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『暗黒の啓蒙書』 [☆☆]

・私はもはや、自由と民主主義が両立可能だとは考えていません。

・民主主義とはたんになんらかのシステムであるわけではなく、むしろ明白な方向性をもった一つのヴェクトルなのだ。

・政治に目覚めた大衆とは結局のところ、合理性を欠いた暴徒なのだ。

・なるほど、民主主義は確かに最悪かもしれない、だがいったい何がそのオルタナティヴになるというのか。

・民主主義は衆愚政治(モブ・ルール)に他ならないものであり、民主主義下においては、51%の者たちによって、残りの49%の権利が奪いさられることになる。

・民主主義とは、2匹の狼と1匹の羊が、昼食に何を食べるかをめぐって票を投じ合うことだ。自由とは、得票を競うために巧みに武装した羊のことなのである。

・漸進的な民主化から産業化が派生するのではなく、逆に産業化の方がその土台をなすものである。

・民主主義は、進歩を使い果たし、食べ尽くすものなのである。したがって暗黒啓蒙の観点から見た場合、民主主義的な現象を対象とする研究にふさわしい方法は、一般寄生虫学(ジェネラル・パラサイトロジー)なのだといえる。

・あらゆるものが寛容される中で、ただ不寛容だけが寛容されえないものとなるアイロニカルな状況が生まれている。

・自発的な寛容は今や、積極的権利としての「寛容される権利」の前に降伏することになっている。この権利は、実質的な資格として定義されている。たとえば、人間の尊厳を公的な形で肯定することや、あらゆる場所からの平等な待遇を国家によって保障されること、あるいは経済的な停滞状態から政府によって保護されること。

・民主主義によって後押しされた近代末期の苦情者集団はいま、政治的な指導者たちによって「耳を傾けられる権利」を要求するように駆り立てられ、社会に対してもっぱら害をなしている。

・それが個人的にも集団的にも無害であるなら、その伝統は共生的なものであることになる。それが、個人的にも集団的にも有害であるなら、その伝統は悪意に満ちたものだといえる。

・新たなピューリタニズムが繁栄するために、古いピューリタニズムは愚弄されなくてはならない。

・新たなピューリタニズムによる親殺しは、「クリスマスに対する戦争」という馬鹿げた形をとることになる。クリスマスの時期の挨拶として、「メリー・クリスマス」の代わりに宗教色のない「よい休暇を」を用いるべきだとする議論が挙げられる。

・黒人にはあり、ヒスパニックにはあり、ユダヤ人にもあって、ではなぜわれわれにはそれがないのか。この問いこそが、ホワイト・ナショナリストたちの不満を完成させる最後の構成要素であり、彼らが怪物にしかなりえないことを決定づける狼男の呪いである。

・政治的な議論の焦点が明確に人種の話題に定まると、必ずリベラリズムが勝利を収めることになる。

・記事にコメントはみな、一部の隙もないほどにリベラルで、必然的にどれも代り映えせず、完全に我を忘れているものばかりである。

・たとえ弁証法がもっともらしく見えるとしてもそれは、そもそも弁証法がもっともらしさを作り出すものとして生み出されているからにすぎない。

・いったいなぜ、他の何かではなくこれが報道されているのか。

・厄介な人間たちの多くはこれまで、「社会的な努力を必要とする者」や「別の社会的能力を持つ者」のような、より繊細な呼び名を要求し続けてきた。

・「非黒人のアメリカ人(ノン・ブラック・アメリカン)」の人種的な相対物は「黒人のアメリカ人(ブラック・アメリカン)」であって、「アメリカの黒人(アメリカン・ブラック)」ではないという点である。名詞と形容詞の入れ替えによるこの世界秩序の反転はすぐに一つの規範を生み出し、以降の論旨を決定づけていくことになる。

・進歩主義はいまだその時代がやってきてはいない理想主義者だけを評価する。

・社会や政治は進歩している傾向にあるのだということを、シンプルで議論の余地がない事実だと見なしている者たちにとって、そうしたことをまったく認めることのない貧乏白人(クラッカー)たちの拒絶は、発達の遅れを示す明らかな証拠だと見なされることになるのだ。

・この民主主義ってやつはちょろいもんだ──自分に一番多くのことを約束してくれる奴に投票するだけでいいんだから。こんなことはどんな馬鹿にだってできる。

・自然と環境の間にある二項対立は即座に、政治的かつ感情的な含意を帯びていく。右翼は遺伝子を好み、左翼の方は文化を好む。

・差別はバカのやることである。なぜ差別はいけないのか。民主主義や平等があるからではない。近代や啓蒙があるからではない。それが正しいからでもない。単純に不愉快だからだ。



暗黒の啓蒙書

暗黒の啓蒙書

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/05/20
  • メディア: 単行本



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