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『Xイベント 複雑性の罠が世界を崩壊させる』 [☆☆]

・科学は主として反復可能な現象を研究するものであり、Xイベントはそのカテゴリーから外れるのである。それが主な理由となって、われわれは現在、Xイベントがいつ、どのように、なぜ起こるのかを説明するまともな理論を持ちあわせていない。

・ポスト工業化社会のライフスタイルを維持するために必要なインフラ――電力、水、食料、通信、輸送、医療、防衛、金融――は、きわめて密接につながっているので、一つのシステムがくしゃみをしたら、他のシステムが一気に肺炎になりかねないのである。

・それはどの時代よりも危険な要素になっている。われわれ人類が史上初めて、自分たち自身の破滅をもたらすXイベントを実際に生み出す能力を手にしているからだ。今ではもう自然だけが死神ではないのだ。

・歴史的には、ふくれ上がった複雑性を解消するのは往々にして――規模の大小を問わず、また内戦かそうでないかを問わず――戦争だった。

・中国の金融システムは、国民がはるかに高いレベルの透明性を要求する西側諸国には向かないモデルである。それどころか、中国が国際舞台でますます積極的に影響力を行使しようとしていることを考えると、中国自身にとっても持続可能な仕組みではない。

・制御システムは制御される側のシステムと少なくとも同じくらい複雑でなければならない。制御システムの複雑性が足りなければ、二つのシステムの複雑性ギャップがあらゆる種類の不愉快な事象を招くおそれがあり、実際に招くことが多い。

・食料生産を支配している大企業は、一つの作物につきわずか数品種の種子、ときにはたった一品種の種子しか使わないことで、遺伝子の多様性を著しく制限している。その特定の品種が何らかの病気に襲われたら、食料生産は大混乱に陥り、食料供給システム全体が崩壊するおそれがある。

・EMP(電磁パルス)は、核爆発で生じるようなガンマ線の瞬時の強烈なバーストから始まる。爆発で生じたガンマ線は大気中の空気の分子と相互作用して、いわゆるコンプトン効果により高エネルギーの電子を散乱させる。これらの高エネルギーの電子が大気をイオン化して、きわめて強い電場を生み出す。

・FCG(磁束圧縮ジェネレーター)は、瞬時に反応する爆薬を詰めた筒が、それより少しだけ大きい銅のコイル管の中に入れられているという構造になっている。起爆の直前に、磁場を作るためにコンデンサーバンクによってコイル管に電流が流される。それから、筒の後部から起爆される。爆発の力によって電磁波が外に向かって広がると、筒がコイル管に接触してショート回路ができる。筒が外側に向けて炎を上げるにつれてショートが進み、それによって磁場を圧縮する。その結果、FCGは強力な電流パルスを生み出す。これは爆発の威力で装置が崩壊する前に発生する。

・EMP攻撃は通常兵器による戦争の最初の一撃としても魅力的だ。北朝鮮やイランのようにわずかな弾頭しかない国は、通常兵器による戦争を始める前に、大国の技術的優位を無力化しておきたいと思うかもしれない。

・EMP攻撃が実行されていない理由は、生物兵器の使用を阻んでいる理由とおそらく同種のものだろう。影響が完全に無差別だということだ。これらの兵器は、攻撃者が支配もしくは利用したいと思っているまさにその地域を破壊したり汚染したりするのである。

・本格的なE爆弾は社会全体のインフラをぶち壊してしまう。それは確実だ。インフラを破壊してしまったら、攻撃者もその社会の資源をほとんど利用できなくなるのである。

・ユーロ圏諸国は厳しい制約を受けている。どの国も単独行動をとることはできず、欧州中央銀行(ECB)の指示に従って共同歩調をとらなければならないのだ。そのため、複雑性の高いシステム(世界)と低いシステム(ユーロ圏諸国)の間に複雑性ギャップが生じる。このギャップを埋めるために、ユーロ圏の豊かな国から債務国への融資が行われたりしているが、そうした措置はほぼ間違いなく「損の上塗り」というカテゴリーに入ることになるだろう。

・新規加盟を認める際の、この「速ければ速いほどよい」という方針は、EUをできるだけ早く拡大しようとして導入されたものだ。おそらくは「大きすぎてつぶせない」存在になるために。

・弦理論が成り立つためには、われわれが日常の経験からよく知っている空間の三次元と時間の一次元の他に、まだ発見されていない次元が宇宙に存在していなければならない。弦理論を唱える人のほとんどは、10次元の世界が存在すると信じており、LHCがそれらの余剰次元を発見してくれることを期待している。

・「新しい理論は、敵対する理論が死に絶えるまで決して受け入れられない」のである。

・1993年、謎の爆発が2度にわたって、時速100万マイル近い速度で地球を貫通した。その正体が何だったにせよ、10月22日、トルコとボリビアの地震計はそれを感知して、南極大陸でTNT火薬数千トン分の威力を持つ爆発が発生したと記録した。その26秒後、その正体不明の物体は、インド洋のスリランカに近い海底を抜け出て地球を去っていった。1か月後の11月24日、2度目の爆発が感知された。オーストラリアとボリビアの地震計が、南太平洋のピトケアン諸島沖で爆発が起こり、19秒後にその物体が南極大陸に抜けたことを記録したのである。物理学者たちによると、どちらの爆発もストレンジレットによる衝撃と考えて矛盾はないという。

・ストレンジレットはビッグバンの間に誕生し、きわめて密度の高い恒星の内部では今なを形成されていると考えられている奇妙な粒子である。

・ミニ・ブラックホールの影響は、いわゆるハードSF作品で幅広く探求されてきた。物理学者たちがまだ発生したことがない事象に対する想像上の恐怖を表現できる場所は、SFしかないからだ。

・ランド研究所がシンクタンクとして隆盛をきわめた時代はそのころにはもう終わっていた。同研究所は新しい組織に生まれ変わろうとしていた。住民を困らせている政治的
・社会的害悪を解決するための知的ヒントを求める連邦・州・市町村のさまざまな政府機関に対して、あらゆるアドバイスを提供できるショッピングセンターのような組織に変身しようとしていたのである。

・今日のように緊密につながった地政学的構造の中では、限定戦争はほぼ確実に、どんな政治家も公然とは認めようとしないほどグローバルな戦争に拡大するだろう。

・事故は核兵器の誕生以来、核の恐怖の大きな部分を占めてきた。

・人々は、ベビーフード、トマト、タバコ、洗剤、ビール、ガソリンなどが、要求に応じてまるで魔法のように近所の店に現れると思っているらしい。それが現れなかったらどうなるか。これはきわめて重要な問いだ。

・脱水症状によってその水分の10~15パーセントを失ったら、その人は厄介な事態に陥って、深刻な内蔵疾患や他の多くの不快なことにみまわれ、悪くすると死んでしまう。つまり、体内の水分をすべて失わなくても、ほんの一部でも死ぬには十分なのだ。現在のような仕組みの現代社会にも同じことが言える。世界の日々の石油供給量のごく一部が失われるだけで、今日の工業化社会が崩壊するには十分なのだ。

・遺伝的に、また社会的に、他の人たちより病気を広めやすい人がいるのである。こういう人たちは強い免疫系を持っており、そのおかげで感染しても発症しないか、発症するまでに時間がかかる。そのため感染していることに気づかないまま病気を広めてしまうのだ。

・中国の病院では、患者への医薬品の販売による利益が、利益全体の大きな割合を占めている。そのため、のどの痛みのようなよくある病気に対しても、抗生剤を処方するのが当たり前になっている。そのせいで、抗生物質に対する耐性を持つ新種の細菌が急増している。

・人々は通りに出て電気のない都市を眺めながら、いったい何が起こったのだろうと口々に語り合った。だが、電池式のラジオを持っていた人だけは、この出来事についての公式情報やいつ電気が復旧するかという専門家たちの予想を聴くことができた。

・これまでの潜在的に危険な技術、たとえば核爆弾のような技術は、一度しか使えない。作って使ったら、それで終わりである。だが、遺伝子改変生物やナノオブジェクトやロボットはこの制約を受けないと、技術者たちは主張する。

・われわれが間違いなくイメージして「いない」のは、立場を逆転させてロボットではなく人間が床を掃除するべきだと考えるインテリジェント・ロボットの集団だ。

・1956年のSF映画『禁断の惑星』を見た。この映画の製作者たちが50年前に想像したテクノロジーは今では少し時代遅れになっているが、ストーリーと教訓は近所のパン屋で買った今朝のクロワッサンのように新しい。

・ロボットたちはアシモフの原則を解釈し直して、人間を守る最善の方法は彼らを支配することだという結論を論理的に導き出す。

・スタンダード・アンド・プアーズがアメリカの長期信用格付けを引き下げたにもかかわらず、この衝撃で暴落した株式市場から引き揚げた資金を投資家が避難させた先は、他ならぬアメリカ国債だった。それは当然の成り行きだった。なにしろ、市場がパニックになり、投資家が保有株を売って多額の現金を手にしたら、そのカネはどこかに行く必要があるからだ。それが行き着いた先が、一般通念では行くべきではないし、行くはずもないとされるところ、すなわちアメリカの長期国債だったのだ。迷ったときは、知っている悪魔を選べというわけで、この場合はそれがアメリカ政府だったわけだ。

・肝に命じるべきことは、デフレを解消するためにはシステムにマネーを注入するだけで足りないということだ。デフレの解消は、経済的なものであると同じに少なくともそれに劣らぬくらい心理的なものでもある。

・変化が起こるのはメジャー級のXイベントが発生したときで、これが人々に衝撃を与えて落ち込みから脱出させ、新しい心理的軌道に乗せるのだ。不穏なことに、この衝撃はたいてい戦争、それも大規模な戦争という形をとる。

・ダウ・ジョーンズ工業株価平均が1929年10月の大暴落直前の水準に戻るには、23年の歳月がかかった。

・確かなことはただ一つ。何をしては「いけない」かということだけだ。債務の上に債務を重ね続けてはいけない。絶対にいけない。借金によってデフレから脱却し、経済を再生させることはできないという原則の生きた実例があるとすれば、それは日本である。

・「最中」のフェーズは基本的にリアルタイムの危機管理から成り、何がまずかったのかについて科学的に考察したり、思案したりするときではない。

・活動の多くが次ぎの戦争の備えるためというより、前回の戦争を戦う準備の方に近くなる。

・富裕層は、活動の選択肢(どんな家を買うか、どこに旅行するか、何を食べるか等々)がいくつもあり、その中からいつでも好きなものを選べるきわめて複雑性の高いライフスタイルを持っている。それに対して貧困層は、ライフスタイルの選択肢がほとんどない複雑性の低い生活を送っている。このギャップは拡大しており、将来、富裕層の自発的な行動か政府の介入によって、もしくはXイベントによって、間違いなく縮小される必要がある。

・スリーマイル島事故の公式報告書では、この事故は「信じがたい」出来事とされている。だが、この事故の信じがたい点はただ一つ、原子力発電所が稼動するために「きちんと」機能しなければならない、信じがたいほど長いプロセスの連続だった。これらのプロセスの一つ一つを見ると不具合が生じる確率はきわめて小さかったが、全部を合わせると、そのうちの少なくとも一つがきちんと機能しない確率は決して小さくはなかった。

・一般的に言うと、複雑性のミスマッチを解消する最もよい方法は、単純な方のシステムを「複雑化」するのではなく、複雑すぎるシステムを単純化することだ。

・疲れているときは集中しにくい。ボーっとしないようにするために脳が多くのエネルギーを使っているので、高次の脳機能が省エネのために停止するからだ。これによって見えるものの範囲が狭まる。

・豊かな人には自由度(すなわち行動の選択肢)がたくさんあるわけだ。私が実際に何をすることを選ぶかは、私の生活の複雑性レベルにはまったく影響を与えない。それらの選択肢がありさえすれば、私の生活は複雑になるのである。

・われわれは甘やかされ、守られてきたので、政府や他の公的機関が、われわれ自身にコストやリスクを負担させずに、すべての問題を解決し、われわれの希望やニーズに対処してくれることを期待するようになっている。

・われわれは間違った考えに陥っており、誰もが平均以上の暮らしができる、幸せでリスクのない生活を送ることは誰もが生まれながらに持っている権利である、どんな災難も判断ミスも、さらには単純な不運さえも、自分以外の人に訪れるべきだ、などと思っているのである。

・適応力に密接に関連しているのが、レジリアンス(柔軟性)だ。これがあれば、困難を乗り切ることのできる――乗り切るだけでなく困難からかえって利益を得ることができる。



Xイベント 複雑性の罠が世界を崩壊させる

Xイベント 複雑性の罠が世界を崩壊させる

  • 作者: ジョン キャスティ
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2013/01/22
  • メディア: 単行本



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