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『富の独裁者』 [☆☆]

・貧困だけでは悲惨にならない。ただ貧しいだけで人を殺す者はいないが、貧困に加えて侮蔑的待遇や絶望、不満を味わったとき、人は殺人に走るのだ。

・市場経済が経済支配的少数民族の手に富を、それも往々にして莫大な富を集中させる一方、民主主義は貧しい民衆の政治力を増大させる。こうした状況のもとで市場経済民主主義を追求すれば、大惨事を誘発しかねない民族主義が拡大する。

・不満を抱いた先住系の多数派民族は、大衆迎合型の政治家にたやすく扇動され、憎まれている裕福な少数民族と対決する。

・世界的な人民主義と民主主義の運動によって、市場から締め出され、いら立ちを抱えた全世界の貧しい大衆が、勇気や正当性、発言力を得ている。言いかえれば、反米主義的な扇動にもっとも乗りやすい人々が力を得ているのだ。

・民主主義を導入しても、投票権を得た民衆が、国の将来を偏見なく考える協調的な市民に変貌するわけではない。むしろ票の獲得競争が起きることで、扇動的な政治家が出現しやすくなる。

・相対的に貧しい多数派民族が民族主義を掲げる政府に扇動されて、突出した富をもつ憎むべき少数民族を攻撃した。言いかえれば、市場経済と民主主義が、ルワンダと旧ユーゴスラビアで起きた大量殺戮の一因であったということだ。

・ビルマ社会の根底にある力、すなわち「華人による経済支配」と「多数派民族が抱く激しい憎悪」は、東南アジアのほぼすべての国々に共通する特徴でもある。

・起業家としての活力の裏には、倹約や精励、まだまだ満足できないという向上心、そして富の蓄積自体が目的化してしまうほどの蓄財に対する執念がある。

・ラテンアメリカのエリート層がいま学んでいるのは、「無気力ですべてを諦観している」貧しい大衆が、カリスマ的な扇動者の格好のターゲットになるということだ。

・スペイン人に征服される前は、アンデス山地に住む先住民がアルコールを飲むのは儀式的な場にかぎられていたが、征服後は酒におぼれることが先住民のストレス解消となった。この傾向は現在に至るまでずっと続いている。

・まとめれば、「経済が少数民族に支配されている国は多数あるが、そうした国で自由市場と民主主義を同時に追求すると、国民が平和で豊かな生活を送れるようになるどころか、私有財産の没収や独裁制、大量虐殺などを招く結果になる」ということだ。

・第三世界の国営化の大きな原動力となったのは、共産主義思想ではなく、経済支配的少数民族に対する大衆の不満や復讐だった。アジア、アフリカ、ラテンアメリカの大多数の国々で実施された国営化が、「憎むべき経済支配的少数民族の資産や産業」にほぼ的を絞っていたことは明らかである。

・チャベスはグローバル化を一貫して批判しているが、皮肉なことに、屈辱と自己嫌悪にまみれた数百年にわたる混血人の歴史を、政治を動かす巨大な力に変えることができたのは、グローバル化の一要素である「民主主義」のおかげである。人口の八割を占める極貧の混血人は、チャベスに扇動されて政治と民族の意識に目覚め、彼に票を投じた。

・1999年1月のフリータウン侵攻で、RUF(革命統一戦線)は味方の負傷者を入院させられるよう、はじめに全病院の入院患者をすべて殺した。

・1990年代のルワンダでは、銃やナタによって七人の肉親を殺されたツチ族の女性が、ある親切なフツ族の夫婦に、1歳8か月の息子をかくまい、徘徊する暴徒から守ってくれるよう頼んだ。夫婦は子供を家に引き入れ、すぐに殺害した。

・経済が少数民族に支配されている社会を民主化した結果、政府の扇動のもとに少数民族が「浄化」された例は、おそろしいほど多数にのぼる。

・不満を抱えた教育水準の低い農村部の貧民にとって、ミロシェビッチは「セルビア民族主義の聖者」であり、待望久しい「大セルビア主義の擁護者」であった。

・インドネシア人やマレーシア人のほとんどはイスラム教徒で、豚肉を食べないが、華人は豚肉が大好物で、朝から晩まで食べている。しかも、華人にとって食は人生の一大テーマだ。したがって、華人はイスラム教徒とはつきあえない。

・民族への帰属意識とは「生物学的特徴」ではなく主観に基づくものであり、こうした主観は普遍的なイデオロギーからつくり出される(こうしたイデオロギーはエリート層や政治家によって形成される面もある)。

・アラブ全体で普通選挙が実施されたら、票の獲得をねらう政治家がイスラエルを共通の敵に仕立てあげるのは間違いないだろう。

・残念ながら、「他民族多元主義の自由市場民主主義」は、政策ではなく理想である。

・世界中に広まっている反米主義は、「扇動された大衆が抱いている、経済支配的少数民族への反感」の「世界経済版」にほかならない。

・アメリカ・ドルは世界の基軸通貨であり、聖戦を唱えるイスラム圏の指導者ですら、資産はドル建てで保有している。

・かつてはBBCが国家間の対話をとりもったものだが、今ではCNNが全世界を結んでいる。

・イギリスのマクドナルドは「見るからにイギリス的な広告」を流し、「ビッグマックとともにカレーなどイギリス人の好物も売っている」という。これに対し、ギャップやスターバックスなどの企業は、アメリカらしさを前面に押し出したことが仇となって、苦戦を強いられている。

・インターネットやテレビの普及、教育制度の改善といったさまざまな進歩は諸刃の剣であり、人々は知識が増えるとともに不満を募らせがちだ。

・途上国の人々は、アメリカ人が懸命に働いて今の地位を築いたことや、現在も仕事熱心であること、その地位を正しい方法で守っていることなどを理解しないまま、ただアメリカ人のように暮らしたいと願っている。こうした人々は、いわゆる「強者」が打倒されると、人間のいかがわしい本性をむきだしにして喜ぶ。「強者が倒れれば誰もが平等になる」という理屈の通らない話を、なぜか信じているからだ。

・独裁が国家繁栄のカギであるなら、アフリカは世界一豊かな地域になるはず。

・教育分野への支出を増やしても、社会経済上の改革を大規模に実施しないかぎり、得られる効果は拍子抜けするほど小さいという。

・さらにやっかいなのは、政府が差別撤廃措置を推進することで、民族的な区分が明確化し、民族間対立がかえって激化する危険性があることだ。

・市場経済優先の姿勢を公言するほうが、にせものの民主主義を自画自賛するよりはまだましである。

・政府や共産党の高官に対して定年退職制度が新たに設けられたことは、外国からはほとんど注目されていないが、これによって、市場経済に反対する革命主義の年輩者ばかりだった指導部が、経済や政治に対してはるかに進歩的な考え方をもつ、教育水準の高い壮年の政治家を中心とする組織へと変貌した。

・中国政府は抑圧の対象を「大衆」から「反体制思想を声高に訴える比較的少数の人々」に変え、大多数の市民には、従来よりもはるかに大きな経済的・個人的自由を認めているという。

・いまや、イスラム過激派は、石油に次ぐサウジアラビア第二の「輸出品」となっている。

・皮肉なことに、経済支配的少数民族は、その国の経済活動や経済成長の重要な原動力となっていることが多いにもかかわらず、「国家に寄生している」「国富を吸い上げている」「経済に脅威を与えている」などと受け止められがちである。

・理論的にいえば、ある会社だけが就労関係の法律を守り、競合他社がそれを守らなかった場合、法律に従った会社は競争に負け、倒産する可能性が高い。



富の独裁者

富の独裁者

  • 作者: エイミー・チュア
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2003/10/24
  • メディア: 単行本



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