存在を受け入れ、共存の方法と、害虫の被害を最小限に留めるための方法を見つけるのである。

・間作栽培とは、一方の害虫が、もう一方の作物の害虫によって駆除される効果を期待して、たとえば大豆とサツマイモを一緒に栽培するという方法である。

・大豆には長い宗教的な歴史があり、それは常に畜肉の代替物とされてきた。一世紀に朝鮮半島に大豆を持ち込んだのは、菜食主義者の仏教僧であり、六世紀に日本に大豆を伝えたのも同じく仏教僧である。

・奴隷が合法だった時代には、奴隷は所有物であり財産なので、主人が面倒を見ました。所有者は、奴隷が死なないよう、食料と住むところを与えていました。しかし、現代の奴隷を気にかける地主はいません。地主は、彼らをまるで使い捨てのカミソリのように、完全に一時的な所有物として利用しているのです。

・最近の調査によれば、家で調理された食事のうち、加工食品を利用しなかったのは38%にすぎない。基本食材から料理することができない人が増えているのである。

・バーコードには、6を意味する長い二本線が左右と中央に合計で三つ引かれており、その三つの6のあいだに製造者番号と製品番号が配置されている。消費者文化は「獣の数字」とされる「666」と結合した、などというジョークも言われる。

・ウォルマートは、従業員による在庫の持ち去りの阻止を主眼に、早くからEPC(電子製品コード)技術を導入している。同社では従業員による商品の持ち去りは売上の2%と、業界平均の3.5%よりは少ないが、レジ係によって無断で持ち去られている商品はまだまだ多い。

・農村地帯では、広い範囲にわたってスーパーマーケットがないにもかかわらず、既存の食料品店も減りつつある。これは、食料を生産している農村地域が、「食料砂漠」、つまり自動車がなければ生鮮食料品を買うことが非常に困難な地域になっている可能性があるということだ。

・レッドライニング(投資差別)とは、銀行が地図の上で有色人種の居住区に赤い線で囲むように印を付け、その地区の住民には融資を行なわないようにする、という違法行為のことである。

・栄養科学は、ある新しい食品が他の食品よりも優れているということを消費者に説くときに、主要な武器とされてきた。

・食品産業の企業が科学的な論争に加わるのは、私たちの味覚を変えようとしているときか、科学的に正しいとされてきた議論をくつがえそうとするときだ。

・製粉会社は、パンの原料から可能なかぎり栄養素を取り除くことに熱心だった。これらの会社は、全粒粉パンに使われる全粒小麦から胚芽を取り除いて栄養補助食品をつくり、荒ぬか(ふすま)を家畜の飼料にしていた。このように小麦からさまざまな商品を製造するようになった結果として、パンは白くなったのである。また、必須脂肪酸を取り除いた小麦粉でつくられたパンは日持ちが良く、販売期間を長くすることができた。

・「コメの故郷」を自認する韓国に小麦を広めるには、学童にパンの食べ方を指導する必要があった。PL480食料援助プログラムの学校給食援助によるパンの無償配給がその役割を担った。この援助は、「今日の援助受け入れ国は、明日の顧客」という考え方に基づいていた。

・魚を与え、今日の糧とさせるか、魚を獲る方法を教え、生涯の糧とさせるか。

・パンを与え、今日の糧とさせよ。パンの味を覚えさせれば、彼らは生涯にわたって良い顧客になる。

・貧しい人々はより長い時間をかけて通勤している。最近発表された米国のある調査によれば、安い住宅の購入によって節約した額の77%が、通勤費に消えているのだという。この通勤費には、通勤時間のコストは含まれていない。

・世界の糖尿病患者の80%が低所得国の人々であり、富裕国でも貧困層における糖尿病患者の割合は格段に高い。

・伝統とは、ろくでもない奴らが追い払われて愛国主義に走る前に、最初に逃げ込む隠れ家のようなものだ。

・スローフード運動は、1989年、イタリア共産党の新聞に挟み込まれた「ガンベロ・ロッソ」という小冊子から始まった。しかし、イタリア以外の国では、スローフードを支持する人々からは、この運動が共産主義から生まれたという歴史はいとも簡単に受け流されている。

・現在のフードシステムが提示する選択肢にはない選択を行なうためには、一時的に自身の好みに疑いの目を向け、好きだから買うという短絡的な選択を行なわないようにする必要がある。

・あらゆる小売大手において、社会貢献事業は余剰利益でまかなわれており、広報部がどう説明しようが、それを負担しているのは株主たちである。

・自社の利益につながる場合のみ、消費者の願望を取り入れている。1ドル1票という厳格な市場原理が事業決定を支配しており、儲けにつながらないニーズが顧みられることはない。

・フェアトレードは、農民の暮らし向きを良くすることをうたっている。しかし認証機関に参加しているのは、数の上では、生産者よりもフェアトレード・ラベルから最も利益を得る流通・小売業者の方が多いのだ。

・現在のフードシステムの不平等性から最も恩恵を受けている企業こそが、本質的な変化に最も抵抗している勢力である。

・私たちが教えられないのは、自分に責任を持つとはどのようなことか、ということです。私たちの店で働きたいと訪ねてくる人は、その理由として「上司はいらない」からだと言います。彼らには、誰も彼らの上司なんか、なりたくないということがわからないのです。

・当初は救済が主眼であった食料援助は、1950年代に入ると、米国の余剰小麦の海外市場を切り開くための手段とされるようになった。

・「先進国は工業製品を輸出し、途上国は農産物を輸出している」というのが幻想にすぎないということを意味する。実際には、世界の食料輸出における上位10ヶ国の内の8ヶ国が先進国なのである。穀物に関しては、輸出量全体の7割以上を先進国が占めている一方で、国際貿易される穀物の8割は、途上国によって輸入されている。

・世界で生産される穀物総量のうち、貿易に回されるのは1割程度にすぎず、コメの場合はわずか7%、飼料や工業原料に多用されるトウモロコシでさえ13%台にすぎないということだ。国際市場の規模が小さいため、わずかの需要の変化でも国際価格は大きく変動してしまう、それが生産者と消費者の双方に多大な影響をもたらすことになる。

・日本は、世界人口の2%に満たない人口で、世界で貿易される穀物の10%近くを輸入している。トウモロコシに限れば、国際貿易される量の2割を日本一国で輸入しているのである。

・日本政府は「輸入先の多様化」による安定供給の実現を目指しているが、実際にはそれも困難である。トウモロコシでも、大豆でも、小麦でも、これらの品目を輸出している国が非常に限られているからだ。トウモロコシであれば、世界貿易の8割を米国・ブラジル・アルゼンチンの三ヶ国が占めており、大豆の場合には同じ三ヶ国で、世界貿易の9割を占めている。小麦の場合には、米国、EU、ロシア、カナダ、豪州、ウクライナの六ヶ国・地域で、8割を占めている。

・長距離・長時間輸送を前提としたフードシステムは、製造年月日の表示を排除し、これを消費期限や賞味期限の表示に置き換えた。消費者からは、それぞれの食品がどのくらい日持ちするのかについての知識や感覚も失われている。



肥満と飢餓――世界フード・ビジネスの不幸のシステム

肥満と飢餓――世界フード・ビジネスの不幸のシステム

  • 作者: ラジ・パテル
  • 出版社/メーカー: 作品社
  • 発売日: 2010/08/31
  • メディア: 単行本



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