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『定義集』 [☆☆]

・不幸な人間に対して注意深くあり、――どこかお苦しいのですか? と問いかける力を持つかどうかに、人間らしい資質がかかっている。

・漫才やコントの演出する滑稽は、演者と観客の共有する残酷な笑い声こそ目標にしています。

・大学で学ぶ知識はもちろん必要だ。しかし覚えただけでは役に立たない.それを学びほぐしたものが血となり肉となる。

・ヨーロッパのいくつかの場所で、国家につかえる国民を作ろうとしている。計画し、仕込み、ひとつ方針の教育をして、社会の仕組みや経済にそのままついて来る国民を育てている。そして、こういう「新しい人」がつかえて繁栄した国家は、いつの時代にも永続きしなかった。周りの国々を悲惨なことにした上で、滅びた。

・文章から主語を隠す、そして受け身の文章にしてツジツマを合わす。そうすることで、文章の意味(とくにそれが明らかにする責任)をあいまいにする。それが日本語を使う私らのおちいりやすい過ち、時には意識的にやられる確信犯のゴマカシです。

・重度の障害を持ち、声も発せず、社会の中では最弱者となったおかげで、私は強い発言力を持つ「巨人」になったのだ。言葉はしゃべれないが、皮肉にも言葉の力を使って生きているのだ。

・何かよい思い出、とくに子供時代の、両親と一緒に暮らした時代の思い出ほど、その後の一生にとって大切で、力強くて、健全で、有益なものはないのです。

・アリョーシャは、ドストエフスキーと共に、「キリスト教の魂を持つ恐るべき社会主義者」となるコーリャを予見していたのです。

・何かを残すかと同じくらい、何を捨てたかによって、自分自身を知ることになるのだと思います。

・戦前の軍国主義的権力が、『万葉集』を「防人の歌」によって代表させようとしたのは、もちろん極端な歪曲であり、愚民政策以外の何ものでもなかった。私は、いま各界の実力者がやっていることに、「愚民政策」を見ています。その奥に、重ねて来た愚かさへの鈍感も透けて見えます。

・あたしは、今の火星にだって絶望しない。だって絶望は人間が頭の中で作り出した絵空事だから。でもね、同じくらい希望も持たない。希望も人間が頭の中で作り出した絵空事だから。

・空想と想像の違いは、後者は根拠にもとづいてなされること。

・二宮尊徳はむしろ農民たちに、知識を得たければ自然を読め、と教えたのだ。自然こそ言語であり、自然の文法を知ることがわれわれの教養となり、それによって確かな行動をとれることになる。

・初読では言葉の迷路をさまようことになりがちなのに、「再読する」時、それは方向を持った探究(クエスト)になると教わりました。

・原発を維持するということは、核兵器を作ろうと思えば一定期間のうちに作れるという「核の潜在的抑止力」になっている……原発をなくすということはその潜在的抑止力をも放棄することになる。



定義集

定義集

  • 作者: 大江健三郎
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2012/07/06
  • メディア: 単行本



タグ:大江健三郎
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