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『銃・病原菌・鉄』 [☆☆]

・数のうえで二対一とまさっていたモリオリ族は、抵抗すれば勝てたかもしれない。しかし、彼らは、もめごとをおだやかな方法で解決するという伝統にのっとって会合を開き、抵抗しないことを決め、友好関係と資源の分かち合いを基本とする和平案をマオリ族に対して申し出ることにした。しかしマオリ族は、モリオリ族がその申し出を伝える前に、大挙して彼らを襲い、数日のうちに数百人を殺して、その多くを食べてしまった。

・馬は、紀元前4000年頃、黒海北部の大草原で飼いならされるのとほぼ時を同じくして、それまでの戦いのあり方を一変させている。人びとは馬を持つことによって、自分の足だけが頼りだったときよりもはるか彼方まで移動できるようになった。

・馬は、20世紀初頭にいたるまでの6000年のあいだ、戦場における有効な武器であった。

・世界史では、いくつかのポイントにおいて、疫病に免疫のある人たちが免疫のない人たちに病気をうつしたことが、その後の歴史の流れを決定的に変えてしまっている。

・情報は記述されることによって、口承よりもはるかに広範囲に、はるかに正確に、より詳細に伝えられる。

・要するに、読み書きのできたスペイン側は、人間の行動や歴史について膨大な知識を継承していた。それとは対照的に、読み書きのできなかったアタワルパ側は、スペイン人自体に関する知識を持ち合わせていなかったし、海外からの侵略者についての経験も持ち合わせていなかった。どこかの民族がどこかの土地で同じような脅威にさらされたことについて聞いたこともなければ読んだこともなかった。

・人類史の大部分を占めるのは、「持てるもの(Haves)」と「持たざるもの(Have-nots)」とのあいだで繰り広げられた衝突の数々である。しかも、この衝突は、対等に争われたものではなかった。つまり、人類史とは、その大部分において、農耕民として力を得た「持てるもの」が、その力を「持たざるもの」や、その力を後追い的に得たものたちに対して展開してきた不平等な争いの歴史であった。

・実際には、すべての食料生産者が狩猟採集民より快適な生活を送っているわけではない。今日、狩猟採集民より快適な生活を送っている食料生産者は、裕福な先進国にしか存在しない。

・考古学の研究によれば、多くの地域において最初に農耕民になった人びとは、狩猟採集民より身体のサイズが小さかった。栄養状態もよくなかった。平均寿命も短かった。

・野生動物の絶滅と食料生産の開始に因果関係があることを示す例は多い。たとえば、ポリネシアからニュージーランドに渡った初期の移住民が食料生産に励みだしたのは、モア鳥を絶滅させ、アザラシの数を減少させ、海鳥や陸生の鳥を絶滅または減少させたのちのことだった。

・因果関係のつながりは、双方向にはたらき、原因が結果であり、結果が原因であるのが一般的である。

・農家で栽培された作物に食欲をそそられなくなったハイカーにとっての楽しみは、山道で食用植物を見つけて食べることである。

・野生のアーモンドは数十個で致死性となる青酸カリがふくまれている。森は食べると危険な植物であふれている。

・多くの植物は種子をばらまく仕掛けを持っている。そのため、狩猟採集民は、植物の種子を効果的に集めることができなかった。彼らが効率よく手に入れることができたのは、そうした仕掛けを持たない突然変異種だけであり、そうした個体を採集しつづけた結果、種子をばらまく仕掛けを持たない個体が栽培種の原種となったのである。

・栽培された小麦や大麦のうちで収穫可能であった個体は、一世代前と同様、穂先に実をつけたままでいる突然変異種の個体であった。こうして収穫に好都合な突然変異を起こした個体の実(種子)を幾世代にもわたって栽培しつづけることで、人間は自然淘汰のベクトルを完全に反転させてしまった──それまで種の存続に必要とされた遺伝子が死を招くものとなり、死を招くものが存続の遺伝子となったのである。

・ニューギニアの高地で暮らす子供たちは腹部がふくらみ、口にする食物の量は多いものの、タンパク質の摂取量が少ない食生活特有の体型をしている。ニューギニア高地の社会では、伝統的に人肉を食べる風習が広い地域で見られたが、これもつまりは食生活におけるタンパク質不足に原因があったと思われる。

・新しい作物や家畜、技術を取り入れることができる社会の人びとは、実際に取り入れることによってより強力となり、取り入れに抵抗を示す社会の人びとを数で凌駕し、追放し、征服し、あるいは抹殺してしまうことも可能となったのである。

・われわれは、成功や失敗の原因をひとつにしぼる単純明快な説明を好む傾向にあるが、物事はたいていの場合、失敗の原因となりうるいくつもの要素を回避できてはじめて成功する。

・脳や感覚器官についていえば、捕食者から逃げのびられるようにそれらの器官を発達させていた野生祖先種と異なり、人間によって飼育され捕食者から逃げる必要がもはやなくなってしまった結果、それらの器官を小さく退化させてしまった家畜もいる。

・クマの肉は珍味として知られ、非常な高値で売られている。グリズリーは成長するスピードも比較的速いので、飼育状態でおとなしく飼われている動物であれば、素晴らしい肉を人間に提供する家畜になると思われる。

・シマウマは歳をとるにつれどうしようもなく気性が荒くなり危険になる。シマウマはいったん人に噛みついたら絶対に離さないという不快な習性があり、毎年シマウマに噛みつかれて怪我をする動物監視員は、トラに噛みつかれる者よりもずっと多い。

・序列性のある集団を形成する動物は、人間が頂点に立つことで、集団の序列を引き継ぎ、動物たちを効率よく支配できるので、家畜化にはうってつけの動物である(こういう動物は、人間が群れに所属してしまうことで家畜化できる)。

・群れをつくって集団で暮らす動物は互いの存在に寛容なので、まとめて飼うことができる。混み合った状態で飼育してもうまくやっていける。

・東西方向に経度が異なっても緯度を同じくするような場所では、日の長さ(日照時間)の変化や、季節の移り変わりのタイミングに大差がない。

・植物はまた緯度の異なるそれぞれの地域に特徴的な病気に対して抵抗力を持ち合わせている。遺伝子プログラムに組み込まれている緯度と異なる場所に植えられてしまった植物の運命は悲惨である。

・ユーラシア大陸には、世界でもっとも幅の広い同緯度地帯があるので、農作物がもっとも劇的に伝播したと思われる。

・ツェツェバエが鞭毛中を媒介することで感染する伝染病の存在はとくに大きく、そのため馬は、赤道北側の西アフリカの諸王国より南の地域で飼育されることがなかった。

・羊のことを肉欲的に愛する人はあまりいないだろうが、プラトニックに犬や猫を愛する人は多い。

・第二次世界大戦までは、負傷して死亡する兵士よりも、戦場でかかった病気で死亡する兵士のほうが多かった。

・戦史は、偉大な将軍を褒めたたえているが、過去の戦争で勝利したのは、かならずしももっとも優れた将軍や武器を持った側ではなかった。過去の戦争において勝利できたのは、たちの悪い病原菌に対して免疫を持っていて、免疫のない相手側にその病気をうつすことができた側である。

・残忍なスペインの征服者(コンキスタドール)に殺されたアメリカ先住民の数ははかりしれない。しかし、スペイン側の持ち込んだ凶悪な病原菌の犠牲者になったアメリカ先住民の数は、それよりはるかに多かった。

・敵を知らねば戦いに勝つことはできない。これはさまざまなことにあてはまるが、医学においてはとくにそうである。

・感染個体の体のはたらきを変えてしまうことにかけては、狂犬病ウイルスに勝るものはない。このウイルスは、感染した犬の唾液に入り込むだけでなく、犬を凶暴な興奮状態におとしいれて噛みつかせては、その唾液を介して新たな犠牲者に伝播する。

・ヨーロッパの都市では、集団感染症で亡くなる住民減を補うために、健康な農民が地方から絶えず都市に流れ込んでいた。ヨーロッパの都市が、そうした人口流入を必要としなくなったのは、ようやく20世紀に入ってからのことだった。

・合衆国は、海外旅行に出かけるアメリカ人や入国してくる移民の爆発的な増加によって、ひとつのるつぼ化しつつある。これは人種のるつぼではなく、少し以前まで遠い国の風土病の原因として片付けられていた病原菌のるつぼなのである。

・すべての種類の動物がこうした集団感染症にかかるわけではない。この種の病気にかかるのは、人間の場合と同様、病原菌が生き延びることができる規模の集団を維持できる群居性の動物だけである。

・1459年にヨーロッパで最初に記録された梅毒の症例によると、患者は頭から膝まで膿疱でおおわれ、顔から肉が削げ落ちて、たった数か月で死亡している。ところが1546年になると、今日われわれがよく知っている症状を示す病気に変化しているのである。梅毒を引き起こすスピロヘータは、感染者がより長く生きて、菌を周囲にふりまきつづけ、自分の子孫が伝播できるように変化したのである。


銃・病原菌・鉄〈上巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎

銃・病原菌・鉄〈上巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎

  • 作者: ジャレド ダイアモンド
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 2000/10/02
  • メディア: 単行本




・第三世界は個人レベルでは知的であっても、社会レベルでは違う。

・我々は、著名な例に惑わされ、「必要は発明の母」という錯覚におちいっている。ところが実際の発明の多くは、人間の好奇心の産物であって、何か特定なものを作りだそうとして生みだされたわけではない。発明をどのように応用するかは、発明がなされたあとに考えだされている。

・一般大衆が発明の必要性を実感できるのは、それがかなり長いあいだ使い込まれてからのことである。

・中世以降の石油の精製については、19世紀の化学者たちが中間分留物が灯油として役立つことを発見した。しかし、もっとも揮発性の高い分留物(ガソリン)は、使い道がないとして捨てられていた──ガソリンが使われるようになったのは、内燃機関の燃料として理想的だとわかってからのことである。

・アメリカやドイツの都市がとっくの昔にガス灯から電灯に切り替えたあとも、イギリスでは1920年になっても街路照明にガス灯が使われ続けた。それは、ガス灯設備に莫大な投資をおこなっていた地方自治体が、さまざまな規制を設けて、電灯会社の進出を妨害したからである。

・家族主義が主体のニューギニアでは、金を稼ぐ人のところに、養ってもらって当然だと思い込んでいる親族が1ダースも押し寄せてくる。

・愛国者や狂信者が恐ろしいのは、敵を打ち負かし、殲滅させるために、自分たちの一部は死んでもかまわないと思って戦うからである。

・ニューギニアは、世界でも飛び抜けて言語の数が多い地域である。世界に6000ある言語のうち、なんと1000がニューギニアに集中し、数十を超える言語グループに分かれて存在しているのである。そして、それぞれの言語は、英語と中国語の違いに匹敵するほど異なっている。

・オーストラリア先住民は、生きたディンゴを毛布代わりに使ったりもしていた。これが、とても寒い夜を意味する「five-dog night」という言いまわしの由来である。

・オーストラリアの気候は、エルニーニョ・南方振動の影響で、1年周期ではなく、数年周期で不規則に変化する。予測不能の厳しい旱魃が、予測不能の豪雨と洪水をはさんで、何年間か続いたりするのだ。

・軍馬を持っていたヨーロッパ人に対して、アメリカ先住民はそれにかわる軍用動物を持っていなかった。馬は、アメリカ先住民社会がそれを飼育するようになるまで、ヨーロッパ人の側に圧倒的な殺傷力と輸送力をもたらし続けた。

・北アメリカ大陸で、ある程度の規模の先住民社会が生き残っているのは、特別居留地や、北極圏や、合衆国西部の乾燥地帯のような、ヨーロッパの食料生産に不向きな土地や、地下資源の採掘に不向きな土地だけである。

・コーヒー愛好者は、古代エチオピア農民に感謝すべきであろう。エチオピアで栽培化されたコーヒーは、アラブ社会で嗜まれるようになってから世界中に広がり、現在では、ブラジルやパプアニューギニアといった、エチオピアからはるか彼方の国々の経済を支えている。

・人類の長い歴史が大陸ごとに異なるのは、それぞれの大陸に居住した人々が生まれつき異なっていたからではなく、それぞれの大陸ごとに環境が異なっていたからである。

・社会は自分たちより優れたものを持つ社会からそれを獲得する。もしそれを獲得できなければ、他の社会にとってかわられてしまうのである。

・船団派遣の政策を推進していたのは宦官派だったので、敵対派が権力を握ると船団の派遣をとりやめたのである。やがて造船所は解体され、外洋航海も禁じられた。

・政治的に統一されていたために、ただ一つの決定によって、中国全土で船団の派遣が中止されたのである。

・ヨーロッパに何百人もいた王侯の一人をコロンブスが5回目にして説得できたのは、ヨーロッパが政治的に統一されていなかったおかげである。

・政治や技術の分野において、中国が自分たちよりも遅れていたヨーロッパにリードを奪われてしまった理由を理解することは、すなわち、中国の長期にわたる統一とヨーロッパの長期にわたる不統一の理由を理解することになる。

・中国では、地域の地理的結びつきが強かったことがかえって逆に作用し、一人の支配者の決定が全国の技術革新の流れを再三再四止めてしまうようなことが起こった。これとは逆に、分裂状態にあったヨーロッパでは、何十、何百といった小国家が誕生し、それぞれに独自の技術を競い合った。一つの小国家に受け容れられなかった技術も別の小国家に受け容れられた。

・肥沃三日月地帯と中国の歴史は、現代の我々に有益な教訓を示している──環境は変化するものであり、輝かしい過去は輝かしい未来を保証するものではない。

・現代という時代にあっても、新しく台頭して力を掌握できる国々は、数千年の昔に食料生産圏に属しえた国々である。あるいは、そういうところに住んでいた人々を祖先に持つ移民が作った国々である。

・科学者たちは、自分たちと同じ方法論が通用せず、他の方法論を探さなければならない分野の学問を蔑視する傾向がある。


銃・病原菌・鉄〈下巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎

銃・病原菌・鉄〈下巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎

  • 作者: ジャレド ダイアモンド
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 2000/10/02
  • メディア: 単行本



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