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『魔法飛行』 [☆☆]

・同じ一人の人間に続けて三度会う──それもごくわずかな時間のうちに──ということは、その人物に興味を抱く理由としては充分ではないだろうか。

・「ホントにあんたは単純だから」 よくそう言われる。あまりいい気はしない。けれど、そう言われて腹が立つのも、それこそ単純な証拠なのかもしれない。

・世界初の栄誉を担った、というよりも担わされたのは、クドリャフカという名前の、旧ソビエトのライカ犬でした。この犬は、重さ五百キロあまりの人工衛星、スプートニク二号に乗せられて、宇宙空間へと旅立ったのです。

・文字とは所詮記号であり、文章はその羅列にすぎない。世界だとか人間だとか自然だとかいった、形の定まらない奇妙なものを、記号の中に封じ込めるなんて難しいんだろう。

・何しろ、本来そこにいるはずの学生がいなくてもわからないくらいだから、いないはずの人間が一人紛れ込んだことなど、誰にもわかりはしない。

・人間には目に見えるものよりも見えない部分の方が、そして口に出す言葉よりも出さない言葉の方が、実はずっと多いのです。あなたの平和な物語の中にすら、陰の部分はあるのです。

・やっぱり図書館が一番かな。それでもって、二番目は古本屋。つまり一番好きなのがタダで、その次が安物なのね。

・美大に通う<芸術家の卵>なのだが、しょっちゅう見えざる壁にぶつかっては、周囲に当たり散らすという悪癖を持つ。

・どれもごく達者で、美しい。そして、ただそれだけだ。そこにはいかなる種類の感銘も残らない。

・きれいな風景を、見たまんまの形で切り取りたいんだったら、カメラを使えばいいのよ。そうすりゃ、一秒で済む。何も時間をかけて、絵なんか描かなくってもね。

・人間はその成長の代価として、何と多くの美しいもの、大切なものを支払い続けなければならないのだろう?

・口先の百万円よりも、目先の百円ってね。

・彼もまた、何かを信じるために決して小さくはない代償を支払っている一人なのだ、と思った。世の人はどうして、罪のない夢想家や風変わりな魂を、放っておいてはくれないのだろう? そっとしておいてくれさえすれば、彼らはきっと幸福でいられるのに。

・我々が銀河系内で唯一絶対の存在であると自惚れて、安心していられる連中はいい。彼らには、見えない相手に向かって数限りないラブ・コールを送り続ける人間の気持ちなど、決して理解できないだろう。

・こうした買い物欲に対しては、心のどこかから必ず反論が上がる。ことに衣類に関してはその傾向が強い。いや、ちょっと待て。まずお財布の中身と相談しよう。たとえ財布がイエスと言ったとしても、次に箪笥と相談しよう。まだまだちゃんと着られる服が、あの中には詰まっているんじゃないか?

・それにしてもイブだのクリスマスだのという日は、何だか前評判ばかり高くってちっとも面白くない前衛映画に似ているように思う。皆が特別だ、特別だと騒ぐ割に、その前後の二十三日や二十六日と、取り立ててどうという違いもない。

・嘘ばかりついている。これでは彼女の周囲にいる人は、判断することをためらうに違いない。いったい何が本当で、何が嘘なのか。どれほどが真実で、どれほどが偽りなのか。

・彼は臆病だったかもしれない。大切な物がいつか壊れるかもしれないっていう可能性に、耐えられなかったんだ。その臆病さが、壊れるのを待つくらいならいっそ、自分の手で叩き壊そうとなんていう考えを生んだわけだ。

・轢き逃げ犯にはある程度の社会的地位と家族とがあって、しかも真面目で気が弱いタイプが多いそうだよ。人を殺してしまったという現実を受け入れるにはあまりにも気が弱く、そして守らなきゃならないものがあまりにも多過ぎると、一番直接的な逃避行動を取ってしまうんだろうね。つまりアクセルを踏んで、その場から逃げだすってわけだ。



魔法飛行 (創元推理文庫)

魔法飛行 (創元推理文庫)

  • 作者: 加納 朋子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2000/02
  • メディア: 文庫



タグ:加納朋子
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