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『ストーリーとしての競争戦略』 [☆☆]

・昔から「儲け話」というように、戦略とは面白い「お話」をつくるということなのです。

・昔の新聞をめくってみれば明らかなのですが、この数十年間、新聞上で「激動期」でなかったときはついぞありません。新聞はいつの時代も「今こそ激動期!」です。「これまでのやり方は通用しない」と何十年間も毎日毎日言い続けているわけです。

・受注生産時代のモーターは典型的な多品種少量生産でした。モーターを特定少数のモデルに標準化すれば、これまでの少量生産のくびきから解放されて大量生産が可能になるだろう。こういうストーリーが構想されたのです。

・中国企業へのアウトソーシングが他社にとっても可能であるとすれば、自社生産と比べてコストが下がったとしても、競争相手に差をつけることにはなりません。

・いろいろな会社の工場が集まっている工業団地に出てしまうと、作業者が他の工場に転職してしまう可能性があります。そこでマニーは、周りに工場が一つもないような場所を長い時間をかけてゼロから切り拓き、その周囲に住む人々を採用するのです。従業員は地元で働けますし、周りに他の工場もないので転職するインセンティブを持ちません。

・私は32社が競争する携帯電話や15社が競合するノートPCのような世界は好きではない。「どうやって戦うか」よりも「どこで戦うか」を重視する考え方です。

・買い手の交渉力が強い場合、その業界の利益機会は小さくなります。「お客様は神様」ではなく、交渉を通じて利益を取り合っている「敵」ということになります。

・交渉力の「弱いお客」が潜在的な利益をもたらす「良いお客」なのであって、「強いお客」は必ずしも良いお客ではありません。

・エンドユーザーは患者さんですが、彼らには専門知識がありませんので、お医者さんの意思決定に従順です。製薬業界の買い手にはさらにもう一つのプレイヤー、「支払者」がいます。エンドユーザーは患者さんですが、実際に大半の費用を負担するのは政府(もしくは保険会社)です。つまり、普通の業界と違って、意思決定者と使用者と支払者、この三者が分かれているということが買い手の交渉力を小さくし、製薬業界を儲かりやすくしているわけです。

・気合と根性が大切だということはもちろん否定しません。しかし「大切にする」と「依存する」ではまるで違います。気合と根性に寄りかかったリーダーからは、戦略は出てきません。

・「天国に行くための最良の方法は、地獄に行く道を熟知することである」というのは天才的な政治学者マキャベリの言葉です。

・ソニーの製品開発は総花的な展開に傾きがちです。「何をやらないか」がはっきりしていないために、限られた経営資源が分散してしまい、思い切った投資のタイミングを外し、苦戦を強いられている。

・日本では同様のおいしいポジションをヤフー・オークションが先に握ってしまったので、アメリカでは大成功したイーベイも、日本ではすぐに撤退してしまいました。

・ニッチ企業が利益を獲得できる論理は無競争にしかありません。無競争状態を維持することが戦略のカギになります。そのために何ができるかといえば、要するに「売れるだけ売らない」ということです。絶対に成長をめざさない。

・マブチの営業の果たすべき役割は、モーターを売ることではなく、市場が求めているモーターの開発部門にフィードバックすることにあります。技術部門の開発担当者と会って、モーターに求める最も重要な機能や仕様は何かを知る。その情報を受けて開発すべきモーターのスペックを設定し、こういうスペックの標準モーターを開発すれば10社のうち7~8社はカバーでき、そのときの売上とシェアの見込みはこうなる……、という標準化に向けたマーケティングをするのが営業の役割です。

・「起」がきちんとしていなければ、「承転結」にどんなに工夫を凝らしても、筋の良い話にはなりません。

・ブックオフは「誰に」価値を提供しようとしているのでしょうか。中古品を安く便利に買おうとする人ではありません。いらないモノを捨てたくない人、「買って使って捨てる」というライフスタイルを格好悪いと思っている人。

・黄金時代のデパートが本当のところ売っていたのは「家族で半日楽しめる行楽地」だった。

・要するに、デパートはかつての行楽地の最右翼としての価値を徐々に失っていったのです。このことが衰退の最大の理由である。

・コンビニは「自分の部屋の延長」であり、このことがコンビニにユニークな消費を起こさせている。つまりヘビーユーザーにとってのコンビニは、「お店」というより、飲み物や食べ物がぎっしり詰まった冷蔵庫もあれば、最新の雑誌が満載の本棚もある「自分の部屋」だというわけです。

・もともと日本人は購買の意思決定が文脈依存的で、モノを買うときにリレーションを重視しがちです。成熟した消費社会では、購買の文脈依存はますます増大するはずです。

・「誰に嫌われるか」をはっきりさせる、これがコンセプトの構想にとって大切なことの二つ目です。ターゲットを明確にするということは、同時にターゲットでない顧客をはっきりさせるということでもあります。

・ターゲット顧客から徹頭徹尾喜ばれるということは、ターゲットから外れる顧客にはっきりと嫌われるということです。人間でも同じです。誰かに非常に愛されている人は、誰かから嫌われているものです。

・競争相手による「意識的な模倣の忌避」という理論です。競争相手がわれわれのしていることを非合理だと考えていれば、たとえ「まねしてください」とお願いしても「イヤだよ」と向こうから断ってくるでしょう。

・地方に行くほど過激になるのよ。いくらコギャルでも、全体のコーディネートでメリハリが利いていないと格好悪い。雑誌とかで研究していきなりコギャルをやろうとすると、基礎ができていないから、さじ加減がめちゃくちゃになる。ヘアスタイルやメイクから洋服まで全部派手にしたほうが格好良いと思って、暴走しちゃうのね。それって、ありがちだから……。

・ガリバーの実際の収入源はオークションでの売却です。ここがガリバーの面白いところで、ガリバーは既存の中古車業者と競争している面も確かにあるのですが、他方ではより新鮮なタマを数多く集めて供給してくれる存在として、既存の中古車業者にとって重要なチャネルにもなっているのです。

・「誰からも愛される」というのは「誰からも愛されない」のと同じです。誰かに本当に必要とされるためには、誰かに嫌われなくてはなりません。八方美人は禁物です。

・「言われたら確実にそそられるけれども、言われるまでは誰も気づいていない」、これが最高のコンセプトです。

・資源が潤沢な(つもりになっている)「強者」は、戦略にとって不可欠な弱者の論理を忘れ、緩い因果論理でストーリーを組み立てがちです。

・ストーリーが緩くなる典型的なパターンが、特定の「飛び道具」や「必殺技」に寄りかかってしまうという症状です。

・ボランティアとしてオープンソース・ソフトウェアの開発に参加するのは、次ぎの二つの理由があるからです。第一に、オープンソース・ソフトウェアの開発に参加し、ソフトウェアの改善に貢献することが、エンジニアとして知的に挑戦的で面白い。第二に、自分がふだんユーザーなので、ソフトの品質が改善されれば自分の仕事もやりやすくなる。

・思わず人に伝えたくなる話。これが優れたストーリーです。逆にいえば、誰かに話したくてたまらなくなるようなストーリーでなければ、自分でも本当のところは面白いと思っていないわけです。



ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)

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  • 作者: 楠木 建
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2010/04/23
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