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『ダブル・ジョーカー』 [☆☆]

・軍隊とは、畢竟敵を殺し、あるいは敵に殺されることを暗黙の了解とする共同体である。

・生存競争は追う側に有利に働く。

・後発の組織が先発のそれを上回るために必要なことは、ただ一つ。利用できるものは利用し、それ以外は切り捨てる。以上である。

・人間というのは不思議なもので、まさに裏切っている最中より、裏切ってしまった後の方が露見しやすい行動を取る。愚かにも「自分は悪いことをしたが、しかし謝ればなんとか許してもらえるだろう」、そんなふうに思うらしい。

・どんな場合も、仕上げは単純なほど良い。下手にけれん味を出せば、土壇場で失敗する可能性が高くなる。仕込みには充分手をかける。だが、仕上げはできる限りシンプルに。

・誰の手で、いつ、どんな情報が流れたのかさえ把握していれば、情報戦はむしろ有利に進められる。その上、敵の秘密通信手段を使って偽情報を流すこともできるんだ。

・知る必要のないことは、知らないにこしたことはない。

・スパイには何が必要なのか。それは、運です。正確には、運と、それを利用する能力ですね。あるいは、目の前で起きた偶発的な出来事を自分自身の幸運に変える柔軟性と言い換えても良い。

・馬鹿どもにわざわざ教えてやるつもりはなかった。頭の使い方は自分で覚えるものだ。

・何も店舗に美術品を並べて売るだけが美術商ではない。店を持たずに美術品の売買をやっている人間は、ヨーロッパには他にも大勢いる。

・スパイ行為の疑いさえあれば、狩りは始められる。疑わしき場所を密かに取り囲み、一斉に吠えかかる。「疑われているのは自分かもしれない」。そう思っただけで、スパイは必ず自分から姿を現す。ちょうど、猟犬の吠え声に震え上がったキツネが、自分から巣穴や薮から飛び出してくるように。スパイにとって最大の敵とは畢竟己の内なる猜疑心なのだ。

・スパイにとって、不慮の死は「任務失敗」を意味する。その後のスパイ活動が続けられなくなる、だけではない。死後、当局の調査によって、それまで彼が懸命に隠してきたものすべてが白日の下に晒されてしまう。

・任務中の死が名誉となる軍人とは異なり、スパイにとってはいかなる死も任務の失敗と見做される。

・奇妙なことに、組織された者のほとんどが、自分がいったいどちらの側で、誰の為に働いているのか気づいていなかった。彼らは皆、自分が信じるもののために「協力している」と思い込んでいたのだ。

・求めに応じて、人種別、階級別の女性の口説き方を伝授した。それがある種の技術である以上、D機関の学生たちにコピー出来ないはずがない。

・二重偽装の要点は、暴く側にあくまで自分で見つけたと思わせることだ。人間は自分で組み立てたものを可愛がる。

・人は自分で見つけた、自分だけが知っている秘密に対して、執着し、独占しようとする。

・すべての行動は計算された必然でなければならない。逆に言えば、スパイは偶然を存在させてはならない。すべての出来事は結果から振り返って、必然の中へと取り込まれなければならないのだ。

・既得権の確保。それが官僚の本能である以上、なりふりかまわぬ命懸けの抵抗は必至だった。彼らと正面から事を構えるのは得策ではない。

・あの程度で「嘘発見器」とは笑わせるが、アメリカ人は子供の頃から嘘をつくなとたたき込まれて育つ。病的なほど嘘がつけないアメリカ人にとっては、あの程度で充分なのだろう。

・アメリカ人は子供の頃から嘘をつくなとたたき込まれて育つ。彼らにとって「卑怯な騙まし討ち」とは、他国の者──例えば日本人が思うより遥かに嫌悪感をもたらす言葉なのだ。

・世界は言葉によって意味づけられる。

・戦争は始まった時点ですでに勝敗が決している。歴史上、外交上の失敗を軍事行動によって取り返し得た例しはない。軍事行動を含む外交戦略は、ちょうど日本の居合術と同じように、刀が鞘の中にある間が勝負なのだ。



ダブル・ジョーカー

ダブル・ジョーカー

  • 作者: 柳 広司
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2009/08/25
  • メディア: 単行本



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