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『女という病』 [☆☆]

・彼女には、親しい友人に対しても、自分のことを秘密にしたり謎めきたがる癖があったようですね。

・人は、秘密を持っているから謎めくのではない。謎めきたいから、あえて秘密を持つ者もいるのだ。

・「私を見て。私を理解して。私と何かを共有して」と訴えずにいられない。ある意味、物乞いにも等しい卑屈な願望。

・完全なる満足なんて、あり得ない。人は何かを選択した途端に何かを失うのだから。

・凡庸な人間にとって、己の凡庸さほど自尊心を傷つけるものはない。

・凡庸なる者が選ばれし者の国に入るには、「偽造パスポート」を使うしかない。才能のあるふり、金のあるふり、育ちのよいふり……様々な形で水増ししたパスポートを手に、いつ正体がばれるか、我々は怯えながら生きているのだ。

・攻撃こそ最大の防御である、というのは、じつは、弱い犬ほどよく吠える、と同じ「弱者の発想」だ。自慢話をしたり威張ったりする人間ほど尻子玉が小さいことを、我々はよく知っている。

・凡庸を憎む人間は、もっとも凡庸なる存在なのである。

・何もわざわざ青木ヶ原樹海まで行かなくたって、死にたい人はどこででもちゃんと死ねるのである。なのに何故、青木ヶ原樹海を「死に場所」に選ぶのか。

・被害者であれば、自分も家族も責めを負うことなく一方的に世間から同情される。

・駄目な男にとことん貢ぎ、彼から必要とされることで自己確認をする通称「だめんずうぉ~か~」たちの存在も確認されている。彼女たちの欲しい物はただひとつ……「私」の確認、「私」の証明。私は「私」が欲しいのだ。

・今の私は世界と繋がっていない。接続先のない出力端子だ。世界と繋がるには、「物語」というアタッチメントが必要なのだ。その証拠に、生き生きと世界に繋がっているように見えるタレントや文化人たちは皆、雑誌やテレビで自分の「物語」を語っているではないか。私にも、あれが欲しい。

・周囲から「普通」と思われることに、何より腐心した。目立ちたくない、普通でいたい。他人の目に留まってしまうと、自分の暗い秘密が漏れ出してしまうから……。

・もっとも「男にモテる容貌」であることと本人の「理想の容貌」とはまた別問題。

・闊達で天真爛漫な人間には、その裏返しとでもいうべき欠点があるものだ。

・愛を失うのがそんなにも恐怖であることを、男たちは知らないかもしれないが、女たちは知っている。何故なら女たちはいつも、「愛されること」で自己確認をしてきたからだ。

・愛されない女は、この世でもっとも哀しい存在だ。金があっても才能があっても社会的地位があっても、誰からも愛されない女は、ただの「イタい女」に過ぎないのだ。

・誰にも必要とされない人間は、生きていても死体と一緒。そこに転がっているだけの存在でしょ?

・いったん虚言システムが脳内に出来上がってしまい、それによって快感を得るようになると、人はそこから抜けられなくなってしまう。

・気がつくと、どこにも居場所がなくなっていた。行くあてもない、帰る場所もない。海月のように、ふらふらと漂っているだけの日々。

・図々しい女だと思っているようだ。弱いふりをしてどこまでも頼ってきて、面倒を見てやっても恩を返さず、厚かましい顔でだらしなく生きている女だと。

・「ここではない、どこか」へ行かねばならない時が来たのだ。ずっと行きたがっていたくせに、いざ行かねばならぬ羽目になると、恐ろしさで身がすくんだ。

・こんな人は、一緒に死んではくれないだろう。だって、まともに生きられる人には、死ぬ理由なんかないもの。

・男は会社で働く時間が限られているけど、小さい子供のいる主婦は、24時間働いているのと同じだもんなぁ。大変だよな。

・この人の言うことを聞いていると、自分の言いたかったことを、代わりに言ってもらっているような気がする。私の気持ちを、私の言葉を、この人が私の中から引き出してくれるみたいだ。

・女は、しばしば言霊に恋をする。しかし、そこに宿っているように見える言霊は、彼女自身の願望の投影物にしか過ぎないのだ。相手の言葉が空っぽであればあるほど、それは磨かれた黒水晶の玉のように、女の幻想を鮮やかに映し出す。

・他人からどう見えるか、ではないのだ。自分の目に自分がどう映るかが、彼女のファッションテーマなのである。それが他者の目に奇異に映るなどという客観的な視座は、彼女の中になかった。

・どんなに美しくても、美貌だけで富を手にできる女の数など限られている。やはり、その美貌の裏に、何らかの才覚や内面が要求されるものである。

・「他者がいない」ということは、彼女の脳内世界と外部の現実世界を繋ぐ端子がない、ということだ。人は他者に共感し他者と対立することによって、厳然たる客観世界である「現実」を認識するからである。

・現実世界にリアリティを感じられず、他者との間に円滑な感情関係を持てない現代人は、必ずしも珍しい存在ではない。

・この世に自分の居場所がないと感じ、疎外感と孤独感に苛まれた果てに他者との関係を断ち切って、抑鬱や引きこもりといった状態に陥る人々の例は後を絶たない。

・猫に対しては人並み以上に愛情を注いだ。もっとも、その可愛がり方は不器用きわまりなく、「偏愛はしていたが、飼い方を知らなかった」と近所の住人は証言している。



女という病

女という病

  • 作者: 中村 うさぎ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/08/17
  • メディア: 単行本



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