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『スギハラ・ダラー』 [☆☆]

・運命の糸を手繰り寄せるのは、知性などではない。磨き抜かれた勘である。

・ダイヤモンドとサファイヤもまた、遠くに暮らす縁戚より頼りになる。

・牙を持たない者は耳をじっとそばだてて生きのびる他に術はない。

・おびただしい情報の海から、事実の断片を拾いあげ、想像力の限りを尽くしてその意味を読み抜き、全体像を描き出していった。その果てに彼らの眼前に現われた世界の実像は眼を背けたくなるほど醜悪だったが、その現実を直視できた者だけが生き残っていった。

・旅先で集めた様々なコインは、それぞれの国の思い出を刻んだ通行証だ。

・その時々の政治や経済の情勢を映して、各国通貨の価格は刻々と変化する。そんな国際政局を的確に読み解きながら、人々はその通貨の価値を先取りし、将来性に富む通貨に貴重な資金を投じるのだった。

・凡庸な者たちに警鐘を鳴らすことほど危ういわざはない。彼らは自らの想像力の乏しさを識らず、警告してくれた者を狼少年に仕立てあげてしまう。

・現物が存在する農畜産物の先物取引と違って、現物がこの世に存在しない株価指数の先物商品は、純粋に投資家のために産みだされたといえる。

・優れたインテリジェンス・オフィサーの資質は、聞きとった会話の再現率に帰着する。

・シグナルは災厄が起きた後なら誰でも聞き分けることができる。だが、突発事件を起きる前には、思い込みというノイズのなかに埋もれてしまうのだ。

・いくら正確なシグナルを発しても、凡庸な者はノイズに惑わされる。

・紳士たるもの、陸上トラック以外では、決して走ってはいけない。

・先物取引とは、将来の一定の期日内に商品を受け取る権利を売買するディールである。その場で実物の受け渡しをしないため、一定の証拠金を担保に積めば、手持ち資金の数倍、時には数十倍の取引が可能となる。

・経済学界の異端児と呼ばれてきたこの学者の辞書には、「突拍子もない」という形容詞はそもそも存在しないのだろう。

・粋は江戸っ子の命にして、野暮は悪。

・常識では到底ありえないというケースこそ要注意なのだ。重大な事件につながる端緒を常識が邪魔して見逃してしまう。

・一種の偽書なのです。『ヨハネ黙示録』を繙いてみるといい。その前半では、選ばれし民に襲いかかるであろう数々の苦難をものの見事に言い当てている。だが、それは災厄が起きてしまった後に綴った偽書にほかならない。そう、世間で言うところの後知恵の書なのだよ。

・有力な情報機関には、日々、膨大な情報が世界中から洪水のように流れ込んでくる。些細な雑音に拘っている者は、官僚機構の熾烈な競争から取り残されて、あっという間に傍流に追いやられてしまう。

・ふとした偶然から、意義のある発見をする能力、それをセレンディピティと呼んで、秀逸な造語を生んだのです。優れた作家は学んだ言語で物語を綴るだけでは満足できないのでしょう。結局、新しい言葉を創りだしてしまう。作家の業なのですね。

・ユダヤ人の収容者から選ばれた監視役「カポー」は、ゲシュタポより身内に残忍だった。

・名作のたんなるコピーなのではない。あの巨匠なら独特のタッチでこんな構図の絵を描くだろうという作品群が並んでいた。

・真作は全て銀行の防火金庫に預け、自宅には偽物を飾って鑑賞するといったケチな金持ちとは訳がちがう。

・情勢が酷烈であればあるほど、その組織は試練に耐え抜き逞しくなっていく。それは強力な抗生物質に抗って、より強い耐性を備える新型ウィルスを思わせた。

・かくも興奮して騒ぎ立てた自分を深く恥じ入るところがいいわ。いたずらに騒ぎ立てるのは、わが弱みを見せることに他ならない――と。そんな柔な自分を他人に見せなかったことこそ、わが成功の秘訣と自らを説得する。

・いまこうして戦っている相手は男ばかりだ。あの連中にとって私はか弱い女でしかない。ならば、女として戦おう。わが力の源はおのが弱さのなかに在る。

・ユダヤ人は、偶像崇拝を禁じられているから、却ってモノの蒐集に異常なまでに執着する。禅の坊主は俗界の金に塗れてしまうことが珍しくない。おおかたの世捨て人には心せよ、衣は着ても狐なりけり――。



スギハラ・ダラー

スギハラ・ダラー

  • 作者: 手嶋 龍一
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/02/26
  • メディア: 単行本



タグ:手嶋龍一
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