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『ファスト&スロー』 [☆☆]

・私たちはお互いに容易に理解できる程度には似ていたが、お互いに相手を驚かせる程度には違っていた。

・いつも頼りにはなるが、基本的には他人には関心がなく、現実の世界にも興味がないらしい。

・人間は記憶から容易に呼び出せる問題を相対的に重要だと評価する傾向があるが、この呼び出しやすさは、メディアに取り上げられるかどうかで決まってしまうことが多い。

・私たちが毎日発揮している直感的能力は、経験豊富な消防士や医者の驚くべき直感に優るとも劣らないのだ。ただ、ありふれているというだけである。

・直感的思考というマシンは自分にできる最善のことをする。しかるべき専門知識を持ち合わせているなら、状況を認識したうえで頭に浮かぶ直感的な解決策はおおむね正しいだろう。複雑な局面を目にしたチェスの名人に起きるのは、まさにこれである。

・「私はフォード株を買うべきか」は難しい。だが、もとの問題と関係はあるがより簡単な質問「私はフォードのクルマが好きか」になら、すぐに答は出せる。これが、近道探しをする直感的なヒューリスティックの本質である。困難な問題に直面したとき、私たちはしばしばより簡単な問題に答えてすます。

・二つの自己とは、現在を経験する自己と過去を記憶する自己であり、両者の利害は必ずしも一致しない。

・「注意を払う」とよく言うが、これはまさに当を得た表現である。というのも、注意は限度額の決まった予算のようなものだからだ。この予算はさまざまな活動に配分できるが、予算オーバーは失敗につながる。

・注意力が限られていることは誰もがある程度は気づいており、限界を超えないよう社会的な配慮をしている。たとえば狭い道路でトラックを追い越すときには、大人の同乗者なら気を効かせ、運転者に話しかけるのをやめる。

・システム1は、印象、直感、意志、感触を絶えず生み出してはシステム2に供給する。システム2がゴーサインを出せば、印象や直感は確信に変わり、衝動は意志的な行動に変わる。

・システム2の仕事の一つは、システム1の衝動を抑えることである。言い換えれば、システム2はセルフコントロールを任務にしている。

・フロー状態になってしまえば、この活動に完全にのめり込むので、注意力の集中を維持するのに何らセルフコントロールを必要としない。したがって、この仕事から解放されたリソースを目の前のタスクにだけ振り向けることができる。

・今やっていることがうまくいくだろうかと心配しすぎると、実際に出来が悪くなることがある。これは、余計な心配で短期記憶に負荷をかけるからだ。

・知識というものは、必ずしも知っているか知らないかのどちらか、というわけではない。事実を知ってはいても、必要とするときに出てこないことはめずらしくない。

・一般に頭のいい人は、たいていのことをよく覚えている可能性が高い。知能とは論理思考をする能力だけでなく、記憶の中から役に立つ情報を呼び出し、必要なときに活用する能力でもあるからだ。

・プライミングの研究は、老人を想起させると歩く速度がゆっくりになる、という初期の実験からずいぶん遠くまできたものである。いまでは、プライミング効果が日常生活のあらゆる場面に入り込んでいることがわかっている。

・プライミングに関する研究データは、国民に死を暗示すると、権威主義思想の訴求力が高まることを示唆している。死の恐怖を考えると、権威に頼るほうが安心できるからだ。

・誰かに嘘を信じさせたいときの確実な方法は、何度も繰り返すことである。聞き慣れたことは真実と混同されやすいからだ。独裁者も広告主も、このことをずっと昔から知っていた。

・自分を信頼できる知的な人物だと考えてもらいたいなら、簡単な言葉で間に合うときに難解な言葉を使ってはいけない。ありふれた考えをもったいぶった言葉で表現すると、知性が乏しく信憑性が低いとみなされる。

・単純接触効果が起きるのは、刺激に反復的に接していても何も悪いことが起きなかったためだ。こうした刺激はやがて安心を示す信号となる。そして安全はいいことだ。

・幸せな気分のときは、システム2のコントロールがゆるむ。ご機嫌だと直感が冴え、創造性が一段と発揮される一方で、警戒心が薄れ、論理エラーを犯しやすくなる。上機嫌なのは、ものごとがおおむねうまくいっていて、周囲の状況も安全で、警戒心を解いても大丈夫だからである。

・私たちがいま知っていることの大半は、3、40年前だったらSFのように聞こえたことだろう。

・二つの正反対の結果を一つの理由で説明できる文章には、何の意味もない。

・システム1は騙されやすく、信じたがるバイアスを備えている。疑ってかかり、信じないと判断するのはシステム2の仕事だが、しかしシステム2はときに忙しく、だいたいは怠けている。

・ストーリーの出来で重要なのは情報の整合性であって、完全性ではない。むしろ手元に少ししか情報がないときのほうが、うまいことすべての情報を筋書き通りにはめ込むことができる。

・手持ちの情報の量や質は主観的な自信とは無関係である。自信を裏付けるのは、筋の通った説明がつくかどうかであり、ほとんど何も見ていなくても、もっともらしい説明ができれば人々は自身たっぷりになる。

・政治に疎くテレビ好きの有権者は、政治に詳しくテレビをあまり見ない有権者の3倍も、「顔の印象に基づく能力」に影響されやすい。

・ヒューリスティクスの専門的な定義は、「困難な質問に対して、適切ではあるが往々にして不完全な答えを見つけるための単純な手続き」である。ヒューリスティクスという言葉は、「見つけた!」を意味するギリシャ語のユーレカを語源に持つ。

・あるかどうかもわからない原因を求めて行き当たりばったりの調査をするのは意味がない。

・私は交渉術のクラスで、次のように教えている。相手が途方もない値段を吹っかけてきたと感じたら、同じように途方もない安値で応じてはだめだ。値段の差が大きすぎて、交渉で歩み寄るのは難しい。それよりも効果的なのは、大げさに文句を言い、憤然と席を立つか、そうする素振りをすることだ。そうやって、そんな数字をもとにして交渉を続ける気はさらさらないことを、自分にも相手にもはっきり示す。

・あなたにもできることはある。何らかの数字が示されたら、それがどんなものでもアンカリング効果をおよぼすのだ、と肝に命じることである。

・感情ヒューリスティックは置き換えの一種であり、難しい質問(それについて自分はどう考えるか?)の代わりに、やさしい質問(自分はそれを好きか?)に答えている。

・リスク評価は計測方法次第で変わってくるのであり、その計測方法の選択は、結果の選好やその他の事情に左右される可能性がある。したがって、「リスクを定義することは権力を行使することにほかならない」。

・私たちはリスクを完全に無視するかむやみに重大視するかの両極端になり、中間がない。

・「次の大物」を探し求めているベンチャーキャピタリストにとっては、次のグーグルやフェイスブックを見落とすリスクは、最終的に倒産する平凡なスタートアップに投資してしまうリスクよりもはるかに大きい。一方、安全志向の銀行が大型の融資をするときには、融資先が1社でも倒産するリスクのほうが、きちんと返済する優良顧客を見逃すリスクよりも大きいだろう。

・人間の脳の一般的な限界として、過去における自分の理解や状態や過去に持っていた自分の意見を正確に再構築できないことが挙げられる。新たな世界観をたとえ部分的にせよ採用したとたん、その直前まで自分がどう考えていたのか、もはやほとんど思い出せなくなってしまうのである。

・ことが起きる前は慎重だと思えた行動が、ことが起きてからは得てして無責任で怠慢に見えたりする。

・結果が重大であるほど、後知恵バイアスは大きくなる。

・ワシントン・ポスト紙の伝説的な編集者ベン・ブラッドリーは、「歴史を変えるような情報を入手した場合には、ただちに大統領にも伝えるのが基本中の基本だと私には思える」と言ったものである。だが7月10日の時点では、この断片的な情報が歴史を変えることなど誰も知らなかったし、知る由もなかった。

・消費者が飢えているのは、企業の成功と失敗を明快に一刀両断してくれる説明であり、原因がわかった気にさせてくれる物語なのだ。たとえそれが幻想であろうとも。

・うまくいっている企業のCEOは、臨機応変で理念と決断力があるように見えるのである。しかし1年後にその企業が落ち目になっていたら、同じCEOが支離滅裂で頑固で独裁的だとこきおろされるにちがいない。どちらの評価も、その時点ではもっともだと思える。

・1日のうちに同じ銘柄が1000万株以上売り買いされることもめずらしくない。売り手を買い手の大半は同じ情報を持っているはずであり、それでもなお取引が成立するのは、彼らがちがう意見を持っているからである。買い手は、いまは安すぎるからこれから上がると考える。売り手は、高すぎるから下がると考える。

・市場に出ている資産がすべて正しく値付けされているとしたら、売っても買っても誰も得も損もしない。完璧な値付けがされている場合、知恵を働かせる余地はないが、ばかげた失敗をして破滅することもない。

・あなたが真剣に最高の人材を雇いたいと考えているなら、やるべきことはこうだ。まず、仕事で必須の適性(技術的な理解力、社交性、信頼性など)をいくつか決める。欲張ってはいけない。6項目がちょうどよい。次に、各項目について質問リストを作成し、採点方式を考える。五段階でもよいし、「その傾向が強い、弱い」といった評価方式でもよい。応募者の最終評価は、各項目の採点を合計して行う。合格点が最も高い応募者を採用すること。ほかに気に入った応募者がいても、そちらを選んではいけない。



ファスト&スロー (上): あなたの意思はどのように決まるか?

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  • 作者: ダニエル・カーネマン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/11/22
  • メディア: 単行本



ファスト&スロー (上)

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  • 発売日: 2012/11/22
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・中東の専門家はその地域について多くの知識を持っているにちがいないが、だからといって未来を知っているわけではない。

・およそ請負事業者というものは、当初計画を途中でグレードアップさせることによって、もうけの大半をひねり出す(と、彼らは顧客のいないところで認めている)。

・経済学者が定義する合理的経済人はエコン類(Econs)と呼ぶべき別人類であって、ヒューマンではないと揶揄している。

・意思決定の研究者にとっての単純なギャンブル(たとえば40%の確率で300ドル手に入る)は、遺伝学者にとってのショウジョウバエに相当する。

・理論が世に認められるためには、有意義で現実的な仮説であるというだけでは十分ではない。研究者がツールとして実際に活用できる理論でなければだめだ。よほど役立つものでない限り、研究者は重いツールを使いたがらない。

・貧しい人には、必要にもかかわらず手に入らない品物がたくさんあるため、常に「損をしている」状態にある。このような状態では、わずかなお金を受け取っても「損が減る」だけで、得をするとは認識されない。

・0%→5%に上がるのは、それまで存在しなかった可能性が存在するようになることを意味する。これは、質的な変化である。これに対して5%→10%は、量的な変化にすぎない。

・彼らは市民を不安に陥れようとしている。だから、1000人に1人は死ぬなどと言うのだ。分母の無視の効果を活用しているんだよ。

・論理的一貫性という理想は、私たちの限られた思考力ではとうてい実現できない。そもそも私たちは「見たものがすべて」と考えやすく、頭を使うことを面倒くさがる傾向がある。

・次の呪文を唱えるなら、大きな金銭的見返りを手にできるだろう。それは、「小さく勝って小さく負ける」という呪文だ。この呪文の通りにすれば、経済的合理性に近づくことができる。呪文を唱える最大の目的は、負けたときの感情反応をコントロールすることにある。

・自分の投資の成り行きをチェックする回数を減らせば、時間の無駄も苦痛も減らすことができる。日々の相場の変動をのべつチェックするのは苦痛が大きい。小さな損失をひんぱんに被る苦痛は、同程度の小さな利得をひんぱんに味わう喜びを上回るからだ。個人投資家の場合、四半期に一度見直せば十分だろう。

・あらゆるリスクの増加は絶対に認めないという「トレードオフのタブー視」は、安全のための予算を有効活用する賢い方法とは言えない。それに実のところ、トレードオフへの抵抗は、子供の安全を最適化したいという願いよりも、あとで後悔したくないという利己的な恐れに動機づけられている場合が少なくない。

・労働安全規則の「重大な違反」に対する罰金は上限が7000ドルだが、野鳥保護法の違反は2万5000ドルである。罰金の上限は、その行政機関が設定する他の処分に対しては適性だが、他の行政機関と比べると甚だしく不釣合いである。

・1ガロン当たりのマイル数というフレームは間違っている。走行距離1マイル当たりのガロン数を指標にしなければならない。

・この人は、40分におよぶ長い交響曲をうっとりと聴いていた。ところが曲の最後のほうでCDに傷があったらしく、ひどく耳障りな大きな音がした。そこで、「せっかく楽しんでいたのにぶち壊しになった」というのだ。だが経験が実際に壊されたわけではない。壊れたのは記憶だけである。経験する自己はほぼ完璧な経験をしたのであり、最後がいくら悪くても、すでに起きた経験を打ち消せるわけではない。

・経験と記憶を混同するのは、強力な認知的錯覚である。これは一種の置き換えであり、すでに終わった経験も壊れることがありうる、と私たちに信じ込ませる。経験する自己には発言権がない。

・愛する娘と何年も疎遠になっていた母親が死んだと聞いたとき、私たちは、死を前にして二人は和解したとよいが、と感じる。他人のことを気にかけるときには、その人たち自身の感情よりも、物語の質を心配することが多い。

・写真を撮る人は、その瞬間を堪能するために景色を見るのではなく、あとから思い出すために見るのだ。たしかに写真は、「記憶する自己」にとっては役に立つかもしれない。とはいえ私たちは撮った写真をあとでまじまじ見ることなどめったにないし、思ったほどひんぱんに取り出して見るわけでもない。いや、撮るだけ撮って全然見ないことさえある。必ずしも写真撮影は、「経験する自己」が旅行を味わうための最善の方法とは言えない。



ファスト&スロー (下): あなたの意思はどのように決まるか?

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  • 作者: ダニエル・カーネマン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/11/22
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ファスト&スロー (下)

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