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『群れはなぜ同じ方向を目指すのか?』 [☆☆]

・群知能のような集団特有の能力の創発を理解する際には、考えるべき中心的な問題が二つある。それは人間をはじめとする動物の個体が従っている相互作用のパターンを特定することと、個体間を情報がどう流れているかをつきとめることだ。

・イナゴの群れの場合、その力の一つは、後ろのイナゴに食べられたくないという単純な欲求だ。移動するイナゴは餌を探しており、前にいるイナゴはおいしそうで食欲をそそる。したがって食べられないようにするには、前進を続け、距離を保つのがいいという結論になる。

・集団を一定の正確さで導くのに必要な、事情に通じた個体の比率は、集団が大きくなるほど小さくなることが明らかになっている。先の学生の実験では、200人の集団で10人(全体のわずか5パーセント)が事情を知っていれば、90パーセントの確率で集団を目標に導くことができた。

・集団内で働く見えないリーダーという考え方は、文明の誕生と同じくらい古いものだ。中国の言い伝えによれば、「人々がほとんど存在を知らない指導者が最善で……この指導者が動き、目標が達成されると、人々は「それは私たちが自分でやったことだ」と言う」。

・ある集団を構成する個人となったときに使うことのできる一つの規則が見えてくる。すなわち――内側から導け(可能なら、同じ考えの友人や同僚たちとともに)。ただ集団の他のメンバーには、こちらのしていることを気づかれてはならない。自分の行きたい方向へ向かい、後は群れの規則がするに任せよ。この規則は、近くのお手本に従う傾向(生得のものでも、学習で得たものでも)がある個体の集団で機能する。

・UPS社は、長年蓄積していたノウハウと、配達経路を計算する新しいソフトウェアとを組み合わせて、できるだけ右折が多くなるような順路を考え出した。この根拠は明白だ。左折をする際はほとんど必ず対向車線を横切らなければならない。つまり、待つ可能性があり、その分だけ時間を無駄にしやすく、また事故のリストも高いわけだ。

・ツイッターによるソーシャル・ネットワークとミニブログのサービスは、今や政治家、有名人、家族、友人間など様々な社会集団であたりまえのように利用され、それによって私たちは集団内のあらゆる人物にリアルタイムで連絡をとることができる。

・群集の中を効率的に進んでいく最善の方法は、自然発生的な群集力学のことを理解して、それに抗うのではなく、同調することである。

・脱出の可能性を最大にするには、パニック・パラメータという、自分の主体的な行動よりも群集の行動に引っぱられる程度を示す値を最適化する必要がある。パニック・パラメータがゼロなら、群集がしていることは気にせず自分で出口を探す。反対に、その値が1なら必ず群集についていくが、それによって非常口や脱出経路の使い方が非効率になることもある。

・研究結果によれば、脱出経路について信頼できる情報がない状況では、パニック・パラメータが0.4くらいで動くのが一番いいといわれている――つまり、60パーセントの時間は群集とともに動き、40パーセントの時間は自分で考えたアイデアを使うのだ。

・パニックの状況にある時の実際の行動について、次ぎの二つの基本的な事実を直視する必要がある。一つは、私たちはしばしば手遅れになるまで危険を深刻なものと考えられないこと。そしてもう一つは、本当に危険だということに気づいても、出口を探したり高台に向かったりする前に、家族や友人を探すケースが多いことである。

・警報に反応できなかった人が多かったのは、「過去に災害に遭った経験がなかったこと、自分だけは大丈夫という思い込みがあったこと、異常な事件を予想するための新しい基準が採用できていなかったこと、守ってくれる役所への依存があったこと、安心できる話には飛びつき、災害を予期させる話は否定したり無視したりする気持ちがあったこと」のせいだという。

・何らかの値を求めるという問題(瓶の中のゼリービーンズの個数という古典的な問題とか)の場合は、それについて出されたすべての答えの平均をとることが最善の方策であり、科学者はこうした種類の問いを状態推定問題と呼んでいる。一方、いくつかの選択肢から正解を選ぶ問題の場合には、多数決が有利になる。

・間違った答え二つでは正解にはならないかもしれないが、間違った答えがたくさんあると正解に近くなりうる。これこそが状態推定問題における集団の知恵から導き出された驚くべき結論だ。

・合衆国憲法の起草者たちはみな、新体制は二院制とする、つまり人民を代表とする下院と、州を代表する上院を作るべきだという固い信念を持っていた。

・一方の議会は人民を代表し、他方は州を代表するとみなされ、人口の多い州と少ない州の双方の不安をやわらげることになった。これを言い換えれば、下院は「Xは人民にとってよいことか」と問うためにあり、上院は「Xは連邦政府が行うのと州が行うのとどちらがよいか」と問うのが仕事だ。

・判決に至る前に陪審員どうしで議論すれば、集団の知恵の主な土台の一つである独立性が失われることになる。

・クォーラム反応とは、簡単に言うと、各個体がある選択肢を選ぶ可能性が、すでにその選択肢を選んでいる近隣の個体の数とともに急速に(非線形的に)高まることで、集団はそれを通じて合意に達する。

・どんなに完全な投票方式だったとしても、人間という存在を考慮に入れることを忘れるべきではない。よく知られている通り、私たちは戦略的に投票したり、票田になったり、争点よりも人柄に影響されたりするものだからだ。

・その集団思考とは、最初から実用的な目的を持っていなければ役に立つ科学は生まれないというもので、この信条はまず政府や共同体に充満し、そして今や他ならぬ科学界にも浸透しはじめている。もし私たちがいつもそう信じて研究していたらどうなるだろう。少しだけ例を挙げてみても、X線装置、抗生物質、ラジオ、テレビ、空気で膨らませるタイヤといった発明はなかったはずだ。こうした発明はすべて、そういう結果を求めて考えた問いから生まれたものではなかったのである。

・一番よく覚えているのは、人生で成功する秘訣はよいコネを作ることだという助言だ。父が言おうとしていたのは、何かの問題について助けてくれそうな人を知らなくても、助けてくれそうな人を知っていそうな人を知っていればいいということだった。

・たとえばウェブは19次の隔たりでつながっている。つまり平均19回クリックしてリンクをたどれば、どのウェブサイトでも見ることができるというわけだ。

・リンク上の交通が双方向ではなく一方通行となっている場合は、6次の隔たりであろうと何次の隔たりだろうと、そういう考え方自体が消えてしまう。そのときネットワークは4つの大陸――中心核、入力大陸、出力大陸、孤島――に分かれることになる。

・いくつかのノードがなくなったり損傷を受けたりしても、ネットワークの性能が大きく左右されることはないのである。だが主要なハブがダウンした時には、抜き差しならない痛手をこうむる。たとえば自然の生態系について言えば、中枢(キーストーン)種が失われることで、生態系全体の崩壊が始まる場合がある。しかも困ったことに、どの種が中枢種の役割を果たしているのか、必ずしもわかっているわけではない。

・アフリカの学校で性病について話したときがそうだった。病気がある人から他の人へとうつる際に起きていることを明らかにしようと映画を見せたのだが上映が終わると、生徒の一人がこう訊ねた――私が誰かにうつしたら、もう私はかからないということですか? 結局、その場にいた生徒全員が同じこと、つまり、他の人にうつせば自分はそれを取り除けると考えていた。アフリカで援助活動をしている友人は、大人の中でもそういう誤解は普通に見られると教えてくれた。エイズなどの性感染症にかかった人々は、それを他人にうつすことで自分は厄介払いできると信じていることが多いのである。

・私の失敗は、自説を広めるために影響力のある人をハブとして使おうとする時の大きな問題点を浮かび上がらせている。たしかに相手は影響力のある人かもしれないが、そういう地位にあることで、一般的な人々のように簡単に影響を受けないのだ。

・芸術も科学も、現実世界で起こる出来事とパターンから刺激を受けて発展していくが、両者には決定的な違いがある――科学者は、自分が想像したパターンを現実と照合しなければならない。



群れはなぜ同じ方向を目指すのか?

群れはなぜ同じ方向を目指すのか?

  • 作者: レン・フィッシャー
  • 出版社/メーカー: 白揚社
  • 発売日: 2012/07/25
  • メディア: 単行本



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